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二章
6、出逢い
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俺の目の前で深雪の姿が澄んでゆく。
軒の向こうに見える空は低い雲が流れ、光の筋がところどころ地上に向かって伸びている。
ヤコブの梯子や。
てらてらと光るヤツデの葉の向こうに見える、緑濃い葉を茂らせた木。その枝から白い花がこぼれ落ちていった。
「蜜柑……いや、朱欒か」
淡く儚くなった深雪が「朱欒……」と消え入りそうな声で呟いた。
「朱欒は、お月さまみたいですか?」
「あまり喋らんとき」
「黄水晶のような色ですか?」
黒々とした瞳は、今はもう煙水晶を思わせる淡い色だ。
「そうやな。朱欒は満月のようで、黄水晶のような色だ。その果実も、月の光も」
俺の言葉に得心したのか、深雪は小さく微笑んだ。
それは朱鷺子さんが教えてくれた言葉やった。
(そうか、君も話してもらったことがあるんか)
朱欒が実る季節にはほど遠い。けれど、深雪には見えぬ朱欒が見えたようだ。
ふっと気配が消えた。
そして湿った掛け軸の中に、墓標の前でひざまずく黒いヴェールをかぶった深雪の姿が浮かび上がった。
ヴェール越しでも、深雪の視線が墓石を一心に見つめてるんが分かる。
こんな絵やったんか。
「出たいよな……出たかったよな」
これは朱鷺子さんを供養するために描かれた、深雪が墓参りをする絵や。
朱鷺子さんのためにというのは、もちろん分かる。けれど命のない、人ではない者でも、想いはあるんや。悲しむ気持ちも、痛む心もあるんや。
愛する人の死を、常に突きつけないでくれ。現実から目を逸らさせてくれ。
でないと俺たちは狂ってしまう。
「なぁ、鈴之介。お前には、分からへんやろな」
深雪を閉じ込めた絹本の下に手拭いを敷き、可能な限りの湿気を取る。
無論、素人にできることは限られてる。表具屋に持っていくしかないやろ。
いや、彼女自身が濡れてしもてるんや。絵そのものの染みや歪みを直すことなどできるんか?
俺は小さく息をつき、肩を落とした。
ナイルの箱は、今も縁側に残ったままや。
そろそろ夕暮れが近いんやろ。室内はぼんやりと暗く、部屋の隅に一足早い夜が忍んでいるようやった。
キリキリ。虫の鳴く声が草むらから聞こえてくる。
「表具屋ももう店じまいの時間やろ。明日の朝いちばんに連れていって直してもらうからな」
今はもう聞こえないであろう深雪に語りかける。
湿った重い風にのって、かすかに甘い香りが漂ってきた。
俺は顔をあげた。夕闇にぼうっと白く浮かんで見えるのは、咲き残った花やった。季節外れのその花弁も、すぐにはかなく散ってゆく。
ああ、朱欒の花の匂いやったんか。
キリキリ、と音はとまらない。
「あの木。でかなったな」
かつて俺が、朱鷺子さんに差し入れた朱欒の実。その種を植えて育ったんが、あの木や。
俺は、絵の中の深雪と朱鷺子さんの墓標を見つめた。
「せや、深雪。俺と朱鷺子さんの馴れ初めを聞きたいって、ゆうてたな」
こんなことやったら、もっと早うに聞かせたるんやった。
特別なこともない。運命的な出会いでもない。けど、俺は絶対に忘れたりせぇへん。
俺はあの頃、会社員で。毎朝、坂を下って駅に向かっとった。
坂の上には女学校がある。夏の朝には日傘を差したお嬢さんの群れが、白い蝶が飛んでるように見えたもんや。
軽やかな話し声。楽しそうな笑い声。毎日すれ違ってても、マリアさまに祈りを捧げるのが日課の女学生らは、俺とは別世界の人間やった。
