初対面の不愛想な騎士と、今日結婚します

絹乃

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一章

21、風呂に入ろう【1】

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 風呂を沸かす釜は、裏庭にある。薪ストーブを筒型にしたような形の、鋳鉄製だ。
 夕方の柔らかな日差しが、レナーテの白いワンピースを薄紫色に染めている。
 しかも彼女は薪を一本ずつ両手で掴んで、俺に差し出してくる。

 毎回「はい、どうぞ」と笑顔を浮かべながら。
 レナーテ、君は自分が可愛いことを知らないのか? さっきまでほぼ俺に襲われていた状態だったんだぞ。
 なのに屈託のない清らかな表情で……ああ、もう駄目だ。
 愛おしすぎる。
 本当に自制が効かなくなりそうだ。

 きっとレナーテは俺を拒んだりはしないだろう。昨夜は緊張して、泣いてはいたが。
 キスすらも初めてなのに、俺を信じてくれた。

 釜に薪を入れ終え、燐寸箱を手に取る。ふと辺りが暗くなった。
 何事かと思って見ると、レナーテが瞳をきらきらさせて俺の手元を覗きこんでいる。しゃがみこんだ彼女が、俺に近寄ったせいで暗くなったのだ。

「あの、何かな?」
「燐寸を擦るんですよね」

 両膝を行儀よく揃えてはいるが、その頬は紅潮している。

「もしかして燐寸を擦ったことがない、とか?」
「はい。火は触らせてもらえませんでした」

 いや、火を触ったらもれなく火傷するだろう。
 
「おいで、レナーテ」

 俺の隣にぴったりとくっついたレナーテが、手元を覗きこんでくる。まずは火のつけ方を覚えさせないとな。
 燐寸を三本の指で挟むように指導して、箱の擦り面で擦らせる。
 
「あっ、折れました」
「力が入りすぎているんだ。ほら、こうしてみなさい」

 しゃがんだレナーテの背後に回り込んで、俺は彼女の両手に手を添えた。
 力は入れずに、ただ方向を示すように。軽く手を動かしてやる。すぐにレナーテも俺の手の動きに応じた。

 しゅっという音の後、明るいオレンジ色の焔が点った。

「すごいです、エルヴィンさま。わたし、初めて火を点けました」
「うんうん、よかったなぁ」

 しかし嬉しそうに目を細めている暇はない。レナーテのことだ、きっといつまでも……燐寸の軸が燃えてしまっても焔を眺めていることだろう。
 薪と小枝を入れた釜に、すぐに燐寸を放り込ませる。

◇◇◇

 こ、困りました。
 わたしは脱衣所で混乱していました。
 なぜなら、お風呂を沸かすことができて喜んでいたのですが。エルヴィンさまは、一緒に風呂に入ろうと仰っていたのですから。

 浴槽はそんなに大きくないですよ。いったいどうやって。

 教会学校の寄宿舎に入っていた友人は、この辺りの地方は水が豊富だから、部屋に浴槽を据え置くのではなくて浴室があるのねと感心していましたが。
 まさか殿方と一緒にお風呂に入る文化があるとは、地元で生まれ育ったわたしでも知りませんでした。

「レナーテ。おいで」
「は、はひ」

 脱衣所でおろおろしているわたしに、扉の向こうから声がかかります。服は脱ぐんですよね。では、下着は?
 当然お風呂に入るときは全裸ですけど。でも、扉の向こうにはエルヴィンさまがいらっしゃるんですよ。そんなはしたないこと。

 出来る限り時間をかけてワンピースのボタンを外していると「全部脱ぐんだよ」と声がかかりました。
 やはり、ですか。
 わたしは、がっくりとうなだれました。
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