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あなた方は信用できません その後
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頬を染めるファシスディーテ。誰もがその手を取るものと思ったその時。
「嫌ですわ」
ファシスディーテの口から発せられたのは、拒否の言葉。
「は?え?」
「第二王子殿下、あなた様は最初からこのパーティー会場におられましたわね?」
「えぇ。わたしも在校生ですから」
「それならばなぜ最初から出てきてくれませんでしたの?私の嫌疑が晴れてから、信じていましたと出てこられましても、全てご存じで私の狼狽える様を楽しんでおられたと勘繰ってしまいますわ」
「いや、それは……」
「私と縁付けばラスナンド侯爵家の後ろ楯も手に入り、さらに冤罪をかけられた私を救い出したとの美談も、手に出来ますものね」
「ラスナンド嬢……」
「私を便利な道具だと思ってらっしゃるようですわね。第二王子殿下も、いえ、王家が」
「それは……」
王妃も第二王子も、国王でさえ答えられなかった。
「このような仕儀に相成ろうとは。陛下、王妃殿下。もうよろしいですね?娘は返してもらいます。王家に対する忠誠は変わりませんが、王家に対する援助は止めさせていただきます」
遅れて到着したラスナンド侯爵が言い放つ。
「ファシスディーテ」
「はい、お父様」
「今すぐ家に戻りなさい。例の方はお呼びしてある」
「よろしいのですか?」
パッと顔を輝かせたファシスディーテが、身を翻して上品な仕草で退出する。
その様子を呆然と見送っていた第一王子、トレニア・ジプソフィル子爵令嬢、オーギュスト・ペルティエとブライアント・バウワー、フーロックス・ラスナンドは騎士に腕を取られ、会場から退場させられた。
「ラスナンド侯爵、それでは……」
「元の婚約に戻らせていただきます。婚約が整っていたのにそれに横やりを入れ、王家の意に逆らう気かと、処刑しても構わんと先方を脅した、その前の状態に」
「まさか、ドゥフトボルケ侯爵家の……」
「えぇ。ジークフリート様との婚約です。王家に振り回され、このような面前で恥をかかされた慰謝料としては安いものだと思いますが?」
「ぐっ……」
国王も王妃も第二王子も何も言えなかった。
穏やかに笑ってはいるが、目が笑っていないラスナンド侯爵に王家の面々は、膝から崩れ落ちた。
急ぎラスナンド侯爵家に戻ったファシスディーテは、家令に迎えられ応接室に急ぐ。
「失礼いたします。ファシスディーテお嬢様がお戻りになりました」
「入って」
ラスナンド夫人の声に、身だしなみを整えられていたファシスディーテはその扉が開くのももどかしく、応接室に飛び込んだ。
「ジークフリート様っ!!」
「ディーテ、会いたかった」
ヒシッと抱き合う2人に、その場に居たラスナンド侯爵夫人とドゥフトボルケ侯爵夫人が、顔を見合わせて笑った。
その後、第一王子は王位継承権を大きく落とし、側近候補だったペルティエ辺境伯の次男、オーギュスト・ペルティエは辺境伯の大目玉を喰らい、ペルティエ辺境伯直々に鍛え直されているという。魔法師庁長官の長男、ブライアント・バウワーは、本来なら卒業後魔法師庁に入庁しエリート街道を歩む予定だったのだが、魔法師庁の下働きからの入庁となった。エリート街道からは外れてしまった形になる。ラスナンド侯爵家の長男、すなわちファシスディーテの弟、フーロックスは、縁戚の伯爵家に娘婿に出された。今までラスナンド侯爵家の跡取りとして領地経営術を学んでいた為、難しくはないだろうという判断だ。ただし花嫁は15歳年上の伯爵家の未亡人。跡取りとなる息子も娘も居る。
「なんで僕だけ!!」
「伯爵家の嫡男が事故で急逝してな。領地経営ができる男を探していたのだ。お前ならちょうど良い。伯爵家の領地経営なら出来るだろう」
「だって、僕はラスナンド侯爵家の嫡男でっ」
「その立場を放棄するような真似をしておいて、何を言う。姉であるファシスディーテを貶めたと言う事は、ラスナンド侯爵家を貶めたも同然」