ある日の夕方。
俺は坂の途中でしゃがみこんでる女学生に声をかけた。それが朱鷺子さんやった。
「どないしたん。大丈夫か? 具合でも悪いんか」
坂の端にうずくまった朱鷺子さんが、俺を見上げる。半泣きやった。
マガレイトに結った髪には、藤色のリボンが結んである。朱鷺子さんの周辺には、縮緬の風呂敷がほどけて筆記帳やら教科書が散乱しとう。
はーん。これはつまずいて転んだな。
「足をくじいてしまって」
「ここの坂は急やからな。気ぃつけんとあかんで。見せてみ」
俺は朱鷺子さんの隣にしゃがんで、彼女の足を確認した。足袋のこはぜを外して、足首に触れてみる。
「いたっ」
「あー、これは捻挫しとうな。家はどこや? 送っていったろ」
「そんなご迷惑をおかけできません」
痛みに眉をひそめながらも、十代半ばの朱鷺子さんの声は気丈やった。
けどそれも一瞬のこと。潮の匂いの風が吹いて、白いレエスの日傘がころころと坂を転がっていく。
「おっと」
俺は急いで日傘を摑んだ。けど、なんか変やった。
「柄がゆがんでしもとう。これ、傘の骨も折れとんちゃうかな」
「そんな」
朱鷺子さんの大きな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
帰宅する通行人が、俺と朱鷺子さんを一瞥する。
ちょお、待ってぇや。俺は女学生を泣かしてへんで。
「せっかくお父さまに買ってもらったのに。お気に入りなのに」
「うんうん。それは大変やったな。泣きやもか」
「昨日おろしたばかりなんですよ」
「うんうん。泣きやもか」
「ひどいわ。どうして壊れてしまうの」
とうとう朱鷺子さんは、両手で顔を覆ってしもた。通行人の視線が痛い。
お願いやから、泣きやんでくれ。まるで俺が悪者みたいやんか。
えーと、ハンカチ、ハンカチ。
しもた。女中に洗濯してもらうんを忘れとった。
俺は鞄の中から引きだしたハンカチを、元に戻した。
ふと、指先に紙の箱が触れる。煙草や。
(せや、これやったらこの子の気も紛れるかもしれへん)
「ほら、見てみ。おもしろいやろ」
箱に描かれた絵が見えるように、朱鷺子さんに差しだしてみる。
「ナイル?」
「お、読めるんか? さすがは女学生さんやな」
箱に書かれた『NILE』の文字を、朱鷺子さんは正確に読みとった。
けど、金字塔は知らんかったようや。じーっと目を凝らして、紙箱を見つめてる。
「三角錐のこれはなんでしょう。変わった建物ですね。それに馬にしては首が細くて長いです」
朱鷺子さんは、もう自分が泣いてたことを忘れてるみたいやった。
「奇妙な絵ですね」
「これは金字塔っていうねん。古代埃及《エジプト》の王の墓っていわれとうな」
「お墓ですか? これが? ああ、でも古墳は小山みたいに大きいですものね」
「なるほど、古墳やな」
うんうん、と俺と朱鷺子さんはうなずいた。
落ちついたのか、朱鷺子さんは地面に散乱した筆記帳や教科書を風呂敷に包む。
「埃及という土地には、変わった動物がいるんですね」
「駱駝やで」
お互い初対面とは思えぬほどに、会話が進んだ。ありがとう、煙草。ありがとう、ナイルの箱の絵を描いた人。これで俺は、年若い女子を泣かせる悪人にならんで済んだ。
「家はどこや? 送っていったろ」
包み終えた風呂敷と、壊れた日傘、そして自分の鞄を左腕で抱える。右手を朱鷺子さんに差しだして、立たせてやった。
「いたっ」と、立ちあがった朱鷺子さんが顔をしかめる。
しゃあないな。
俺は朱鷺子さんをおぶってやった。
「ま、待ってください。歩けますから、降ろしてください」
「暴れたら落ちるで。無理したら、しばらく歩けんようになるからな。こないな急坂を上って、通学できんようになるで」
やっぱり通りがかった人が、俺らを一瞥しては去っていく。
せやな、目立つよな。会社員が女学生をおんぶしとったら、誰かて「どないしたん」と気になるよな。
「学友に見られたら、明日から大騒ぎになるやろから。顔を隠しとき」
「……はい」
今にも消え入りそうな声で、朱鷺子さんは返事する。
急に右肩にぬくもりを感じた。背広やシャツの布地を通して、朱鷺子さんが俺の肩に顔をくっつけてんのが伝わってくる。
顔が近い。なんか、お嬢さんってええ匂いがする。
いやいや、そないなこと考えたら不埒やんか。
弟をおんぶすることはあったけど。女の子って、大きなっても軽いんやな。
いやいや、何を考えてんねん。
俺は周囲に視線を向けた。そうすれば、背中にぴったりとくっついている朱鷺子さんを忘れていられそうで。
暮れていく空に、海は淡い桃色に染まっている。対岸に淡路島があるから、水平線はほとんど見えへん。
「百日紅が、湧きたつ入道雲みたいです」
ぽつりと朱鷺子さんが呟いた。
確かに、どっかの庭で白いもくもくとした花が咲いている。これ、サルスベリっていうんか。けったいな名前や。
それにこの子は、面白い物の見方をするんやな。
坂道では、点燈夫が瓦斯燈に火をともしている。ひとつ、またひとつ。
深い藍の空が透明に澄んで。暖かな光が並んでいく。
それが俺と朱鷺子さんの出会いやった。
まだ女学生やった朱鷺子さんは、年の離れた会社員の俺をどういうわけか好いてくれた。
なんでも「銀之丈さんは、ご存じなかったでしょうけれど。わたしは助けていただく前から、銀之丈さんを何度もお見かけしていましたよ」らしい。
ごめんな。俺は仕事で疲れてたから。女学生は皆おんなじやと思てた
軒の向こうに見える空は低い雲が流れ、光の筋がところどころ地上に向かって伸びている。
ヤコブの梯子や。
てらてらと光るヤツデの葉の向こうに見える、緑濃い葉を茂らせた木。その枝から白い花がこぼれ落ちていった。
「蜜柑……いや、朱欒か」
淡く儚くなった深雪が「朱欒……」と消え入りそうな声で呟いた。
「朱欒は、お月さまみたいですか?」
「あまり喋らんとき」
「黄水晶のような色ですか?」
黒々とした瞳は、今はもう煙水晶を思わせる淡い色だ。
「そうやな。朱欒は満月のようで、黄水晶のような色だ。その果実も、月の光も」
俺の言葉に得心したのか、深雪は小さく微笑んだ。
それは朱鷺子さんが教えてくれた言葉やった。
(そうか、君も話してもらったことがあるんか)
朱欒が実る季節にはほど遠い。けれど、深雪には見えぬ朱欒が見えたようだ。
ふっと気配が消えた。
そして湿った掛け軸の中に、墓標の前でひざまずく黒いヴェールをかぶった深雪の姿が浮かび上がった。
ヴェール越しでも、深雪の視線が墓石を一心に見つめてるんが分かる。
こんな絵やったんか。
「出たいよな……出たかったよな」
これは朱鷺子さんを供養するために描かれた、深雪が墓参りをする絵や。
朱鷺子さんのためにというのは、もちろん分かる。けれど命のない、人ではない者でも、想いはあるんや。悲しむ気持ちも、痛む心もあるんや。
愛する人の死を、常に突きつけないでくれ。現実から目を逸らさせてくれ。
でないと俺たちは狂ってしまう。
「なぁ、鈴之介。お前には、分からへんやろな」
深雪を閉じ込めた絹本の下に手拭いを敷き、可能な限りの湿気を取る。
無論、素人にできることは限られてる。表具屋に持っていくしかないやろ。
いや、彼女自身が濡れてしもてるんや。絵そのものの染みや歪みを直すことなどできるんか?
俺は小さく息をつき、肩を落とした。
ナイルの箱は、今も縁側に残ったままや。
そろそろ夕暮れが近いんやろ。室内はぼんやりと暗く、部屋の隅に一足早い夜が忍んでいるようやった。
キリキリ。虫の鳴く声が草むらから聞こえてくる。
「表具屋ももう店じまいの時間やろ。明日の朝いちばんに連れていって直してもらうからな」
今はもう聞こえないであろう深雪に語りかける。
湿った重い風にのって、かすかに甘い香りが漂ってきた。
俺は顔をあげた。夕闇にぼうっと白く浮かんで見えるのは、咲き残った花やった。季節外れのその花弁も、すぐにはかなく散ってゆく。
ああ、朱欒の花の匂いやったんか。
キリキリ、と音はとまらない。
「あの木。でかなったな」
かつて俺が、朱鷺子さんに差し入れた朱欒の実。その種を植えて育ったんが、あの木や。
俺は、絵の中の深雪と朱鷺子さんの墓標を見つめた。
「せや、深雪。俺と朱鷺子さんの馴れ初めを聞きたいって、ゆうてたな」
こんなことやったら、もっと早うに聞かせたるんやった。
特別なこともない。運命的な出会いでもない。けど、俺は絶対に忘れたりせぇへん。
俺はあの頃、会社員で。毎朝、坂を下って駅に向かっとった。
坂の上には女学校がある。夏の朝には日傘を差したお嬢さんの群れが、白い蝶が飛んでるように見えたもんや。
軽やかな話し声。楽しそうな笑い声。毎日すれ違ってても、マリアさまに祈りを捧げるのが日課の女学生らは、俺とは別世界の人間やった。
ある日の夕方。
俺は坂の途中でしゃがみこんでる女学生に声をかけた。それが朱鷺子さんやった。
「どないしたん。大丈夫か? 具合でも悪いんか」
坂の端にうずくまった朱鷺子さんが、俺を見上げる。半泣きやった。
マガレイトに結った髪には、藤色のリボンが結んである。朱鷺子さんの周辺には、縮緬の風呂敷がほどけて筆記帳やら教科書が散乱しとう。
はーん。これはつまずいて転んだな。
「足をくじいてしまって」
「ここの坂は急やからな。気ぃつけんとあかんで。見せてみ」
俺は朱鷺子さんの隣にしゃがんで、彼女の足を確認した。足袋のこはぜを外して、足首に触れてみる。
「いたっ」
「あー、これは捻挫しとうな。家はどこや? 送っていったろ」
「そんなご迷惑をおかけできません」
痛みに眉をひそめながらも、十代半ばの朱鷺子さんの声は気丈やった。
けどそれも一瞬のこと。潮の匂いの風が吹いて、白いレエスの日傘がころころと坂を転がっていく。
「おっと」
俺は急いで日傘を摑んだ。けど、なんか変やった。
「柄がゆがんでしもとう。これ、傘の骨も折れとんちゃうかな」
「そんな」
朱鷺子さんの大きな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。
帰宅する通行人が、俺と朱鷺子さんを一瞥する。
ちょお、待ってぇや。俺は女学生を泣かしてへんで。
「せっかくお父さまに買ってもらったのに。お気に入りなのに」
「うんうん。それは大変やったな。泣きやもか」
「昨日おろしたばかりなんですよ」
「うんうん。泣きやもか」
「ひどいわ。どうして壊れてしまうの」
とうとう朱鷺子さんは、両手で顔を覆ってしもた。通行人の視線が痛い。
お願いやから、泣きやんでくれ。まるで俺が悪者みたいやんか。
えーと、ハンカチ、ハンカチ。
しもた。女中に洗濯してもらうんを忘れとった。
俺は鞄の中から引きだしたハンカチを、元に戻した。
ふと、指先に紙の箱が触れる。煙草や。
