18 / 77
一章
18、キスの続きを【1】
しおりを挟む
どうやって家に戻ってきたのかしら。そもそも、わたしはどうして騎士の方々に囲まれていたのかしら。
頭が混乱したまま、気がつけば大きな葉が茂る庭を抜け、家に入っていました。
緑の濃い匂い、まだ広いお庭のすべてを散策したわけではありませんが、奥の方から甘い花の香りが仄かにしています。
その所為でしょうか、蜜蜂の羽音や白や黄色い蝶がひらひらと飛んでいます。
「エルヴィンさま。わたし、騎士の皆さんにちゃんとご挨拶できませんでした」
「いや、それは別にいい」
エルヴィンさまは、わたしを抱えたままで家の中に入っていきます。
結婚式と祝宴を開いた広間を抜け、庭に面した一階の居間へと進みました。初夏なので、まだ一度も火を入れたことのない暖炉があるお部屋です。
エルヴィンさまは窓を開き、そして、わたしは一人掛けのソファーに降ろされました。
床に足がついて初めて、お城にある騎士団の詰所から一度も歩いていないことに気づいたのです。
「重かったでしょう? 済みません」
「いや、別に問題はない。それよりも……レナーテ」
「はい?」
「その、もう一度。というか続きをしてもいいか?」
ソファーの前に立ち、わたしを見下ろしているエルヴィンさまの顔は、窓から差し込む陽射しで逆光になっています。
彼の白いシャツは、木々の葉を透かした緑の色の染まっていました。
続き? 騎士団の詰所での続きでしょうか。確かわたしはキスをされて……。
エルヴィンさまの仰っている内容に気づき、顔が熱くなるのを感じました。
「レナーテ。返事は?」
「……はい。いい、です」
ふっとエルヴィンさまの口許が微笑むのが見えました。そして、あたりが暗くなったと思うと、エルヴィンさまがわたしにのしかかって来たんです。
重なり合う唇。エルヴィンさまの唇は力強くて。
ああ、何ということでしょう。閉じている唇をこじ開けられてしまったの。
「ん……んん、っ」
室内は外よりも少し涼しいのに。わたしの口中に入ってきたエルヴィンさまの舌は熱くて。その熱を持ったまま、わたしの舌を翻弄なさるの。
互いの唇が離れて、これで終わりだと思ったのに。また同じようにくちづけられて。
貪られるようなキスと、軽く唇に触れるだけのキス。
それに頬や瞼にもくちづけられます。
「エルヴィン、さま……ぁ」
「レナーテ。愛しい人」
ああ、キスで溺れてしまいそう。わたしは必死で、エルヴィンさまのたくましい腕にしがみつきました。
でないと、ソファーから落ちてしまいそうだったから。
わたしの背中を支えるエルヴィンさま。その力は強くて、逃れることもできません。
窓から風が吹きこんで、わたしの髪や頬を撫でていきます。
でも葉擦れの音も、あんなにも聞こえていた蜜蜂の羽音ももう聞こえないの。
「どこにキスしてほしい?」
「わ、わかり、ません」
「じゃあ、俺の好きにさせてもらうよ」
再び屈みこむと、エルヴィンさまはわたしの首筋を唇で撫でました。
今のわたしにはエルヴィンさまの言葉と、キスの音しか聞こえません。
「や……っ、そこは、違う、の」
「俺に任せると言ったよ」
言いました。確かに言いました。でも、エルヴィンさまの唇は、いつのまにかわたしの胸に触れているんです。
いつの間にワンピースの襟を開かれたの? 胸を覆っていた下着は?
「あ……っ、ん」
「困った子だ。誘うような声を出して」
「わざとじゃ、ない……です」
頭が混乱したまま、気がつけば大きな葉が茂る庭を抜け、家に入っていました。
緑の濃い匂い、まだ広いお庭のすべてを散策したわけではありませんが、奥の方から甘い花の香りが仄かにしています。
その所為でしょうか、蜜蜂の羽音や白や黄色い蝶がひらひらと飛んでいます。
「エルヴィンさま。わたし、騎士の皆さんにちゃんとご挨拶できませんでした」
「いや、それは別にいい」
エルヴィンさまは、わたしを抱えたままで家の中に入っていきます。
結婚式と祝宴を開いた広間を抜け、庭に面した一階の居間へと進みました。初夏なので、まだ一度も火を入れたことのない暖炉があるお部屋です。
エルヴィンさまは窓を開き、そして、わたしは一人掛けのソファーに降ろされました。
床に足がついて初めて、お城にある騎士団の詰所から一度も歩いていないことに気づいたのです。
「重かったでしょう? 済みません」
「いや、別に問題はない。それよりも……レナーテ」
「はい?」
「その、もう一度。というか続きをしてもいいか?」
ソファーの前に立ち、わたしを見下ろしているエルヴィンさまの顔は、窓から差し込む陽射しで逆光になっています。
彼の白いシャツは、木々の葉を透かした緑の色の染まっていました。
続き? 騎士団の詰所での続きでしょうか。確かわたしはキスをされて……。
エルヴィンさまの仰っている内容に気づき、顔が熱くなるのを感じました。
「レナーテ。返事は?」
「……はい。いい、です」
ふっとエルヴィンさまの口許が微笑むのが見えました。そして、あたりが暗くなったと思うと、エルヴィンさまがわたしにのしかかって来たんです。
重なり合う唇。エルヴィンさまの唇は力強くて。
ああ、何ということでしょう。閉じている唇をこじ開けられてしまったの。
「ん……んん、っ」
室内は外よりも少し涼しいのに。わたしの口中に入ってきたエルヴィンさまの舌は熱くて。その熱を持ったまま、わたしの舌を翻弄なさるの。
互いの唇が離れて、これで終わりだと思ったのに。また同じようにくちづけられて。
貪られるようなキスと、軽く唇に触れるだけのキス。
それに頬や瞼にもくちづけられます。
「エルヴィン、さま……ぁ」
「レナーテ。愛しい人」
ああ、キスで溺れてしまいそう。わたしは必死で、エルヴィンさまのたくましい腕にしがみつきました。
でないと、ソファーから落ちてしまいそうだったから。
わたしの背中を支えるエルヴィンさま。その力は強くて、逃れることもできません。
窓から風が吹きこんで、わたしの髪や頬を撫でていきます。
でも葉擦れの音も、あんなにも聞こえていた蜜蜂の羽音ももう聞こえないの。
「どこにキスしてほしい?」
「わ、わかり、ません」
「じゃあ、俺の好きにさせてもらうよ」
再び屈みこむと、エルヴィンさまはわたしの首筋を唇で撫でました。
今のわたしにはエルヴィンさまの言葉と、キスの音しか聞こえません。
「や……っ、そこは、違う、の」
「俺に任せると言ったよ」
言いました。確かに言いました。でも、エルヴィンさまの唇は、いつのまにかわたしの胸に触れているんです。
いつの間にワンピースの襟を開かれたの? 胸を覆っていた下着は?
「あ……っ、ん」
「困った子だ。誘うような声を出して」
「わざとじゃ、ない……です」
12
お気に入りに追加
1,872
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる