サンタに捧ぐ贈り物

春野わか

文字の大きさ
上 下
8 / 16

しおりを挟む
 マシューが声のする方に顔を向けると、角の無い一際大きなトナカイがウインクして言った。

「ハーイ!あたし、ルドルフ4世、すんごい名前でしょ?でもさルドルフって由緒ある名前だけど何かしっくりこないのよぉ。だからルディって呼んでくれる?あんたイケメンじゃない。ま、人間の顔なんてどれも一緒だけどね。それでそれで──」

「待って!えっと、ルディ」

 ルドルフ4世と名乗ったトナカイはおしゃべりが大好きなのか、放っておくとずっと話し続けてしまいそうな勢いがあった。
 それにマシューは僅かに違和感を感じてもいたので、ルディのお喋りを中断させた。

「そーよールディ!一発で覚えてくれてサンクス!お利口さんね」

 ルディは上から目線でまたウインクした。
 間を空けるとお喋りが始まってしまう。

「君は雄なの?雌なの? 」

 慌てて質問を捻り出す。

「やーねー。そんな野暮な質問」

 ルディはブルンと首を振って他のトナカイ達に目配せした。

「ルディは雄でもないし~雌でもな~い ~心は雌で、身体は雄~~最強の~~~~トナカイ~~最強の~~おネエ~~~~」

 他のトナカイ達が素敵なハミングで教えてくれる。
 普段から練習してるのだろうか。

「そういう訳なの。分かった?マシューちゃん。ルドルフは雄の名前だからしっくりこないのよぉ」

 ルディには角がない。
 冬期に角が生えているのは雌だから確かに雄だ。
 但し、それは目に見える部分に過ぎない。
 ハートは雌なのだ。

「最強のトナカイだって?もしかして君はあの、伝説の赤鼻のトナカイ、ルドルフの子孫? 」

「そうよぉーーでも、あたしの鼻は平凡な黒。先祖の威光で輝きたくないわ。あたしにはあたしの強さがある。雄の逞しさと雌の優しさを持つトナカイは間違いなく少数派よ! 」

 少数派と言われると確かに貴重な感じがする。
 マシューの心が揺れた。
 曾祖父のソリを引いたのは赤鼻のトナカイことルドルフ1世だ。
 それにしても最強なのに売れ残っているのは何故なのだろう。

「あんた、正直者ね。心の声が丸分かりよ。あたしの勢いとノリに付いていけない臆病者が多いだけ。まあ、スケールが小さいのね」

 分かり易く言うとお喋りでハイテンションだから他の合格者達はひいてしまったという事だろう。
 マシューは迷った。

「今回が始めてでしょ?サンタやるの。なら、あたしにお任せよ。あたしを選べば今ならコーラス隊もおまけで付いてくるわよ。お得よう」

 どうやら、この強烈に個性的なトナカイを選ぶと素敵なハミングを奏でるトナカイ達までセットで付いてくるらしい。
 期間限定のように言っているが本当は常にそうなんじゃないのか。
 だがマシューはおまけという特典に弱かった。
 今、小屋にいるのはルディとコーラス隊で6頭、それ以外のまともで大人しそうなトナカイ達は9頭で合わせて15頭。
 
 ルディとコーラス隊以外の9頭の中から6頭を選ぶ事も出来るが、3頭があぶれる形になってしまう。

「おまけ……」

「おまけよ。おまけ!何故ってあたしは最強のトナカイだから。一頭でホントはソリを引けちゃうの。そこにコーラスまで付いてくるんだから迷う事ないでしょ? 」

 グイグイと自分を売り込んでくる。

「最強……」

 個性が強すぎる気もするが、一頭でソリを引けるなんて凄い。
 彼女、いや彼、彼女か彼に決めるべきなのか。

「迷ってんの?あんた、そういえばマシュー・クローバーって名乗ってたわね。ジョセフの曾孫?なら迷う事ないわ。あたしの父は寡黙で、祖父はあたしと同じでおしゃべりで陽気。初代ルドルフは弱気。弱気なアンタとあたしなら息がピッタリな筈よ」

 確かに、マシューは押しに弱かった。

「オーケー。分かった。君に決めたよ」

「Yeah!そうと決まれば自己紹介!名付けてルディの親衛隊!レディファーストHere we go! 」

 いきなりラップが始まった。

「始めはサーシャ、助ける者Yo。あなたを助け導く者Yo。サポートじゅうYo。迷っちゃダメYo。見失うな方向。Yoチェケラッチョ」

「お次はレベッカ。固めなチームワーク。あたしは輪を結ぶ調停役!ルールは遵守でプレゼント。素早く届ける聖しこの夜! 」

「俺はルーカス、光を運ぶイル・ドープ
(キテる奴)!ノエルに響かすクールなラップ。希望で道を照らすぜワッツアップ」

「俺はダンカン、褐色の戦士。余裕で利かせるぜタイトなエッジ。クルー(友達)のレペゼン(代表)。ググるなエンジン。迷うな突き進め、止めんなエンジン」

「最後はエイダン、チームのバイブス(情熱)。パワーとエネルギーこそ俺のバイブル!燃やすぜソウル!点すぜキャンドル!いつでも呼べよ。俺はインダハウス(ここにいる)」

「HEY!Yeah!HEY!Yeah!走りは上等!ノリもサイコー!息もピッタリの俺達最強!俺達選べばノーダウト。ルディのクルー、抜群にill(カッコいい)サイコーのskill!ルディはクールでご機嫌なスマイル!今日からお前は俺達のマイメン(ダチ)」

 何て多才なトナカイ達だ。
 ラップも息が合っている。
 何よりも、トナカイのラップを聞くのは生まれて初めてだった。

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

性癖の館

正妻キドリ
ファンタジー
高校生の姉『美桜』と、小学生の妹『沙羅』は性癖の館へと迷い込んだ。そこは、ありとあらゆる性癖を持った者達が集う、変態達の集会所であった。露出狂、SMの女王様と奴隷、ケモナー、ネクロフィリア、ヴォラレフィリア…。色々な変態達が襲ってくるこの館から、姉妹は無事脱出できるのか!?

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...