(せや、これやったらこの子の気も紛れるかもしれへん)
「ほら、見てみ。おもしろいやろ」
箱に描かれた絵が見えるように、朱鷺子さんに差しだしてみる。
「ナイル?」
「お、読めるんか? さすがは女学生さんやな」
箱に書かれた『NILE』の文字を、朱鷺子さんは正確に読みとった。
けど、金字塔は知らんかったようや。じーっと目を凝らして、紙箱を見つめてる。
「三角錐のこれはなんでしょう。変わった建物ですね。それに馬にしては首が細くて長いです」
朱鷺子さんは、もう自分が泣いてたことを忘れてるみたいやった。
「奇妙な絵ですね」
「これは金字塔っていうねん。古代埃及《エジプト》の王の墓っていわれとうな」
「お墓ですか? これが? ああ、でも古墳は小山みたいに大きいですものね」
「なるほど、古墳やな」
うんうん、と俺と朱鷺子さんはうなずいた。
落ちついたのか、朱鷺子さんは地面に散乱した筆記帳や教科書を風呂敷に包む。
「埃及という土地には、変わった動物がいるんですね」
「駱駝やで」
お互い初対面とは思えぬほどに、会話が進んだ。ありがとう、煙草。ありがとう、ナイルの箱の絵を描いた人。これで俺は、年若い女子を泣かせる悪人にならんで済んだ。
「家はどこや? 送っていったろ」
包み終えた風呂敷と、壊れた日傘、そして自分の鞄を左腕で抱える。右手を朱鷺子さんに差しだして、立たせてやった。
「いたっ」と、立ちあがった朱鷺子さんが顔をしかめる。
しゃあないな。
俺は朱鷺子さんをおぶってやった。
「ま、待ってください。歩けますから、降ろしてください」
「暴れたら落ちるで。無理したら、しばらく歩けんようになるからな。こないな急坂を上って、通学できんようになるで」
やっぱり通りがかった人が、俺らを一瞥しては去っていく。
せやな、目立つよな。会社員が女学生をおんぶしとったら、誰かて「どないしたん」と気になるよな。
「学友に見られたら、明日から大騒ぎになるやろから。顔を隠しとき」
「……はい」
今にも消え入りそうな声で、朱鷺子さんは返事する。
急に右肩にぬくもりを感じた。背広やシャツの布地を通して、朱鷺子さんが俺の肩に顔をくっつけてんのが伝わってくる。
顔が近い。なんか、お嬢さんってええ匂いがする。
いやいや、そないなこと考えたら不埒やんか。
弟をおんぶすることはあったけど。女の子って、大きなっても軽いんやな。
いやいや、何を考えてんねん。
俺は周囲に視線を向けた。そうすれば、背中にぴったりとくっついている朱鷺子さんを忘れていられそうで。
暮れていく空に、海は淡い桃色に染まっている。対岸に淡路島があるから、水平線はほとんど見えへん。
「百日紅が、湧きたつ入道雲みたいです」
ぽつりと朱鷺子さんが呟いた。
確かに、どっかの庭で白いもくもくとした花が咲いている。これ、サルスベリっていうんか。けったいな名前や。
それにこの子は、面白い物の見方をするんやな。
坂道では、点燈夫が瓦斯燈に火をともしている。ひとつ、またひとつ。
深い藍の空が透明に澄んで。暖かな光が並んでいく。
それが俺と朱鷺子さんの出会いやった。
まだ女学生やった朱鷺子さんは、年の離れた会社員の俺をどういうわけか好いてくれた。
なんでも「銀之丈さんは、ご存じなかったでしょうけれど。わたしは助けていただく前から、銀之丈さんを何度もお見かけしていましたよ」らしい。
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