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お見合いとお付き合い篇

12、二人で雨宿り

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 雨が降っています。
 わたし達は木の下に居るので、さほど濡れはしませんが。それでも風が出てきたせいで、雨が吹き込んできます。

 ヴィレムさまはわたしを腕から降ろすと、太い木の幹に背を当てるようにして立たせました。
 そしてご自分は雨避けの盾になります。
 濡れそぼるヴィレムさまの髪。毛先からは、水が滴っています。
 なのに、わたしの髪は湿気で少し広がる程度で、ほとんど濡れもしないんです。ヴィレムさまが、守ってくださっているから。

「駄目です。風邪を引きますよ」
「俺は頑丈だから平気だ。訓練時や護衛の時も傘など差さないからな」
「それでも……」

 木の葉を、そして石畳を叩く雨の音に紛れてしまいそうになるので、わたしは声に力を込めました。

「それでも、わたしの為にヴィレムさまが濡れるのは嫌です。わたしは背が低いから、全部は無理ですけど。それでもヴィレムさまを、少しは守れます」
「フランカ?」
「わ、わたしでは頼りにならないかもしれません。でも、あなたをお守りしたいんです」

 言ってしまってから、なんと出過ぎたことを言ったのかと我に返りました。

 たとえわたしが雨避けとして、ヴィレムさまの前に立ったとして。身長差がありすぎるので、ヴィレムさまは首から上がびしょ濡れになるでしょう。
 肩幅も広いですから、腕も濡れてしまいます。

 わたしでは、盾にはなれないのでしょうか。

「済みません。わたし、気持ちが先走って出来もしないことを……」
「いや、そんなことは」

 ヴィレムさまは、なぜかうつむいて横を向いていらっしゃいます。
 どうなさったのでしょうか、と顔を見上げると。今度は瞼をきつく閉じてしまわれました。

「そういう可愛いことを言わないでくれ」
「え? あの」
「これでも随分と自制しているんだ」

 何をでしょうか。
 そう考える間もなく、ヴィレムさまが屈みこみました。そして唇が重なったのです。

 さっきよりも冷えた、彼の唇。なのに、わたしの口の中に入ってきたヴィレムさまの舌は、とても熱くて。

「ん……っ、あぁ……ぁ」
「ああ、フランカ。そんなにも俺のことを想ってくれて……なんて愛らしいんだ」

 くちづけとくちづけの間に、甘く囁かれて。わたしは、必死でヴィレムさまの上着の袖にしがみついてたの。

 吹き降りの雨の所為で、彼の毛先からはなおも水が滴っています。その雨粒が、わたしの頬に落ちて。
 それだけで、体の奥が甘く痺れて。
 重なっているのは唇なのに。どうして背筋は痺れ、立っているのもつらくなるほどなの?

 わたしは耐え切れず、膝が崩れました。

 そんなわたしを、ヴィレムさまは再び抱き上げます。
 今度は、いわゆるお姫さま抱っこです。

「駄目だな。本当に自制が効かなくなる」

 潤んだ碧の瞳が、間近でわたしを見つめています。
 
「でも、ちゃんと結婚したら君を抱かせてもらうよ」

 なんて答えればいいんですか? わたしの顔は、たぶん真っ赤になっていたと思います。ええ、夏の熟したベリーよりも赤いでしょう。
 
「フランカ。返事は?」
「……い」
「聞こえないよ」

 耳元で低く囁かれて、わたしは掠れる声で「……はい」と、お答えしたんです。
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