鷹華は幸せです。

メメント槍

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叱られましょう。

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「配膳中に、転んで食器を割ってしまうだなんて。鷹華の不注意は目に余るわ」

給仕長が溜息を付いた。
薄桃を基調とした和服姿はこの屋敷で雇われている給仕の標準的な制服で、漆色の三つ編みに眼鏡を掛けた彼女によく似合っている。

さっきの言葉もただ、私を攻撃したいわけじゃない。一般的な基準と照らし合わせても辛抱強い性格で、普段は私にも優しく接してくれる人だ。

「も、申し訳ございません……!」
「貴女には気品が備わっているように見えて、何かをやらせると本当に駄目なんだから」
「……はい」

そんな彼女を怒らせているのが、痛い。辛い。
私は項垂れながら言葉を紡ぐ。視界に映るのは、砕け散った食器類。飛び散った米、肉、野菜、ソース。
茶色のカーペットが敷き詰められた廊下にて散乱しているそれらは酷い有様だった。

「中々直らないのは、私の指導が良くないのかしら」
「私が悪いんです……ところで、後片付けは」
「私がやっておく。片付けている最中にまた怪我でもされたら大変だし」
「そんな、私がやった事なのに!」
「いいから」
「…………」

私は心中ぐしゃぐしゃになりながらも、何とかこくりと頷いた。
一礼をすればその場を後にする。

俯きながら。
早足で。

誰にもこの気持ちを悟られたくはない。
誰にも声を掛けられずに、自室まで戻らなきゃ。

朝に抱いた決意はどこへやら。
今日はずっとうまく行っていたのに、どうしてこうなるんでしょう?

運が悪い? いいえ、悪いのは私自身。

前に叱られた記憶が思い出されてくる。
マイナスの感情は、マイナスの記憶を好んで引き寄せる。

記憶の波が引くまで寝台に沈みたい。
自己嫌悪を拭うのに必要なのは、思考ではなくて時間なんですから。
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