サンタに捧ぐ贈り物

春野わか

文字の大きさ
上 下
13 / 16

Ep5 All I Want for Christmas Is You

しおりを挟む
「うーん。いて! 」

 マシューが寝返りを打つと指の先が樫製ベッドのヘッドボードに当たった。
 痛みで目覚める。

「今、何時だ? 」

 景品で貰ったクローバー社製スノーマンの可愛らしい置き時計を手に取る。
 アナログの針は7時を少し過ぎた辺りを指していた。

「まだ7時か」

 クリスマスプレゼントを夜明け前まで配るというハードワークで疲労困憊のマシューは、家に帰るとすかさずシャワーを浴びベッドに倒れ込んだ。

 帰ってきた時には陽が昇っていた。
 勿論、爆睡した。
 まだ朝の7時ならと、布団を被り直す。
 温かい羽毛布団に身を埋めていたい。

 何か大事な事を忘れている。
 ふと思った。
  
「何だったっけ? 」

 ギュっと枕を抱え込む。
 ピローケースはクインと色違いで揃えた薄いブルーのドット柄だ。
 彼女も疲れていたので、途中で別れて、それぞれの家に帰宅した。

「そうだ!クイン」

 今日はクリスマス。
 サンタ役をゲットした興奮で、自分の為のクリスマスをすっかり忘れていた。
 何もプレゼントを用意していない。
 彼女に何が欲しいかも聞いていない。

「俺はどこまで間抜けなんだ。サイテーだ。プレゼントを配る事ばかりでクインへのプレゼントを忘れるなんて。ああーー」

 それに何も予定を立てていない。


 ターキーやケーキ、シャンパンを買い込んで家で過ごすのか、レストランでディナーを楽しむのか。
 どちらにしても遅過ぎる気がした。
 ターキーやケーキも、レストランも予約していない。
 手に入ったとしても売れ残り、お洒落なレストランは既に予約が一杯だろう。

 そういえばクインは何も言っていなかった。
 去年のクリスマスはまだ彼女と付き合う前だった。
 オペレーターだった彼女はどう過ごしたのだろう。
 疲れてクリスマスどころじゃなかったのだろうか。
 だから何も言わなかった?
 ベッドの上で起き上がって考えた。
 アイフォンに目を遣る。
 連絡するにはまだ早い。

「取り敢えずシャワーだ。寒い」

 部屋のライトと暖房を入れてからネイビーのパジャマを脱ぎ捨て、ブリーフまで放り投げてバスルームに駆け込む。
 熱めの湯を全身に浴び、歯を磨いて髭を剃る。
 バスタオルで身体を拭きながら、鏡の前でポージングをして気合いを入れるも、今日という日をどう過ごすか良いアイディアは浮かばなかった。

 部屋に戻り、服を身に付けてリビングテーブルに置いたアイフォンを手に取る。
 スノーマンの時計ではやっと8時だ。
 クインからの着信履歴はない。

「クインにとってはクリスマスは特別な日じゃないのかも」

 自分はすっかり忘れていた癖に、寂しく感じた。
 テーブルに顎を乗せ、クタッと脱力する姿は捨てられた猫のようだ。
 メールでも送っておこうか。
 いや、着信音で彼女を起こしてしまう可能性もある。

「こうしてても仕方が無い。カーテンを開けよう」

 分厚いモスグリーンの遮光カーテンを左右に開く。
 視界に飛び込んできた外の光景に唖然とした。
 マシューの住むマンション下にある通りの街灯が灯り、雪道をオレンジ色に照らしていたからだ。
 木々に飾られたイルミネーションも目映い。
 どう見ても夜だ。
 空には星も瞬いている。

「俺は何って間抜けなんだ! 」

 今に始まった事ではないが改めて自覚するのは辛い。
 冷静に考えてみれば目覚めたのが朝の7時の筈がないのに。

 慌ててアイフォンを手に取りクインに電話を掛けた。
 数回のコール音の後、彼女が電話に出た。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

何度死んで何度生まれ変わっても

下菊みこと
恋愛
ちょっとだけ人を選ぶお話かもしれないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...