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【裏視点】
22、諦めるんだな
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あら? どうしてわたしはベッドにいるのかしら。
確か早朝から薔薇を摘んで、その後イザークと朝食を食べていたはずなのに。
おかしいわ。夢だったのかしら。
ころりと寝返りを打つと、すぐ隣にイザークの顔がありました。
どうしましょう。もうとっくに陽が高いです。花が開ききったら、香りが減ってしまうのに。
わたしは、がばっと上体を起こしました。
「なぜ、もう着替えているの?」
まさか昨日、寝間着に着がえずに眠ってしまったのでしょうか。
そんなに怠惰な生活はしていないと思うんですけど。
「なんだ、もう起きるのか?」
「大遅刻なんです」
「大遅刻……聞いたことのない言葉だ」
イザークはなぜか、にやにやと笑っています。もう、わたしが寝坊したのが楽しいんですね。本当に意地悪なんだから。
もしかして寝間着に着がえる前に眠ってしまったのかと思い、わたしは新たな服に着替えることにしました。
イザークと同じ寝室を使っているので、わたしは衝立の陰で服を脱ぎました。
「まったく。悪い子だな」
「え?」
「まだ日も高いというのに、俺を誘っているのか?」
何のことですか? わたしはこれから薔薇を摘みに……あら? どうしてわたしの指から、薔薇の香りがしているのかしら。
「もしかして、花摘みは終わったのかしら」
「ご名答」
ああ、よかったぁ。へなへなと、わたしは床に座り込んでしまいました。
遅刻をしても誰も怒ったりしませんが。けじめってものが、ありますよね。
そう言えば、神官長とハーンが来島するというお話を聞いていたのでした。
一度は外したシャツの釦を留めていると、イザークに手首を掴まれました。
「せっかく脱いだのに、またすぐ着るなんて。無粋なことをするなよ」
「無粋って……」
今初めて気づいたのですけど。なぜかカーテンが閉められているんです。
室内は薄暗くて、でもランタンを灯さなくとも、辺りが見える状態です。
「今日はもう何もないんだろ」
「ないけど。あの……イザーク?」
気配を察して、わたしはイザークから逃れようとしましたが。背後から抱きしめられて、身動きが取れません。
「えっと、その。今って、夜じゃないのよ」
「うん。夜もまたするかもしれないなぁ」
それは困ります。
必死で彼を押しのけましたが。当然のことながら、力で適うはずがありません。
わたしの体は軽々と持ち上げられて、ベッドに降ろされました。
「最近、忙しそうだったから、邪魔をしないように気を遣っていたんだぞ」
ベッドに仰向けになった状態のわたしに、イザークが顔を寄せてきます。
ベッドが、ぎしりと軋む音を立てました。
顔が近いです。思わず瞼をきつく閉じてしまうと、イザークに小さく笑われました。
「なんで慣れないかなぁ」
「恥ずかしいんですよ。見られるのも、触れられるのも……すごく」
「俺は恥ずかしくないぞ」
もうっ。一緒にしないでください。
「まぁ冗談はさておき。諦めるんだな」
パドマが丁寧に編みこんでくれた髪を、イザークが手に取ります。先端を結ぶ紐を解くと、波打つ髪が広がりました。
イザークはその髪の一束に、恭しくくちづけます。
「パドマに救いを求めようとしても無駄だからな」
「そ、そんなこと」
しないとは言い切れませんけど。声を上げたところで、パドマの暮らす家には届きませんし、薔薇摘みが終わって疲れている彼女に迷惑はかけられませんよ。
イザークは、燃えるような赤い瞳でわたしを見据えます。金の髪に唇を寄せたまま。鋭いその瞳は、一見すると恐ろしいのに。なのに、イザークの深い愛情をわたしは知っているから。とてもよく知っているから。
彼がいつも与える甘く痺れる感覚が、体の芯に蘇って……わたしはイザークの逞しい腕に指を添えました。
