初対面の不愛想な騎士と、今日結婚します

絹乃

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一章

15、騎士団の詰所【1】

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 騎士団を訪れるのは初めてです。
 騎士団の詰所はお城の中にあって、普段は騎士の方々はそれぞれ過ごし方が違うのだそうです。

「従軍義務はあるが、そんなに期間は長くない。そうだな一回の従軍で四十日から六十日というところだな」
「戦争があるのですか?」

 城門を入りながら、わたしは隣を歩くエルヴィンさまに問いかけました。
 丘の上にあるお城は、いつも街から見上げるばかりでした。白い石の壁、尖塔がいくつも立ち並び、屋根は空と同じ深い青色です。

「ああ、だが案ずるな。うちの領主は穏健派だからな。神殿騎士団のように戦が多いわけでもない」
「そうなんですか」

 わたしはほっとしました。聞けば、普段はこの城で事務的なお仕事をなさっているそうです。祝祭や儀式がエルヴィンさまの主なお仕事ですが。お若い騎士の方は、富と恋と冒険を求めて諸国を渡り歩く人もいるそうです。

「若い奴の考えることは、よく分からん」と、エルヴィンさまは顔をしかめます。

「若い奴って……でも、放浪なさる騎士はわたしよりも年上なのでしょう? わたしの考えることも分かりませんか?」
「いや、そういうことではないが。その……」

 お返事を待ってみても、エルヴィンさまは「困ったな」と頭を掻くばかりです。
 ほんの少し前に、彼の髪に触れたのですから。今、エルヴィンさまの指が触れている感覚がわたしにも伝わってくるようで。
 少し恥ずかしくなってしまいました。
 年若い分際で、副団長の髪を撫でるなんて。不遜でした。

「その、レナーテの考えが分からないのは、多分性別が違うからだと思うのだが」

 エルヴィンさまの言葉に、歯切れがありません。
 どうしましょう。わたし、エルヴィンさまを困らせてしまったようです。
 難しいです。そもそも神父さまや家族しか、殿方と接した経験がないのですから。

◇◇◇

 言えない。俺は女性とまともに付き合ったことがないから、レナーテの……女性の思考がよく分からないとは。
 誰とでも交際して、経験値を高めた方が良かったのか?
 しかし、それではレナーテのことが好きなのに、他の女性と付き合うことになってしまう。
 いかん、それは絶対に違うぞ。

 そうだ、話題を変えよう。
 名案が浮かんだ俺は視線を落として、横を歩くレナーテを見た。さすがに城内なので、もう手はつないでいない。

「戦と言っても戦死者は多くないのを知っているか?」
「そうなのですか? 少し安心しました」
「ああ。身代金目的の捕虜となるからな。殺してしまっては意味がない。捕虜となっても反抗的な騎士は、手や足を切断されることもあるそうだが」

 ふっと、レナーテのワンピースの裾がひらめいた。城に掲げられている騎士団の旗は垂れて、風もないというのに。
 不思議に思って見ると、レナーテが地面に倒れていた。

「レ、レナーテっ!」

 柔らかな琥珀色の髪の隙間から、青ざめたレナーテの顔が見える。
 俺は慌てて彼女を抱き上げて、詰所へと連れて行った。

 婚礼での疲れが出たのか? そうだよな、新居に移る為の準備もあっただろう。それに、昨夜はキスだけで我慢したとはいえ、結局朝方までレナーテを寝かせなかった。

 なんと愚かなのだ、俺は。体力の違いを考慮していなかった。
 これだから無粋で武骨で、ああ、どうしよう。このままレナーテが死んでしまったら。

「ベッドを用意してくれっ」

 ノックをすることもなく、俺は騎士団の詰所の扉を蹴飛ばして開けた。騎士道にももとる行いだ。
 
「どうなさったんですか、副団長」
「確か休暇中のはずでは。へ? うわー、新婚さんが浮気してる」

 ぞろぞろと部下が集まって来る。
 皆、物珍しそうに腕の中のレナーテを覗きこもうとするから、なんとか背中で隠す。

「妻だ、妻。昨日結婚したばかりの花嫁だ。浮気なんかするはずないだろ」

 この言葉で納得して引き下がると思ったのに。こいつら、余計に好奇心全開でレナーテの顔を見ようとする。
 騎士道精神はどうした? 貴婦人への敬意は?
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