『森蘭丸伝 花落つる流れの末をせきとめて』

春野わか

文字の大きさ
上 下
14 / 38

──2──

しおりを挟む
「…………」

 魔術師の男の、後ろ姿を睨み付ける。そして、その男に手を引かれる、戸惑った表情の女学生に視線を向けた。

「(アイツは……)」

 初めは変なヤツだと思っていた。妙に俺に突っかかってくるし。だが、それらはきっと彼女なりの心配だったに違いない。態度の忠告とか。
 彼女に出会ったのは運命だと思った。さっき、あの腕をつかんだ時に、そう感じた。
 触れた温かみが、もっと触れていたいと思えるようなその心地が、間違いなくそうだと思わざる得ない。

 彼女に触れた手を握り締める。
 あの女学生はなぜか、やけに背の高い視察の魔術師に付きまとわれているようだった。確かに、顔も整っている……というより、整い過ぎて作り物のような顔をしているし、それでいて明るく素直な様子だからな。
 よく一緒にいる友人達との会話によると、少しおっちょこちょいで天然な部類に入るらしい。
 見た目の良さや性格の可愛らしさも相まって、男達もあまり放っておいてくれなさそうだ。しっかりと好意を示しているヤツや遠巻きに見ているヤツも割といるようだし。

 そして、あの魔術師の男は危険な部類だ。妖艶、というか怪しい雰囲気の、女性のような顔の男。
 初めて見た時からあの男は危険だと、そう直感が告げていた。
 だから、思ったのだ。あのまま、彼女のそばに置いているとやがて彼女が危険な目に遭うだろうと。

「(彼女は、守らなければならない)」

 他にもならない、『勇者』である自分が。

 今まで『勇者』として生まれ、前世の記憶を頼りに生きてきた。これからも、そうするつもりだ。

「(……それの中に、アイツが加わるだけだ)」

 二人の後ろ姿は、いつのまにか見えなくなっていた。

×

「(どうすれば、アイツをあの男から守れるだろうか)」

 そう考えながら、街の中を歩いた。今日歩いた街の中には剣やナイフなどを販売している店の姿はなかったものの、きっと何処か少し離れた場所で売られているはずだ。

 俺が通っている魔術アカデミーには、門限が存在している。夕方の6時だ。時間の感覚は前の世界とほとんど同じで、俺は特に不自由は感じていない。
 なぜ夕方の6時までに帰らないといけないのかというと、それは簡単に、魔獣が出るからだ。逆を返せば、魔獣を倒せるならば夕方6時を過ぎても外を出歩いてもいいわけだが……。

「(門限を破るのは、あんまり良くないよな)」

 うっすらと、赤く色付き始めた空を見上げる。前世の世界よりも、紫っぽい色の夕焼けだ。

 記憶の中の世界は、この世界とは違い魔法はなかったけれど、魔法に似た科学力があり、それはこの世界のものを凌駕していた……ような気がする。この世界にも家電製品のようなものはあるが。

「(テレビのような、画面に映像を映し出す技術はあるんだよな)」

 店じまいをするのか、映像を映し出していた看板の色が消えた。

 逆に、何時から外に出ても良いことになっているのかというと、法律では『太陽が出始めた頃』となっているらしいが、魔術アカデミーでは朝5時からだ。

「……!」

 そこで、ふと彼女を守る方法を思い付いた。

 身体を鍛えて、自分自身が更に強くなれば良いのだと。
 とりあえず、体力をつける為に早朝の走り込みを始めることにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

『帝国の破壊』−枢軸国の戦勝した世界−

皇徳❀twitter
歴史・時代
この世界の欧州は、支配者大ゲルマン帝国[戦勝国ナチスドイツ]が支配しており欧州は闇と包まれていた。 二人の特殊工作員[スパイ]は大ゲルマン帝国総統アドルフ・ヒトラーの暗殺を実行する。

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

処理中です...