初対面の不愛想な騎士と、今日結婚します

絹乃

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一章

16、騎士団の詰所【2】

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「妻が急に失神したんだ。少し休ませてやりたい」

 俺の説明に、騎士たちは互いに顔を見合わせてうなずいた。
 よかった、理解してくれたか。

「あー、そういう。駄目ですよ、初夜から激しすぎるのは」
「そうそう。副団長は、ずっと片思いしてましたからねぇ。募る思いもいいですけど、無茶しすぎなんですよ」
「女の子は優しく扱わないと、嫌われますよ」

 本当にいい加減にしろよな、お前ら。休暇が明けたら、訓練でしばきまくるからな。

 舌打ちしたい気持ちで詰所の奥の部屋に向かい、簡易ベッドにレナーテを横たえる。
 少し襟元を開いた方がいいだろうか。ワンピースだから腹部は苦しくないだろうが。
 
「お前ら、絶対に入って来るなよ」

 背後の入り口から感じる人の気配に、俺は振り返りもせずに言葉を投げつけた。
 昨夜、花嫁のドレスを脱がすときも手こずったのだが。ボタンが小さくて球体を半分にした形で、しかもワンピースと同じ布地でくるんであるものだから、外すのにも気を遣う。

「う、うわっ」
「副団長ー。どうしたんですか?」
「なんでもない。今は仕事中だろ、俺に構うことはない」

 レナーテに毛布を掛け、部屋の扉を閉め、窓の外に誰もいないことを確認して、ようやく俺は息をついた。

 襟を大きく開いたせいで、レナーテの鎖骨や胸元までもが見える。その白い肌には、俺が残した痕が散っていた。

「済まない……少ししか見ないから」

 いまだ気を失っているレナーテに謝りながら、毛布とそして彼女のワンピースの裾をめくる。無論、脚にもしっかりとくちづけの痕が残っている。
 彼女の全身にキスをした時の、あの滑らかな絹のような感触が蘇り。俺は手で顔を覆った。

 あれは良かった……じゃなくて、申し訳ないことをした。
 いや、もうしないのかと問われたら、多分するし。その先もいずれはするのだが。

 男と違って、負担が大きいからな。それに純真に育っているから、知識も乏しいだろうし。俺を受け入れる時は、拷問に等しいと感じるかもしれない。
 困った……レナーテに嫌われずに済むにはどうすればいいのだろう。

◇◇◇

 背中に硬い感触を感じて、わたしは瞼を開きました。
 実家のベッドも、新居のベッドももっと柔らかいんです。ここはどこなのかしら。

 目に映る天井からは、見たことのない形のオイルランプが下がっています。

「良かった。気づいたのだな、レナーテ」

 わたしを覗きこんでくるエルヴィンさまの顔を目にして、自分でも気づかぬ内に唇が震えていました。

「エルヴィンさま。いらしたのですね」
「あ、ああ。一緒に城に入っただろ。急に倒れたから心配したぞ」

 心配していたのはわたしの方なんです。エルヴィンさまのことが心配で、もし敵に捕まって手や足を切り落とされたら。
 鋭く光る刃が振り下ろされて。その先を考えると、気が遠くなってしまったんです。

 わたしは上体を起こして、エルヴィンさまにしがみつきました。

「捕虜になって、危険な目に遭ったりなさらないで。レナーテは、そんなの耐えられません」
「へ? そこ?」
「大事なことです。ご無事で生きて帰っていらして」
「いや、そもそも戦自体がないのだが」
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