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22、恥ずかしいから見ないで

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 複数の豪農やその家族達と共に、アルベティーナとイザーク、そして侍女のパドマが辿り着いたのは、海を越えた島だった。

 まだ水の残る運河を、豪農の持つ船に乗せてもらい、港のある町に着くと、そこから交易の船に乗せてもらい海を渡った。

 どこを見ても地面に緑が溢れるその島は、腐敗した国を脱出する為に彼らが事前に購入していたものだ。

「ここもナツメヤシの農場にしようと思っていたんですがね。まさか炎熱の王とアルベティーナさまをお迎えすることができるなんて」

 小屋がいくつも建っているのは、農場の管理の為に人を雇う予定だったのだろう。
アルベティーナ達は、その小屋を住まいとして使わせてもらっている。

 この島に移り住んで、半年が過ぎようとしていた。

「もう『さま』はいりませんよ。わたしは、ただの娘ですから」
「おや? 声が嗄れていらっしゃるようですが」
「え、あの。それは」

 アルベティーナが理由を言えずに戸惑っていると、背後からイザークに抱きしめられた。大きな腕に閉じ込められて、身動きが取れない。

「アルベティーナの喉を心配するのなら、ナツメヤシの飴でも与えるのだな」
「はぁ、今すぐに」

 豪農達は、脱出の際に収穫しておいた実を飴に加工していた。しかも喉に良いとされる薬草やハーブを練りこんで。
 ナツメヤシの酒を醸造する施設ができるまでの、収入源とするらしい。
 
「風邪でもお召しになったんですか? アルベティーナさま」
「いや、ちゃんと毛布は掛けてやったぞ。だがなぁ、あんなに啼いたら声も嗄れるだろ」

 イザークの言葉の意味するところを察して、アルベティーナは顔を真っ赤にした。
 やめて、それ以上言わないで。お願い、もう黙って。

「この島に、夜啼く鳥がいましたかなぁ」
「俺も、加減というものを覚えないといけないなぁ。ふぐぅ」

 アルベティーナに両手で口を塞がれて、イザークは苦しそうに呻いた。
 何ということを言うのだ、この神さまは。駄目だ、ちゃんと監視しておかないと。人としての恥じらいとか倫理観とかそういうものを、簡単に無視してしまう。

 これまでイザークの存在は知っていても、初めて接することとなった豪農達は、彼の不真面目で軽薄そうな性格に、未だ慣れずにいた。
 豪農の子ども達は、アルベティーナにはすぐに懐いて花を摘んで持ってきてくれたが。イザークのことは遠巻きに眺めている。
 神が怖いのか、或いは絡まれたら面倒な相手だと思っているのか。後者のような気がする。

「アルベティーナさまは、今夜はわたしの小屋で一緒に眠るんです。イザークさまはお一人でどうぞ」

 アルベティーナに飴を渡してくれながら、パドマがイザークを睨みつける。

「なんでそんな冷たいことを言うんだ」
「ちゃんと夜は、お休みになっていただきたいからです」
「……寝かせているぞ? 朝方には」
「夜中もちゃんと寝ないと駄目なんですっ!」

 二人の言い争いは続いている。炎熱の王と侍女の口論は、ない日の方が珍しい。

「そういえば、イルデラの隣国から手紙が届いたんですが。王国は、砂に埋もれているみたいですよ」
「そうなんですか?」

 アルベティーナは、豪農の一人から手渡された手紙を広げた。
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