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森人族と闇人族

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西の港街での後始末は、獣王ドゥルガーが差配し
粛々と進められていた。

港の沖合上空には幅10kmほどの島が浮かんでおり
解放された天翼族の戦士長ヤバル以下3000余名は、
獣人族の街との共存を歩む事となった。

この天空島は移動時の兵站も確保出来るよう
農園も整備されており、長期間の篭城戦に耐えうる
魔法障壁に囲まれた堅牢な作りになっている。

水などは魔法の使い手が定期的に補充するので
島からは細い滝がいく筋も海に向かって落ちていて
暑い日差しの港に一服の清涼感をもたらす効果があった。

 「では、獣王様
  私達はこれでお暇させて戴きますわ。」

サラ達がホバーユニットと連結された移動ユニットに
乗り込むと、見送るドゥルガー達に挨拶をしていた。

移動ユニットはセブンが錬成した巨大なコンテナブースで
本来はリニア軌道で動かすものであるが、ホバーユニットと
ブースターで無理矢理動かしているようだ。

 「ヤバル戦士長・・・乗る必要あるのかしら?
  暑いのは苦手だからとか言ってたけど怪しいわね。」

捕虜の代表として昨日まであれこれと慌ただしく動いていたが
港の沖合でずっと暮らすことで全兵士の意見が一致し、
獣人族からも認可を受け、全兵士が農作物の収穫に
取り掛かっている最中のはずだ。

ヤバル達天翼族は体内に2個以上の魔石がある事は珍しくなく、
まれに4個持つものもいるそうだ。
ヤバルは火魔法と空間魔法の使い手で、
小さな家一軒分くらいのものなら収納できる能力があるそうだ。
その収納能力で平原の村まで同行し、天空島の農作物と
魔獣などの肉類と交易したいと言う。

 (うん、なんとか乗り込めた。
  よーし、これであのガトーショコラ以外の
  甘味にありつける。勝ったな。)

本音はパイロが作っていると言うアイスやケーキなどを
食べたいだけの甘党の戦士だったようだ。

 「サラ、ふらっと消えたセブンにもよろしく言っておいてくれ。
  ・・・カミュールよ、一緒に行く必要があるのか?」

 「わらわはしばらく出ていても問題にはならん。
  フェイズ戦士長の村の奥の方に隠れ住んでいる者達に
  国ができていることを伝える用もあるのでな。」

 「そうか、我らも行ければ行きたかったのじゃが。
  ここもまだやることが多いのでな、
  落ち着いたら魔族の国に交易兼ねて出向かせてもらうぞ。」

 「またあれをやるのか?
  まぁ、戦士共にはいい鍛錬でもあるな。
  鍛えて待っておるぞ。」
  
魔族の女王カミュールと獣人族の獣王ドゥルガーが
交易という名の戦闘の約束を交わし、互いにいい笑顔で
挨拶を終えたのであった。



その頃、セブンはカーラと共に天翼族から聞いた
巨人族の島の捜索をしていた。

 「カーラ、一旦赤道上から移動しよう。
  そうだな、まず北緯65度の上を探しに行くか。
  そこも外れなら南緯65度の下だな。」

静止衛星軌道上からドローンを広域展開して捜索していたが、
これといった手応えがなく、カバーエリア外の北側へ移動し
捜索を継続するようだ。

巨人族は彼ら天翼族よりも神に近い種族だそうだ。
主に世界樹の森に住む森人族や、地底に住む闇人族は
精霊に近い種族なのだそうだ。

 (闇人族って森に地下に国を作って
  繁栄していると言ってたな。
  俺の使う錬金術の使い手が多いとか。
  会ってみたい気もするけど、
  今は不安要素の炙り出しだな。)

先の攻撃方法を巡りサラと言い合いをしたが、
その時より一層サラ達を守ることを
優先したいと思う気持ちに気付き、
電脳傭兵として指示通りの戦闘に専念すれば
よかった前の世界との違いに戸惑いが生じ始めていた。

 (守りたいか。。
  電脳兵になってそんなこと思ったことなかったよな。
  いや、最後のあの時だけ変だったな。
  何であの時クロを助けようと思ったのか
  今思えば不思議だ。)

これまでの経験上防衛戦に不慣れなセブンは
サラへの想いを自覚してからというもの、
失う怖さに不安を覚え、先制攻撃を仕掛けることで
不安の芽を詰む選択に安心感を求めてしまう
非道な自身の思考に自己嫌悪するようになっていた。

 (無情のセブンは死んだな。
  いや、生まれ変わったのかな。
  修羅の道でも慣れてしまえば何でもないな。
  何となく地獄行きが早まった感じがするな。
  突き進むとするか。) 

神に近い種族との戦闘に思いを馳せながら、
希薄な高高度を移動するセブンであった。



 「族長!
  南の洞窟から闇人族の使いが来ました!」

世界樹の森のエルフの集落の祭祀場に
巡回当番兵が駆け込んで来た。

族長のグランが祈りを中断し礼拝してから
座ったままで体を当番兵に向けた。

 「はて、この時期に何用であろうか。
  入り口の待合所にお連れしたか?」

 「はい!待合所でお待ちです。
  いつのものように酒を持って来て
  飲んでおられます。」

はぁ~っとため息をついたグランは立ち上がり、
集落の入り口横にある待合所へ向かうのであった。


 「おお~これはこれは森人族の長グラン殿。
  この酒を一口飲んでみてくれまいか。」

小柄な男は徳利を一つ手渡した。

 「まぁ、一口であれば。いただきます。

  んっ?
  これは・・・美味しさだけで
  語れるものではないな。」


 「おお~分かるか分かるか。
  神水酒なのじゃ。

  このところ流れ込んでくる水で作る酒は
  神水酒になるようになったのじゃ。

  このことを聞きに来たのじゃ。
  この水は世界樹様の祝福の水か?」

 「いや、神水とは聞いておらぬ。
  精霊様からも神気の混じった水が
  流れて来ているとしか聞いておらん。」

 「おお~それじゃ!それ!
  神気がまじっておるせいなのじゃな。

  うむ、得心が行った。
  であれば良し。

  それはやろう。好きに飲んでくれ。
  また、良い酒が出来たら交易頼むぞ。
  ではな。」


身の丈130cmくらいのがっしりとしたヒゲモジャの
闇人族の族長は片手をあげて挨拶しながら
もと来た森の奥へ帰っていった。

小さな徳利に入った酒をグランは大事そうに両手で持ち、
祭祀場へ取って返すのであった。



 「何だあの巨大な空洞は!」

極北の地に凍りついた大地を丸くくり抜いたかのような
巨大な空洞をセブン達は発見した。
高度を下げながら、その空洞内へバグドローンを集中させて
情報収集を始めるセブンであった。
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