そしてその手を、彼の首にかけます。
ええ、彼に抱かれるために。
波の音だけが、静かな室内で聞こえていました。
確か早朝から薔薇を摘んで、その後イザークと朝食を食べていたはずなのに。
おかしいわ。夢だったのかしら。
ころりと寝返りを打つと、すぐ隣にイザークの顔がありました。
どうしましょう。もうとっくに陽が高いです。花が開ききったら、香りが減ってしまうのに。
わたしは、がばっと上体を起こしました。
「なぜ、もう着替えているの?」
まさか昨日、寝間着に着がえずに眠ってしまったのでしょうか。
そんなに怠惰な生活はしていないと思うんですけど。
「なんだ、もう起きるのか?」
「大遅刻なんです」
「大遅刻……聞いたことのない言葉だ」
イザークはなぜか、にやにやと笑っています。もう、わたしが寝坊したのが楽しいんですね。本当に意地悪なんだから。
もしかして寝間着に着がえる前に眠ってしまったのかと思い、わたしは新たな服に着替えることにしました。
イザークと同じ寝室を使っているので、わたしは衝立の陰で服を脱ぎました。
「まったく。悪い子だな」
「え?」
「まだ日も高いというのに、俺を誘っているのか?」
何のことですか? わたしはこれから薔薇を摘みに……あら? どうしてわたしの指から、薔薇の香りがしているのかしら。
「もしかして、花摘みは終わったのかしら」
「ご名答」
ああ、よかったぁ。へなへなと、わたしは床に座り込んでしまいました。
遅刻をしても誰も怒ったりしませんが。けじめってものが、ありますよね。
そう言えば、神官長とハーンが来島するというお話を聞いていたのでした。
一度は外したシャツの釦を留めていると、イザークに手首を掴まれました。
「せっかく脱いだのに、またすぐ着るなんて。無粋なことをするなよ」
「無粋って……」
今初めて気づいたのですけど。なぜかカーテンが閉められているんです。
室内は薄暗くて、でもランタンを灯さなくとも、辺りが見える状態です。
「今日はもう何もないんだろ」
「ないけど。あの……イザーク?」
気配を察して、わたしはイザークから逃れようとしましたが。背後から抱きしめられて、身動きが取れません。
「えっと、その。今って、夜じゃないのよ」
「うん。夜もまたするかもしれないなぁ」
それは困ります。
必死で彼を押しのけましたが。当然のことながら、力で適うはずがありません。
わたしの体は軽々と持ち上げられて、ベッドに降ろされました。
「最近、忙しそうだったから、邪魔をしないように気を遣っていたんだぞ」
ベッドに仰向けになった状態のわたしに、イザークが顔を寄せてきます。
ベッドが、ぎしりと軋む音を立てました。
顔が近いです。思わず瞼をきつく閉じてしまうと、イザークに小さく笑われました。
「なんで慣れないかなぁ」
「恥ずかしいんですよ。見られるのも、触れられるのも……すごく」
「俺は恥ずかしくないぞ」
もうっ。一緒にしないでください。
「まぁ冗談はさておき。諦めるんだな」
パドマが丁寧に編みこんでくれた髪を、イザークが手に取ります。先端を結ぶ紐を解くと、波打つ髪が広がりました。
イザークはその髪の一束に、恭しくくちづけます。
「パドマに救いを求めようとしても無駄だからな」
「そ、そんなこと」
しないとは言い切れませんけど。声を上げたところで、パドマの暮らす家には届きませんし、薔薇摘みが終わって疲れている彼女に迷惑はかけられませんよ。
イザークは、燃えるような赤い瞳でわたしを見据えます。金の髪に唇を寄せたまま。鋭いその瞳は、一見すると恐ろしいのに。なのに、イザークの深い愛情をわたしは知っているから。とてもよく知っているから。
彼がいつも与える甘く痺れる感覚が、体の芯に蘇って……わたしはイザークの逞しい腕に指を添えました。
そしてその手を、彼の首にかけます。
ええ、彼に抱かれるために。
波の音だけが、静かな室内で聞こえていました。
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