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一章
29、ウサギ林檎は大事
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気づけば、わたしはエルヴィンさまの隣で眠っていました。
ちゃんとワンピースに似た形の、生成りの寝間着を着ています。
いつ着替えたのかしら。上体を起こして見ると、ボタンが掛け違えられていました。
これ、エルヴィンさまが着せてくださったんだわ。
足を動かそうとした時、体の奥に鈍い重さを感じました。
そうよ、そうだわ。わたし、エルヴィンさまに愛撫されて。それで、何度も彼の手で達して。
まだ日が暮れきっていない宵から、一体どれくらいの時間愛されていたのでしょう。覚えていません。
「ああ、レナーテ。目が覚めたか」
「お、おはようございます」
あまりの恥ずかしさに慌てて顔を背けましたが。横になったままのエルヴィンさまに腕を掴まれました。そして、そのまま彼の胸に倒れ込んだのです。
硬い胸、寝間着の布地を通してもそれが伝わってきます。
うう、どうしましょう。わたし、あんなにも乱れてしまって。
「結局、夕食を食べ損ねたな。仕方ない、今から食うか」
「わたし、あれが食べたいです」
「ん? 言ってごらん。家にないのなら買いに行くぞ」
大きな手が、彼の胸にもたれたわたしの頭を撫でてくださいます。
「林檎です。ウサギの」
「おいおい。それはどうかと思うぞ。大体レナーテはあの林檎を食べすぎる。ちゃんとした栄養が取れないだろ」
でも、林檎は体にいいんです。そう言おうとしたのに、エルヴィンさまの指で唇を塞がれました。
「あれは食後だ。君が朝食を食べ終わったら剥いてあげよう」
「約束ですよ」
「お、おう。そこまで重大か。レナーテは本当に林檎が好きなんだな」
「あら。エルヴィンさまが、わたしの為にウサギの形に剥いてくださるから、大好きなんです」
素直に言葉にすると、なぜかエルヴィンさまはご自分の口許を手で押さえてしまわれました。
「あんまり可愛いことを言わないでくれ……」
どうして? と思いエルヴィンさまの顔を覗きこむのですが、横を向いてしまいます。
わたしは、ぐいっと身を乗り出してさらに見上げました。
あら。耳まで真っ赤ですよ。
「ふふっ、エルヴィンさまは初心なんですね」
「待て待て、どの口がそれを言うんだ」
他愛のない話をしていると、羞恥心が薄らいできます。いえ、エルヴィンさまは今、恥ずかしさの真っ最中のようですけど。
わたしは、散々恥ずかしい姿を見せたのですから。今はエルヴィンさまが恥ずかしがってください。
朱に染まる頬をつんっと指でつつきます。
「エルヴィンさま、可愛い」
「ほんと、やめような。レナーテ」
エルヴィンさまの声は、掠れていました。
◇◇◇
というわけで、俺はせっせと林檎のウサギを量産した。
レナーテが、夕食用に用意されていた野菜のスープと、ほろほろになるまで煮込んだ肉料理をちゃんと食べ終えたからだ。
彼女が皿を洗っている間に、俺は林檎を剥いた。
慣れてきたせいか、今は林檎を木の葉のようにも切れるし、その応用で白鳥も作れてしまった。
意外と自分の手先が器用なことを、今日知った。
しかも林檎も赤や緑、黄色など皮の色で雰囲気が違ってくる。
レナーテは、濡れた手を拭きながらウサギと白鳥を見て、目を輝かせた。
「さすがは副団長です」
「いや。別に団長になると、もっと高度な林檎の飾り切りができるとか、そういう訳ではないからな」
ああ、そんな煌めく瞳で見つめないでくれ。もっと様々な技術を習得してしまいそうになるじゃないか。
「こんな可愛い林檎、子どもが喜びそうですね」
