2 / 8
叱られましょう。
しおりを挟む
「配膳中に、転んで食器を割ってしまうだなんて。鷹華の不注意は目に余るわ」
給仕長が溜息を付いた。
薄桃を基調とした和服姿はこの屋敷で雇われている給仕の標準的な制服で、漆色の三つ編みに眼鏡を掛けた彼女によく似合っている。
さっきの言葉もただ、私を攻撃したいわけじゃない。一般的な基準と照らし合わせても辛抱強い性格で、普段は私にも優しく接してくれる人だ。
「も、申し訳ございません……!」
「貴女には気品が備わっているように見えて、何かをやらせると本当に駄目なんだから」
「……はい」
そんな彼女を怒らせているのが、痛い。辛い。
私は項垂れながら言葉を紡ぐ。視界に映るのは、砕け散った食器類。飛び散った米、肉、野菜、ソース。
茶色のカーペットが敷き詰められた廊下にて散乱しているそれらは酷い有様だった。
「中々直らないのは、私の指導が良くないのかしら」
「私が悪いんです……ところで、後片付けは」
「私がやっておく。片付けている最中にまた怪我でもされたら大変だし」
「そんな、私がやった事なのに!」
「いいから」
「…………」
私は心中ぐしゃぐしゃになりながらも、何とかこくりと頷いた。
一礼をすればその場を後にする。
俯きながら。
早足で。
誰にもこの気持ちを悟られたくはない。
誰にも声を掛けられずに、自室まで戻らなきゃ。
朝に抱いた決意はどこへやら。
今日はずっとうまく行っていたのに、どうしてこうなるんでしょう?
運が悪い? いいえ、悪いのは私自身。
前に叱られた記憶が思い出されてくる。
マイナスの感情は、マイナスの記憶を好んで引き寄せる。
記憶の波が引くまで寝台に沈みたい。
自己嫌悪を拭うのに必要なのは、思考ではなくて時間なんですから。
給仕長が溜息を付いた。
薄桃を基調とした和服姿はこの屋敷で雇われている給仕の標準的な制服で、漆色の三つ編みに眼鏡を掛けた彼女によく似合っている。
さっきの言葉もただ、私を攻撃したいわけじゃない。一般的な基準と照らし合わせても辛抱強い性格で、普段は私にも優しく接してくれる人だ。
「も、申し訳ございません……!」
「貴女には気品が備わっているように見えて、何かをやらせると本当に駄目なんだから」
「……はい」
そんな彼女を怒らせているのが、痛い。辛い。
私は項垂れながら言葉を紡ぐ。視界に映るのは、砕け散った食器類。飛び散った米、肉、野菜、ソース。
茶色のカーペットが敷き詰められた廊下にて散乱しているそれらは酷い有様だった。
「中々直らないのは、私の指導が良くないのかしら」
「私が悪いんです……ところで、後片付けは」
「私がやっておく。片付けている最中にまた怪我でもされたら大変だし」
「そんな、私がやった事なのに!」
「いいから」
「…………」
私は心中ぐしゃぐしゃになりながらも、何とかこくりと頷いた。
一礼をすればその場を後にする。
俯きながら。
早足で。
誰にもこの気持ちを悟られたくはない。
誰にも声を掛けられずに、自室まで戻らなきゃ。
朝に抱いた決意はどこへやら。
今日はずっとうまく行っていたのに、どうしてこうなるんでしょう?
運が悪い? いいえ、悪いのは私自身。
前に叱られた記憶が思い出されてくる。
マイナスの感情は、マイナスの記憶を好んで引き寄せる。
記憶の波が引くまで寝台に沈みたい。
自己嫌悪を拭うのに必要なのは、思考ではなくて時間なんですから。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
狐メイドは 絆されない
一花八華
キャラ文芸
たまもさん(9歳)は、狐メイドです。傾国の美女で悪女だった記憶があります。現在、魔術師のセイの元に身を寄せています。ただ…セイは、元安倍晴明という陰陽師で、たまもさんの宿敵で…。
美悪女を目指す、たまもさんとたまもさんを溺愛するセイのほのぼの日常ショートストーリーです。狐メイドは、宿敵なんかに絆されない☆
完結に設定にしていますが、たまに更新します。
※表紙は、mさんに塗っていただきました。柔らかな色彩!ありがとうございます!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
臼歯を埋める Puffy fruit
梅室しば
キャラ文芸
【キッチンに残された十六個の歯。これを育てる、だって?】
佐倉川利玖の前に現れた十六個の歯。不思議な材質で出来た歯の近くには『そだててください』という書置きも残されていた。熊野史岐と佐倉川匠も合流して歯の正体を探るが、その最中、歯の一つが割れて芽が伸びているのが見つかる。刻一刻と変化する謎の歯に対処する為に、三人は岩河弥村へ向かい、佐倉川真波の協力を得て栽培に取り掛かる。──これは、奇妙な花の生態に翻弄された数日間のレポート。
※本作はホームページ及び「pixiv」「カクヨム」「小説家になろう」「エブリスタ」にも掲載しています。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
【完結】出戻り妃は紅を刷く
瀬里
キャラ文芸
一年前、変わり種の妃として後宮に入った気の弱い宇春(ユーチェン)は、皇帝の関心を引くことができず、実家に帰された。
しかし、後宮のイベントである「詩吟の会」のため、再び女官として後宮に赴くことになる。妃としては落第点だった宇春だが、女官たちからは、頼りにされていたのだ。というのも、宇春は、紅を引くと、別人のような能力を発揮するからだ。
そして、気の弱い宇春が勇気を出して後宮に戻ったのには、実はもう一つ理由があった。それは、心を寄せていた、近衛武官の劉(リュウ)に告白し、きちんと振られることだった──。
これは、出戻り妃の宇春(ユーチェン)が、再び後宮に戻り、女官としての恋とお仕事に翻弄される物語。
全十一話の短編です。
表紙は「桜ゆゆの。」ちゃんです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる