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お見合いとお付き合い篇

6、うれし恥ずかし初デート

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 わたしは日の昇る前から、ぱっちりと目が覚めてしまいました。
 今日はヴィレムさまとデートなんです。

「あ、ああ……どうしましょう。緊張で心臓が止まってしまいそう」
「お嬢さま、どうかちゃんと朝食を召し上がってください。デート中に倒れたら大変ですよ」

 メイドにたしなめられ、わたしはテーブルの席に着きましたが。お父さまもお母さまも、そしてお兄さまにミーシャまでもが神妙な顔をして、わたしを見つめています。

――娘は、本当に大丈夫なのか?

――どうしましょう。またヴィレムさまの前でフランカが卒倒して、うちに運ばれたりしたら。破談にならないかしら。

――あの男なら、軽々運んでくるんじゃないか? そもそもフランカが、手がかかる娘なのは先刻承知だろ。だが、ぼくは奴がフランカに指先一本でも触れることは認めない。そうだ、気付け薬を持たせよう。そうすれば、卒倒してもすぐに意識が戻るだろう。

――にゃーん。

 うちの家族は視線が雄弁です。言葉にしなくとも両親も兄も何を言っているのか、すぐに伝わってくるんです。
 ちなみにミーシャは「ヴィレムさま好きー。わたしも行くー」だと思います。

 アーモンド入りの甘いオートミールと、搾りたてのオレンジジュース。それにチーズ。
 嫌いなものがある訳ではないのに、今日はなかなか喉を通ってくれません。

「フランカ。鳥が低く飛んでいるから、今日は天気が悪くなる。気を付けるんだぞ」

 窓の外を眺めながら、お兄さまがそう仰います。
 そうでしょうか? とてもよく晴れているんですけど。

 でも、お兄さまは「風邪を引いたらどうするんだ」「体が冷える」と、仰っています。まるでお説教でもされているようで、わたしは仕方なくうなずきました。

◇◇◇

 今日はフランカと初デートだ。
 俺は、早朝からぱっちりと目が覚めた。
 仕事は非番。何度も確認した。二人で出かけるパノラマ館のチケットもある。

 着替えを済ませて窓を開くと、空はこれでもかというくらいに晴れ渡っていた。まさに抜けるような青空だ。
 だが、庭の草木のにおいを、普段よりも強く感じる。
 これは、雨になるんじゃないか?
 あまり長くフランカを連れまわさない方がいいな。

 そう考えて、なぜかため息が出た。

「ん? レディを雨に濡らしてはいけないだろ。パノラマを見て、お茶をしてそれで家まで送ればいいじゃないか。何も問題はない」

 俺は別に雨に降られるのなど、仕事で慣れている。だが、フランカは体も小さいし見るからに弱そうだし、実際よくぶっ倒れる。
 俺から見ればまだまだ小さなレディだ。守るのは当たり前、何も問題はない。

 なのに、不思議と首を傾げてしまう。

「いやいや、求婚も俺が無理を通したようなものだ。これ以上、彼女に負担を掛けてはいけない」

 そう、騎士であることを忘れるな。いついかなる時も、紳士であれ。
「うむ」と俺は窓辺に立ち、腕組みをしてうなずいた。

◇◇◇

 フランカの家に彼女を迎えに行き、応接室で待たせてもらう。
 相手をしてくれるつもりなのか、或いは別の意味があるのか。何故か向かいのソファーには、フランカの兄のラウレンスが座っている。

 俺とは同学年だが、親しいという事はない。むしろ一方的に嫌われている気がする。
 子どもの頃から運動が好きな俺と、学問に没頭していた彼では、話が合うはずもないが。どうもそれだけではない気がする。

 今日も俺を眺めては、眉根を寄せて。今にも舌打ちをしそうな表情だ。

 しかし、なんだか今日は緊張するな。
 珈琲の入ったカップが、カチャカチャと音を立ててみっともない。

 見合いの時もそうだったが、俺はこんなに繊細な心の持ち主だったろうか。
 殿下には「ヴィレムには、ナイーブなぼくの心など分からないさ」などと、よく言われるのだが。
 
 いいえ、殿下。どうやらこのヴィレム、ナイーブの仲間入りが出来たようです。
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