鷹華は幸せです。

メメント槍

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……嫌です。絶対に嫌!

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「動くな。動けば撃つ」

……え?
事態が飲み込めない。

整えられたオールバック。
サングラスを掛け、スーツに身を包んだ男が拳銃を構えて立っていた。

椅子に座ったまま振り返るご主人様。
そして棒立ちになる、私。

この展開は性急すぎるんじゃないだろうか。
私の頭では、ついていけない。

この男は一体? どうして銃を向けているのか。
その身なりは、『わざとやっているのか』と言いたくなる程に典型的な殺し屋のそれだ。

「……目的は何だ?」
「力を付けすぎた者は恨みを買う。例の財閥との関係を強めようとしているなら、尚更だな」

ご主人様は緊張に満ちた声で、問う。
サングラスの男は、淡々と答える。

かちり、撃鉄が鳴った。円筒状の弾倉が回転する。
いかにも殺し屋と言った風貌の男はご主人様に向かって銃口を定めて。

椅子に座ったご主人様は素早く動けない。
この場で直ぐに動けるのは私だけ。

足が竦む。
私は何をするにしても——要領が悪くて、想定外の事態に弱くて、行間が読めなくて。

そんな私に何が出来るんだろう?
臆病な私に何が出来るんだろう?

でも。

……嫌だ。
ご主人様をみすみす死なせるのだけは、絶対に。

「うわああああああああああああああっ!!」
「なっ!?」

混乱していた筈の私は、気付けば男に向かって駆け出していた。
男は驚愕しながらも、慌てて向かってくる私に狙いを定め。

銃声。

……と共に。
私は脚をもつれさせてしまい、派手にすっ転んだ。

「離せ、この女!」
「嫌です! 絶対に嫌!」

まさに怪我の功名。まともに走っていたら撃たれていたかもしれない。運動神経の悪さがこんな形で幸運を呼び込む事になるなんて。
意図せずして身を屈めてタックルしたかのような形になり、私は男を押し倒す様な姿勢に。そして銃を持つ腕を押さえようとする。

「くそ、こんなところで……!」
「ええ、こんなところで死なせる訳には行きませんから!」

男は予想外の反撃に驚いた様子だ。
縺れ合いながら銃声が何度か鳴り響く。

「私の気持ちを諦めて! 送り出したい人なんですよ!」
「離せ、離せぇ!」

そして終わりは呆気なく訪れる。
鈍い打撲音。

私が縺れ合っている隙に、ご主人様は部屋の端に立てかけてあった木刀を手に取って。
招かざる来訪者の頭を強かに打ち付け、気絶させたのだった。
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