『森蘭丸伝 花落つる流れの末をせきとめて』

春野わか

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第14章 血闘

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「マッデン……だよな?」

ジキムートの言葉に一同がうなずく。


「くっ……」

レキは抱えていた物を離し、なんとか立とうとしていた。

「くくっ、ノーティス。おぬしが言う事は本当だったみたいだの。このレキだったか? わしでもなかなか見たことが無い、美しい女がいると」

舌なめずり一つ。

その直後に突然、地面から沸き上がった水の群れがレキを絡めとっていく。

「グゥっ!?」

水に周りをまかれ、レキがうなる。

周りは水。

逃げ場がなく、ゆっくりと狭まる包囲網をにらみつける事しかできないでいた。


「ほぅほぅなんぞ、その奇麗な褐色の肌は。 貴族共は全員が色白いからのぉ。こういう趣向は稀じゃ。いや、初めてじゃぁっ! ヒヒッ。どうして今までココに来んだったか、全くっ。神もいじらしい事をしてくださるっ!」

「……シュっ!」

その時だった。

〝ムードブレイカー(自己中)″ジキムートが走った。

壁を蹴ってつたい、一気に住民たちを横目に後ろに回ろうとする。

「……」

その姿をマッデンが睨んだ――瞬間。


バキンっ!


「何っ!?」

壁にあった壁面が一気に、突如氷に代わる。

「だがこれなら!」

未だ遠い住民の裏。

ジキムートは剣を壁に刺し、その氷を逃げきっ……。

パキパキパキッ!

剣がへし折れたっ!

一瞬にして氷が剣に浸食し、芯まで凍らせたのだ。

ジキムートは住民の中へと落ちてしまうっ!


「はっ!?」

いきなりの現実。

ゴディンの力ならば通用した事が、通じない。

その事実にジキムートは声すら出せないでいる。

ドタンっ!

そして、地面の感覚。

「クッ!?」


「全員気を抜くなっ! 行くぞっ」

叫び、漆黒のローラが駆けて……っ!

「……」

彼女が動こうとすると目の前に、20……30、いや40っ!

氷の刃が突然、出現した。

「なっ!?」

詠唱なしに、とんでもない量のマナが溢れる。

それはまるで壁のような、視界を埋め尽くす程の氷の刃。

狭い空洞に逃げ道はない。

(クソっ!? 呪いを使うしかないのか……。だが……っ)

ちらりとノーティスを見たローラ。


(コイツを信じるなんてシャクだが、この呪いは今使う訳にはいかないっ! この作戦、どんな犠牲を払ってでも遂行してみせるっ! お嬢様っ。お嬢様ーっ!)

彼女は賭けに出た。

愛する者の名を、心の中で叫びながら……。

「グアァァッ!?」

「そは水を食うモノなり。吸えよ食えよ肥え太れ……っ」

ノーティスは呪文を詠唱し始める。

「〝ディセクレト(神話、そして咎人)〟……か、〝アーク・エンクレイヴライト(聖域現出)〟っ。消えよこの、神の盟約を破る愚か者がっ! 目に入れるにも汚らわしいわっ」

水の聖域の現出。

その瞬間また、この世界が水で覆われてしまうっ!

そしてノーティスもローラと同じく、数多の氷を放たれてしまうが――。

「グッ!?」

雨あられと降り注ぐ攻撃を、水の魔法障壁でなんとか防いだノーティス。

そして銀髪を翻し、すぐに氷の魔法で反撃にでようとしたが……。

「……」


フッ。


マッデンに魔法構成を睨まれただけであっさりと、ノーティスが張った魔法の障壁もろとも、ノーティスの魔法全てを消滅させられてしまったっ!

「なにっ……ディスペルされたっ!?」

単一の魔法しか使えないのだ。

属性に絶対的に秀でた人間の支配。それが行き届いてしまう。

「第3階級の私の魔法が――。駆け引きも無しにこんなっ!? 馬鹿なっ!?」

魔法階級が上から3番目に属する彼女の魔法ですら、例外では無いという事。

マッデンの前では、水のマナを『扱う事』すらかなわない。

相手を魔法世界から駆逐する。これこそが本当の聖域の意義で、攻撃的な使い方である。


「くそっ!?」

瞬間ノーティスが大きく飛んで、マッデンから逃れようとするが……っ!

「ふむぅ……」

マッデンが笑いそして――。

ノーティスの目の前に氷の刃40、50……100っ!

