初対面の不愛想な騎士と、今日結婚します

絹乃

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一章

18、キスの続きを【1】

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 どうやって家に戻ってきたのかしら。そもそも、わたしはどうして騎士の方々に囲まれていたのかしら。

 頭が混乱したまま、気がつけば大きな葉が茂る庭を抜け、家に入っていました。
 緑の濃い匂い、まだ広いお庭のすべてを散策したわけではありませんが、奥の方から甘い花の香りが仄かにしています。
 その所為でしょうか、蜜蜂の羽音や白や黄色い蝶がひらひらと飛んでいます。

「エルヴィンさま。わたし、騎士の皆さんにちゃんとご挨拶できませんでした」
「いや、それは別にいい」

 エルヴィンさまは、わたしを抱えたままで家の中に入っていきます。
 結婚式と祝宴を開いた広間を抜け、庭に面した一階の居間へと進みました。初夏なので、まだ一度も火を入れたことのない暖炉があるお部屋です。
 エルヴィンさまは窓を開き、そして、わたしは一人掛けのソファーに降ろされました。

 床に足がついて初めて、お城にある騎士団の詰所から一度も歩いていないことに気づいたのです。

「重かったでしょう? 済みません」
「いや、別に問題はない。それよりも……レナーテ」
「はい?」
「その、もう一度。というか続きをしてもいいか?」

 ソファーの前に立ち、わたしを見下ろしているエルヴィンさまの顔は、窓から差し込む陽射しで逆光になっています。
 彼の白いシャツは、木々の葉を透かした緑の色の染まっていました。
 
 続き? 騎士団の詰所での続きでしょうか。確かわたしはキスをされて……。
 エルヴィンさまの仰っている内容に気づき、顔が熱くなるのを感じました。

「レナーテ。返事は?」
「……はい。いい、です」

 ふっとエルヴィンさまの口許が微笑むのが見えました。そして、あたりが暗くなったと思うと、エルヴィンさまがわたしにのしかかって来たんです。

 重なり合う唇。エルヴィンさまの唇は力強くて。
 ああ、何ということでしょう。閉じている唇をこじ開けられてしまったの。

「ん……んん、っ」

 室内は外よりも少し涼しいのに。わたしの口中に入ってきたエルヴィンさまの舌は熱くて。その熱を持ったまま、わたしの舌を翻弄なさるの。

 互いの唇が離れて、これで終わりだと思ったのに。また同じようにくちづけられて。
 貪られるようなキスと、軽く唇に触れるだけのキス。
 それに頬や瞼にもくちづけられます。

「エルヴィン、さま……ぁ」
「レナーテ。愛しい人」

 ああ、キスで溺れてしまいそう。わたしは必死で、エルヴィンさまのたくましい腕にしがみつきました。
 でないと、ソファーから落ちてしまいそうだったから。

 わたしの背中を支えるエルヴィンさま。その力は強くて、逃れることもできません。
 窓から風が吹きこんで、わたしの髪や頬を撫でていきます。
 でも葉擦れの音も、あんなにも聞こえていた蜜蜂の羽音ももう聞こえないの。
 
「どこにキスしてほしい?」
「わ、わかり、ません」
「じゃあ、俺の好きにさせてもらうよ」

 再び屈みこむと、エルヴィンさまはわたしの首筋を唇で撫でました。
 今のわたしにはエルヴィンさまの言葉と、キスの音しか聞こえません。

「や……っ、そこは、違う、の」
「俺に任せると言ったよ」

 言いました。確かに言いました。でも、エルヴィンさまの唇は、いつのまにかわたしの胸に触れているんです。
 いつの間にワンピースの襟を開かれたの? 胸を覆っていた下着は?

「あ……っ、ん」
「困った子だ。誘うような声を出して」
「わざとじゃ、ない……です」
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