鷹華は幸せです。

メメント槍

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私の同僚、可愛くないですか?

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「あーっ! またお皿を割ったわね、鷹華ぁーっ!」
「ご、ごめんなさーい!!」

同僚の給仕が悲鳴を上げた。
理由は当然、私がお皿を割ったからである。

ここは厨房だ。それもただの厨房ではない。
ご主人様の一族、給仕、庭師や料理人など合わせて屋敷に住んでいる人間は約二十名ほど。そんな人数の胃袋を満たす為の厨房である。

幾つものコンロ。所狭しと壁に掛けられた調理器具の数々。
床板は磨かれた上質な木材が使われており、靴下越しにもその高級さが感じられるのだが……そこには、無惨にも砕け散った白い小皿が数枚が!
隣で絶叫しているのは、大きな目が可愛らしいツインテールの給仕。私と同い年で、元気いっぱいの同僚だ。

私はもうどう謝っていいのか分からない程の罪悪感に苛まれながらも、ちりとりと箒を取りに走った。

「早く早く! 給仕長に見つかったらヤバいって……!」
「はい! はい! 早くやります! ごめんなさい!」
「あーっ! 誰か来そう! ヤバいよヤバいよー!!」

扉番をしながら、厨房の外に目を光らせる同僚。
そして、粉々になった破片を片付ける私。

人間そんな簡単に変われない。私がドジなのはどうにもなっておらず、やらかしたことをスマートに挽回する器量も、今の所は身に付いていないのだが。

「危なかった……あ、鷹華ケガしてない? お皿の破片とかで」
「さ、流石にそこまでドジじゃないですよ!」
「ええ? 前は、急いで片付けようとして屈んで、膝とか切ってたけど」

それでも私は、変わった。
ような気がする。

気の持ちようと言ってしまえば薄っぺらいかもしれない。
ただ、後ろ向きな気持ちと、ちょっとだけ上手に付き合えるようになった気がする。そうなってくると不思議なもので、周りからの視線もちょっとだけ変わったような気がして。

「……そう言えば、婚礼の話って聞いた?」
「あ。えーと、聞いてないですね」

無事に片付けを終えたところで、突然思い出したように話し始める同僚。“ふっふっふ”と可愛らしく含みのある笑いをしたかと思えば、

「公式な発表はまだなんだけどね、この前の縁談がいい雰囲気だったって話じゃない? トントン拍子に話が進んでるみたいよ」

突然、そんなトンデモナイ話をリークし始めた。

不思議そうにする同僚。
……どうやら私の表情が固まっていたのだと、ちょっと遅れて察する事ができた。

「そ、そうなんですか。おめでたい、ですね」
「ホントね。例の財閥の令嬢との政略結婚なんだけど、すっかり意気投合したとか。あの朴念仁のご主人様がそんな調子でうまく行きそうな雰囲気出してるからね、周りも早く話を固めたがってるみたい!」

恋バナが余程好きなのだろう、きゃー! と口許に手を添え。
私の不自然な態度も忘れ、「><」←こんな感じの目の形になる同僚。

政略結婚かぁ。
納得できる話ではある。

私がお仕えする名家は、ここ数代で武器の製造を始め、その分野では追随を許さない最先端の武器メーカーとして躍進を続けています。起源を辿れば、元は製鉄とその加工を生業としていたのだとか。

そしてさる財閥の令嬢と言うのは、幾つかの製薬会社と繋がりの深い一族。軍部に医薬品を卸してビジネスを広げる機会を生むのは勿論、火薬の調達ルートを広げる事もできる。

……いや、私は全然、詳しくないんですけどね!
ご主人様から最初に縁談の話を聞いた時、がんばって調べただけですけどね!

「なんか、雰囲気もいい感じみたいって聞いたのよー! 噂で!」
「へ、へぇ……?」
「私も恋とかしてみたくなってきた! ……ね、鷹華、私と付き合わない!?」
「えっ。ちょっ、私、そう言うのは……ひゃあ! ちょ、そこ、擽ったい……!?」

悪ふざけに同僚が抱き着いてくる。
びっくりしたおかげで、ちょっとの間、もやもやした気持ちを忘れる事ができた。
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