サンタに捧ぐ贈り物

春野わか

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「素直に信じられるなら、それでいいじゃない。マシューはサンタがお父さんだって知って誇らしかったんでしょ? 」

 クインはコーヒーの湯気で曇ったメガネを外して一息吐いた。

「今はすっかり汚れてしまった気がするよ。肝心なとこは子供の儘でさ」

「もう、笑わせないで、夢を叶えたじゃない。サンタになって子供達に夢を届けるという夢を。夢を見るのは子供。でも叶えるのは大人よ。マシューは子供以上に純粋かも」

「そうかな」

「きっと御両親が注いだ愛のお陰ね」

「 来年もサンタ役目指そうという気になってきたよ。今度は君と過ごすクリスマスの事も忘れないようにしないと」

 コーヒーの存在を思い出し、口に含むとかなり温くなっていた。

「サンタは大人達の夢も袋に詰め込んで背負ってるのかも。ねえ、マシュー、来年のクリスマスの前に、私の子のサンタになってくれない? 」

「え? 」

「妊娠したのよ。これ、プロポーズ」
 
 サラリと表情を変えずにクインが告げた。

「ええ? 」

 思わず外に目を遣り、またクインに視線を戻した。

 外を走る車のライトが彼女の右頬を白く照らし、ライトグリーンの瞳は澄んだエメラルドの輝きを放っていた。

「も、勿論!!イエス!イエスに決まってる。イエース!! 」

 二つの拳を高々と突き上げ大声で叫んだ。
 店内で寛ぐ数組の客と店員の視線がマシューに集まる。

「今、彼女にプロポーズされたんだ! 」

 喜びの余り、恥ずかしげも無く周囲にアピールしていた。
 パチパチと拍手の音が店内に響き、祝福の言葉を贈られる。

「本当に君には貰ってばかりだ」

「確かにそうね」

「ホントなら俺からプロポーズすべきだ」

「そうかも」

「行こう!クイン」

「何処へ? 」

「決まってるだろ? 」

 子供が描いたようなチャーミングな雪が降っていた。
 コートの上に雪の結晶の華が咲く。

 沢山のクラッカーの紐を引っ張り、飛び出た物で飾ったみたいに綺羅びやかな町並み。
 明日には何事も無かったように普段の顔を取り戻すんだろう。
 
 プレゼントの手袋が心まで温かくする。
 互いの腰に手を回して身を寄せ合う。
 
 シャンシャンシャンシャン。

 遠くで響く微かな鈴の音。
 ソリを引くトナカイとサンタのシルエットが月に浮かんでいる、

 向かう先はリース通りにあるジュエリーショップ。
 二人は弾むような足取りで歩き出した。



                 End




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