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6、イザークが看病を

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 夜中、アルベティーナは高熱にうなされていた。
 頭痛がひどい。ほんの少し寝台で寝返りを打っただけでも、頭が割れそうだ。

 苦しい時は、考えたくもないことばかり頭に浮かんでくる。
 王は、王太子ブルーノとアルベティーナの間に子どもを産ませ、その子が次代の冬の乙女になることを望んでいる。
 だが、そんなに上手くいくだろうか。
 冬の乙女は遺伝でも血統でもない。記憶と力のみを引き継ぐものなのだから。

「おい、アルベティーナ。しっかりしろ」

 ああ、イザークの声が聞こえるわ。そんなに心配しないで。冬の乙女が風邪をひいたなんて、おかしいもの。

 アルベティーナのひたいに、ひんやりと冷たい物が載せられた。それが水で濡らしたタオルであると気づくのに、しばらくかかった。
 だが、高熱のせいでタオルはすぐに温くなってしまう。
 ぽたぽた、と水の滴る音がして、アルベティーナはうっすらを目を開いた。

 自分の見た光景が信じられなかった。
 炎熱の王と恐れられるイザークが、あろうことかアルベティーナのひたいに載せるタオルを絞っていたのだ。
 とても不器用な手つきで。

「イザーク……何をしているの?」
「侍女のパドマに教えてもらった。人は熱を出すと、こうして冷やすのだと」

 加減が難しいのか、絞りすぎたタオルを眺めては首を傾げ、今度は水がぼたぼたと落ちるタオルに眉根を寄せている。

 長年……アルベティーナ以前の乙女の記憶も含めれば、相当長い年数になるが。そんな困った様子のイザークを見たのは、初めてのことだった。

「あの、イザークさま。アルベティーナさまのお加減は。それから薬湯をお持ちしました」
「いいから。俺に任せておけ」

 ドアの隙間から顔をのぞかせるパドマが、イザークの手元を見て目を丸くした。

「いけません、イザークさま。アルベティーナさまを窒息させるおつもりですか!」

 今にもアルベティーナのひたいに、びしょ濡れのタオルが載せられるところだった。心配するパドマを追い出し、イザークは薬湯だけを受け取った。

「えーと。これを飲ませればよいのだな」

 あの、なぜわたしはお仕えする神に看病されているのでしょう。頭が混乱するけれど、高熱のせいで答えは出てこない。

「さぁ、アルベティーナ。体を少し起こすぞ」

 背中にクッションをさし入れられ、上体を起こしたアルベティーナは薬湯の器を受け取ろうと、手を差し出した。
 だがイザークは彼女の眼前で、器に口をつけた。
 そのまま、アルベティーナにくちづけてくる。

「ん? んん?」
「こら、苦いからと暴れるな。噎せるぞ」

 違う、そうではないの。薬湯の苦さよりも、口移しで飲まされたことがショックだったのだ。
 だが、イザークはしれっとした表情だ。

「朝まで傍にいるから、もう眠りなさい」

 不思議と頭痛が治まった気がする。山鳥の声だけが聞こえる、静かな夜。
 その後待ち受ける過酷な仕打ちのことも知らずに、アルベティーナはイザークの腕の中で眠った。
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