「子どもというか。レナーテ、君が」
そう言いかけてはっとした。
子ども……俺とレナーテの子どもか。
ちゃんとワンピースに似た形の、生成りの寝間着を着ています。
いつ着替えたのかしら。上体を起こして見ると、ボタンが掛け違えられていました。
これ、エルヴィンさまが着せてくださったんだわ。
足を動かそうとした時、体の奥に鈍い重さを感じました。
そうよ、そうだわ。わたし、エルヴィンさまに愛撫されて。それで、何度も彼の手で達して。
まだ日が暮れきっていない宵から、一体どれくらいの時間愛されていたのでしょう。覚えていません。
「ああ、レナーテ。目が覚めたか」
「お、おはようございます」
あまりの恥ずかしさに慌てて顔を背けましたが。横になったままのエルヴィンさまに腕を掴まれました。そして、そのまま彼の胸に倒れ込んだのです。
硬い胸、寝間着の布地を通してもそれが伝わってきます。
うう、どうしましょう。わたし、あんなにも乱れてしまって。
「結局、夕食を食べ損ねたな。仕方ない、今から食うか」
「わたし、あれが食べたいです」
「ん? 言ってごらん。家にないのなら買いに行くぞ」
大きな手が、彼の胸にもたれたわたしの頭を撫でてくださいます。
「林檎です。ウサギの」
「おいおい。それはどうかと思うぞ。大体レナーテはあの林檎を食べすぎる。ちゃんとした栄養が取れないだろ」
でも、林檎は体にいいんです。そう言おうとしたのに、エルヴィンさまの指で唇を塞がれました。
「あれは食後だ。君が朝食を食べ終わったら剥いてあげよう」
「約束ですよ」
「お、おう。そこまで重大か。レナーテは本当に林檎が好きなんだな」
「あら。エルヴィンさまが、わたしの為にウサギの形に剥いてくださるから、大好きなんです」
素直に言葉にすると、なぜかエルヴィンさまはご自分の口許を手で押さえてしまわれました。
「あんまり可愛いことを言わないでくれ……」
どうして? と思いエルヴィンさまの顔を覗きこむのですが、横を向いてしまいます。
わたしは、ぐいっと身を乗り出してさらに見上げました。
あら。耳まで真っ赤ですよ。
「ふふっ、エルヴィンさまは初心なんですね」
「待て待て、どの口がそれを言うんだ」
他愛のない話をしていると、羞恥心が薄らいできます。いえ、エルヴィンさまは今、恥ずかしさの真っ最中のようですけど。
わたしは、散々恥ずかしい姿を見せたのですから。今はエルヴィンさまが恥ずかしがってください。
朱に染まる頬をつんっと指でつつきます。
「エルヴィンさま、可愛い」
「ほんと、やめような。レナーテ」
エルヴィンさまの声は、掠れていました。
◇◇◇
というわけで、俺はせっせと林檎のウサギを量産した。
レナーテが、夕食用に用意されていた野菜のスープと、ほろほろになるまで煮込んだ肉料理をちゃんと食べ終えたからだ。
彼女が皿を洗っている間に、俺は林檎を剥いた。
慣れてきたせいか、今は林檎を木の葉のようにも切れるし、その応用で白鳥も作れてしまった。
意外と自分の手先が器用なことを、今日知った。
しかも林檎も赤や緑、黄色など皮の色で雰囲気が違ってくる。
レナーテは、濡れた手を拭きながらウサギと白鳥を見て、目を輝かせた。
「さすがは副団長です」
「いや。別に団長になると、もっと高度な林檎の飾り切りができるとか、そういう訳ではないからな」
ああ、そんな煌めく瞳で見つめないでくれ。もっと様々な技術を習得してしまいそうになるじゃないか。
「こんな可愛い林檎、子どもが喜びそうですね」
「子どもというか。レナーテ、君が」
そう言いかけてはっとした。
子ども……俺とレナーテの子どもか。
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