増える氷の刃が、ノーティスを睨みつけている。

「はぁ……はぁ」

その場からは動けなくなってしまう彼女。


「ククッ……。さてさてぇ。楽しむか」

「くぅっ!?」

マッデンは、水の牢獄にレキを閉じ込めてしまった。

あっという間に傭兵の精鋭を圧倒し、レキを自分のもとに寄せるマッデン。

水を自由に、意図したとおり、見事に動かして見せる。


「水を……。この水の量を維持して操れるなんてっ!? しかも強度も高いっ! クッ。これが本物の神の右腕っ!? ゴディンなんて比じゃない力じゃないかっ」

水に呑まれながら、レキがうめく。

この世界では水と言わずどのようなマナでも、1回単発の使い切りだ。

マナを維持し、操り続ける行為。

それは圧倒的に高位な魔法練度と、何と言っても魔力容量が必要だった。

「ほぉ、やはり近くで見るとメンコイなぁ、ぶふっ。これ程小麦に焼かれても、しっかりと美しいキメと張りっ。下民よ~。良いぞっ! わしに捧げるには十分よっ! 褒めて遣わすっ!」

高らかに笑いを上げるマッデン。


「くっ、離せっ、この豚がっ!」

ばしゃっ! ばしゃしゃっ!

体幹の強いレキの、激しい抵抗を封じ込めれるだけの水の水量と強度。

これを維持し続けるマッデンは今、MPを秒単位で失っているハズ。

だが全くもって魔力に窮する気配がない。

「何を言う? 安心せよ女。我は人間の中にありて、最も神に近しき者っ! 水神様直々にお認めになった存在よ~。胸を張れっ! 我に愛される事は、神に愛されたと同義だっ! 誇り高い一族の、さらには頂点者の子を産めるのであるっ。歓喜せよ」

「かっ神に愛されたと同じだとっ!? 貴様はただの人に過ぎないっ! 高貴な我らの真の支配者。崇高なるマナの仕手。神よこの男に罰をっ!」

「歓喜……せよっ」

グギュウっ!

マッデンが笑うと、水が締まりをきつくする。

「ぐぁぁっ!?」

レキを取り巻く水圧が一気に跳ね上がり、ヨダレを垂らしてレキがうめく。


「ほれ。神をあがめよ。子が……我が神に等しき男の種が、欲しいじゃろ?」

「ヒッ!?」

マッデンが言葉をつむぐと水が――。

レキを取り巻く水が、彼女の装備を外していく。

「ここで一つ、楽しんでおこうかのぉ? たんと水に冒され、奇麗になると良い」

あっという間に水圧で鎧を外し、胸の部分をさらけ出させられたレキ。

薄紅色の突起があらわにされてしまう。

そしてそのまま腰元のズボンまでもが、水に剥がされていく。


「くっ、やめろっ!」

「ほぉ、胸が小ぶりか。まぁ仕方ない。これならノーティスのほうが良かったがのう。――そうじゃそうじゃ、あとで水でも入れて、膨らませるのも良いじゃろうて。うんうん、その小さいのも一応たっぷり遊んでから、好みに入れ替えるか。それでは……」

「クソがっ! 僕はお前の人形じゃないんだよっ!」

レキが唇をかむ。

だがマッデンには実際、そう言った着せ替え行為ができるのだろう。

マナに選ばれるとは、そう言う事だった。


「汚い言葉を使うなっ、メスが。娼婦みたいな言葉は断じてならんぞ小娘っ! ふぅ全く。じゃが……まぁ、威勢が良いのも初めだけじゃろうて。これを受ければ考えも変わるじゃろう。いっひっひっ」

ブタのような顔が歪み、水が数本ウネウネと指のような物を這いださせた。

「……」

何か、途方もなく嫌な予感に身震いするレキ。

「今から水で子宮の中までキレイにしてやるぞ。汚れも消えるし、薄汚い病気も消える。良い事じゃぁ。それにコレをすると、娘どもが静かになる。どんな貴族のじゃじゃ馬も、わしの命令には絶対服従じゃったわぃっ! 体の芯まで水に犯される感覚に、恍惚を覚える者さえおったんじゃあっ!」

「この豚が……っ!?」

レキのコメカミがヒクつく。

大勢の住民の前、レキは群れる水の触手に蹂躙されようとしている。

大勢に好機の目で見られ、そして考えたことも無い、人体実験のような人体洗浄法で辱められようとしているのだ。


「くぅううっ!?」

そして、パンツに水が入ろうとした時レキは――笑った。
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