初対面の不愛想な騎士と、今日結婚します

絹乃

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番外編

5、お庭で夕食【1】

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 夏の夕暮れは遅く、空の高いところはすでに夜の色に染まっているのですが。低いところにある雲は、薄紫や藤色に美しく染まっています。
 
「せっかくだから、庭で食おうか」
「うん。カーリンがはこぶよ」

 カーリンは、熱いお鍋に手を伸ばそうとしたので、わたしは慌てて彼女の体を抱きかかえました。

「駄目ですよ。鉄鍋は重いんです。足に落として大やけどをしますよ」
「でも、カーリンはお母さまより力持ちよ」

 カーリンは愛らしく唇を尖らせます。
 わたしより力があるのは言いすぎですけど。でも、確かにカーリンはわたしよりもしっかりしているかも。

「お母さまも力はあるのよ」と言いながら、わたしはカーリンを抱っこしました。
 
 う、重い。この間までちゃんと抱っこできたのに。今はほんの少し、カーリンの足が床から離れる程度です。
 
「カーリンね、いつもお父さまとみずうみのまわりを走ってるの」
「そ、そうね。だから元気なのね」
「このあいだね、大きなクマに会ったのよ」

 熊? そんな物騒な猛獣が町に出たらおおごとよ?
 不安に思っていると、エルヴィンさまが「違う違う」と仰いました。

「うちの騎士団のフォンスだよ。団長の弟だから、兄貴にそっくりで。あれはカーリンから見れば、確かに熊だな」
「くまちゃんよ。かわいいの」

 えー? 団長にそっくりの人って、可愛いですか?
 わたしとエルヴィンさまは顔を見合わせました。

◇◇◇

 確かに湖畔を走り込んでいる時に、たまにではあるが団長とフォンスに会うことがあるな。
 あの二人も体力維持の為だろうな。
 俺は、カーリンの目の高さに合わせるためにしゃがみこんだ。

「あのな、カーリン。あの人は人間なんだ」
「うそ? おしゃべりできる、おりこうなくまちゃんじゃないの? だって、みずうみに入って、おさかなを手でとったよ」

 魚ってそれかよ。フォンス、あんた何をしてるんだ。

「それでね、カーリンにおさかなをくれたの。やいて食え、だって」

 生魚……。女の子にあげる贈り物としては最低だ。
 俺も相当に不器用だし、朴念仁だが。たとえ相手が幼女であれ、手づかみの魚をプレゼントすることはない。

「その魚、どうしたんだ? カーリンも魚を握りしめて帰って来たのか?」
「ううん。くまちゃんが魚を草でむすんでくれたの。それでね、リタがやいてくれたの。おしおをふってね、おいしかったよ」

「そういえば、いつだったかカーリンがおやつに魚を食べていたわ。変わったものをリタさんはおやつに出すのねぇ、と思っていたの。体にいいのかしらって」

 マジか。レナーテといいリタといい、どうして子どもが生魚を持って帰ってきたことを不思議に思わないんだ。
 あとフォンス。いくら相手が子どもとはいえ、女の子なのだから。プレゼントは生魚ではなく、野の花くらいにしておけ。

 俺が鍋つかみを持ち、煮込み料理の入った鋳鉄の鍋を運ぶと、レナーテはパンと杏、サラダに飲み物を用意した。

「お母さま、おさらもいるよ。コップも」
「そうね、カトラリーもね。じゃあ割れると危ないから、わたしが持つわ」
「へいきー」

 本当かなぁ。
 二人はそれぞれ籠に食器や食べ物を詰め込んで、重そうに運び始めた。
 
 レナーテは家でレース編みの仕事をしているから、学生の頃よりも日に灼けなくなり、さらに色が白くなっている。
 母親になると、どっしりとするのかと思っていたが。レナーテの場合は、さらに儚くなったように思える。
 多分、彼女のレース編みが人気で忙しいからだろうな。

「レナーテ、いいかい? 俺は明日から夏の休暇だが。君もちゃんと休暇をとるんだぞ」
「はい。もう納品しましたよ」

 それで、最近はずっと夜更かしをしていたのか。
 ちゃんと休むためには、事前の仕事が増えるのはどんな職でも同じか。
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