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2、このまま一緒におやすみなさい

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「あー、ガウンは脱いだ方がいいんじゃないかな?」
「は、はい。忘れていました、申し訳ありません」
「謝らなくてもいいよ」

 慌ててガウンのリボンを解こうとしますが、緊張して指先が震えて言うことを聞きません。

「失礼」と言いながら、夫の長い指がガウンのリボンをするりと外しました。肩からガウンを外されて、あとは薄い寝間着をまとっているだけです。

 緊張します。こんな薄着で殿方の(いえ、夫なんですけど)の腕の中で眠るなんて。

「女の子は体温が低いのかな? 確かに、ひんやりとした肌だね」
「頑張って体温を上げますっ」

 わたしは息を止め頬を膨らませ、瞼を閉じて体全体に力を入れました。

「いや、それは体温というより血圧が上がるし。無理をしたら頭の血管が切れるよ」

 それでも緊張のあまり息を止め続けるわたしは、さすがに苦しくなってきました。
 あ、でも顔が熱いです。きっと体温も上がっています。
 そう思った時。

 唇に柔らかいような、少し硬いような何かが触れました。
 
 え? なに、今の。
 驚いて目を開けると、間近に夫の端正な顔が迫っています。というか、く、唇が重なっています。

「ああ、済まないね。こうでもしないと貴女が窒息しそうだったから」

 ぷしゅーっ、と音が聞こえた気がしました。
 まるでわたし自身が火にかけたヤカンのように、顔も体もどこもかしこも熱くなります。

「じゃあ、このまま一緒に寝ようか」

 煙草と薄荷と……少しかさついた唇。
 くらりと目眩がして、わたしは夫の腕に倒れ込みました。

 そのままお布団と毛布の中に潜り込み。まるですべての世界から隔絶された様に、夫の腕の中に閉じ込められます。
 とくとく、という心臓の音。
 逞しい彼の胸から聞こえるその音は速くて。
 ドキドキしているわたしの鼓動と混じり合って聞こえます。

「まるで冬眠しているみたいだな。いっそ春までこうして貴女を抱きしめていたい」

 ああ、なんということでしょう。
 温かな毛布の中で、夫がわたしのおでこにキスなさるんです。とても愛おしそうに。

「お爺さまは孫を望んでいらっしゃるけど。まだ俺に抱かれるのは怖いだろう?」

 わたしは返事もできずに、夫の寝間着の布地をきゅっと握りしめました。

「大丈夫。お爺さまは健やかだし、俺もしばらくは待てるから」
「あ、あの。待つ……とは?」
「ああ、まだキスしかしないから安心して。でも相当な忍耐力を要するな、これは」

 そう仰ると、夫はわたしの耳にくちづけました。
 さっきまではあんなにも寒かったのに。今は熱くて。でもこの冬ごもりから出ていくのも寂しくて。
 わたしは彼の腕を枕に、とくとくという心臓の音を子守歌代わりに眠りに落ちたのです。
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