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一章
7、初めての夜はキスだけで
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「キスも初めて?」
ほんの一瞬だけ重ねた唇を離して、エルヴィンさまが尋ねてきます。
こんなに間近で彼の顔を見るのは初めてです。
琥珀色の瞳は、深い色で。脅えたわたしの顔が映っています。
「は、はい」
「じゃあ、今夜はキスだけにしておこう」
彼は微笑むと、わたしの手の甲にくちづけました。
そして手袋を脱いだエルヴィンさまの大きな手が、わたしの頬を撫でます。少しかさついた指とてのひら。
硬い指先が、わたしの耳朶を挟みます。
彼の指の間で耳朶を弄ばれているだけで、わたしは恥ずかしさにきつく瞼を閉じました。
そして、体を持ち上げられると今度はうつ伏せにされたんです。
顔の間近に散る、薄紅や赤い花。むせかえるような甘い花の香り。
エルヴィンさまの指が、わたしの背後のボタンを外しているのに気づきました。
「あ、あの……」
「駄目だよ、逃げては。キスだけで済ますことができなくなってしまうから」
露わになった素肌に、涼しい空気を感じます。でも、すぐにキスされて、その部分が熱を持って熱くなるんです。
ドレスは脱いではいません。キス以上のこともされていません。なのに、どうしてこんな……。
「あ……っ、ん」
自分でもびっくりするような甘い声を上げてしまい、わたしは慌てて両手で口を押えました。
なに、今の。こんな声をエルヴィンさまに聞かれたら。
「声は我慢しなくてもいい。むしろ聞かせてほしい」
「でも……」
「俺の最初の我儘だ。聞かせてくれるね?」
耳元で低く囁かれ、抗うこともできません。キスだけなのに、彼は疲れていて眠いはずなのに。
終わらないくちづけに、肌のすべてが感じてしまって。
「ん……っ、ぁ……あぁ、ん」
「ああ、なんと愛らしいんだ」
わたしの背中の肌を滑る指先。腕を覆っていた袖は脱がされ、胸を隠していた下着もずらされて。恥ずかしくて、わたしは枕に顔を埋めるしかなかったんです。
◇◇◇
ああ、なんと愛らしいのだろう。
レナーテは、俺のくちづけを素肌に受けるたびに愛らしい声を上げた。
彼女の白く滑らかな肌は、まるで天鵞絨のようで。俺のような皮膚の硬い手で触れるのが申し訳なくなってしまう。
あなたが心を許してくれて、こうして肌に触れることを認めてくれる。
「レナーテ。愛しい人」
ドレスをほとんど脱がせた状態で、俺は彼女の背後から手をまわした。
薄い肩も、俺のてのひらに収まってしまう胸も、そして何とか声を殺そうとするその様子も、何もかもが愛らしい。
「あ、あの。エルヴィンさま。眠かったのでは?」
「ああ、眠いなぁ」
「それなら、もうお休みになった方が」
まったく、可愛い顔をして意地悪なことを言う。そんな子には、お仕置きだよ。
「後でいくらでも、あなたと一緒に眠れる。やはり俺だけが眠ってしまったら、あなたはまた一人で不安になるだろう? 花嫁に憂い顔は似合わないからな」
「わたし、憂えてなんて……」
「俺には寂しそうに見えたよ」
俺にドレスを剥ぎとられたレナーテは、その状態のまま仰向けにされた。恥じらって手の甲で顔を隠す様子が、愛らしい。
そして俺は、彼女の全身にくちづけを散らした。ベッドに撒かれた赤い花びら、そして俺が彼女に刻んだ赤い痕。
キスだけで終わらせるのは、本当につらい。
ほんの一瞬だけ重ねた唇を離して、エルヴィンさまが尋ねてきます。
こんなに間近で彼の顔を見るのは初めてです。
琥珀色の瞳は、深い色で。脅えたわたしの顔が映っています。
「は、はい」
「じゃあ、今夜はキスだけにしておこう」
彼は微笑むと、わたしの手の甲にくちづけました。
そして手袋を脱いだエルヴィンさまの大きな手が、わたしの頬を撫でます。少しかさついた指とてのひら。
硬い指先が、わたしの耳朶を挟みます。
彼の指の間で耳朶を弄ばれているだけで、わたしは恥ずかしさにきつく瞼を閉じました。
そして、体を持ち上げられると今度はうつ伏せにされたんです。
顔の間近に散る、薄紅や赤い花。むせかえるような甘い花の香り。
エルヴィンさまの指が、わたしの背後のボタンを外しているのに気づきました。
「あ、あの……」
「駄目だよ、逃げては。キスだけで済ますことができなくなってしまうから」
露わになった素肌に、涼しい空気を感じます。でも、すぐにキスされて、その部分が熱を持って熱くなるんです。
ドレスは脱いではいません。キス以上のこともされていません。なのに、どうしてこんな……。
「あ……っ、ん」
自分でもびっくりするような甘い声を上げてしまい、わたしは慌てて両手で口を押えました。
なに、今の。こんな声をエルヴィンさまに聞かれたら。
「声は我慢しなくてもいい。むしろ聞かせてほしい」
「でも……」
「俺の最初の我儘だ。聞かせてくれるね?」
耳元で低く囁かれ、抗うこともできません。キスだけなのに、彼は疲れていて眠いはずなのに。
終わらないくちづけに、肌のすべてが感じてしまって。
「ん……っ、ぁ……あぁ、ん」
「ああ、なんと愛らしいんだ」
わたしの背中の肌を滑る指先。腕を覆っていた袖は脱がされ、胸を隠していた下着もずらされて。恥ずかしくて、わたしは枕に顔を埋めるしかなかったんです。
◇◇◇
ああ、なんと愛らしいのだろう。
レナーテは、俺のくちづけを素肌に受けるたびに愛らしい声を上げた。
彼女の白く滑らかな肌は、まるで天鵞絨のようで。俺のような皮膚の硬い手で触れるのが申し訳なくなってしまう。
あなたが心を許してくれて、こうして肌に触れることを認めてくれる。
「レナーテ。愛しい人」
ドレスをほとんど脱がせた状態で、俺は彼女の背後から手をまわした。
薄い肩も、俺のてのひらに収まってしまう胸も、そして何とか声を殺そうとするその様子も、何もかもが愛らしい。
「あ、あの。エルヴィンさま。眠かったのでは?」
「ああ、眠いなぁ」
「それなら、もうお休みになった方が」
まったく、可愛い顔をして意地悪なことを言う。そんな子には、お仕置きだよ。
「後でいくらでも、あなたと一緒に眠れる。やはり俺だけが眠ってしまったら、あなたはまた一人で不安になるだろう? 花嫁に憂い顔は似合わないからな」
「わたし、憂えてなんて……」
「俺には寂しそうに見えたよ」
俺にドレスを剥ぎとられたレナーテは、その状態のまま仰向けにされた。恥じらって手の甲で顔を隠す様子が、愛らしい。
そして俺は、彼女の全身にくちづけを散らした。ベッドに撒かれた赤い花びら、そして俺が彼女に刻んだ赤い痕。
キスだけで終わらせるのは、本当につらい。
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