「だって、トレニア嬢が……」
「ほぅ、お前もあのアバズレと関係を持っていたのか」
「お前も?」
「母親から教わった手練手管を全員に使っていたそうだ。常識ある者は行動を諌め距離を取っていたらしいが、あの場に居た4人は誑かされたというわけだ」
「トレニア嬢は……」
「王家簒奪は企んでいなかったが、ラスナンド侯爵家を貶めた事、王族の名誉を傷付け、あまつさえ不敬を行っていた事が確認され、北の女子修道院に送られた。ジプソフィル子爵家は責任を取って爵位を返上した」
「え?」
「王家も我が家もそこまでは望んでいなかったし、ファシスディーテも家は関係ないのでは?と言ったのだが。子爵は真面目な人物でな。話し合って決めていたらしい」
「そんな……」
「あの娘は今は平民だ」
がっくりと項垂れたフーロックスは、大人しく伯爵家に婿に入った。
卒業から2年後、ドゥフトボルケ侯爵家次男、ジークフリートとラスナンド侯爵家長女ファシスディーテの婚姻式が執り行われた。ドゥフトボルケ侯爵家の紋章に使われている薔薇と、ラスナンド侯爵家の紋章に使われているラナンキュラスをふんだんに使った、華やかな婚姻式で、令嬢や庶民達の憧れとなったという。
§§§§§
昨今の
「婚約破棄される→別の王族に嫁ぐ→ハッピーエンド」
も良いのですが、最後まで聞いてて、美味しいとこだけ持ってくって、なんなの?と思ってしまって書いた作品です。別の王族に嫁いでハッピーエンドの方が収まりは良いんですけどね。
「嫌ですわ」
ファシスディーテの口から発せられたのは、拒否の言葉。
「は?え?」
「第二王子殿下、あなた様は最初からこのパーティー会場におられましたわね?」
「えぇ。わたしも在校生ですから」
「それならばなぜ最初から出てきてくれませんでしたの?私の嫌疑が晴れてから、信じていましたと出てこられましても、全てご存じで私の狼狽える様を楽しんでおられたと勘繰ってしまいますわ」
「いや、それは……」
「私と縁付けばラスナンド侯爵家の後ろ楯も手に入り、さらに冤罪をかけられた私を救い出したとの美談も、手に出来ますものね」
「ラスナンド嬢……」
「私を便利な道具だと思ってらっしゃるようですわね。第二王子殿下も、いえ、王家が」
「それは……」
王妃も第二王子も、国王でさえ答えられなかった。
「このような仕儀に相成ろうとは。陛下、王妃殿下。もうよろしいですね?娘は返してもらいます。王家に対する忠誠は変わりませんが、王家に対する援助は止めさせていただきます」
遅れて到着したラスナンド侯爵が言い放つ。
「ファシスディーテ」
「はい、お父様」
「今すぐ家に戻りなさい。例の方はお呼びしてある」
「よろしいのですか?」
パッと顔を輝かせたファシスディーテが、身を翻して上品な仕草で退出する。
その様子を呆然と見送っていた第一王子、トレニア・ジプソフィル子爵令嬢、オーギュスト・ペルティエとブライアント・バウワー、フーロックス・ラスナンドは騎士に腕を取られ、会場から退場させられた。
「ラスナンド侯爵、それでは……」
「元の婚約に戻らせていただきます。婚約が整っていたのにそれに横やりを入れ、王家の意に逆らう気かと、処刑しても構わんと先方を脅した、その前の状態に」
「まさか、ドゥフトボルケ侯爵家の……」
「えぇ。ジークフリート様との婚約です。王家に振り回され、このような面前で恥をかかされた慰謝料としては安いものだと思いますが?」
「ぐっ……」
国王も王妃も第二王子も何も言えなかった。
穏やかに笑ってはいるが、目が笑っていないラスナンド侯爵に王家の面々は、膝から崩れ落ちた。
急ぎラスナンド侯爵家に戻ったファシスディーテは、家令に迎えられ応接室に急ぐ。
「失礼いたします。ファシスディーテお嬢様がお戻りになりました」
「入って」
ラスナンド夫人の声に、身だしなみを整えられていたファシスディーテはその扉が開くのももどかしく、応接室に飛び込んだ。
「ジークフリート様っ!!」
「ディーテ、会いたかった」
ヒシッと抱き合う2人に、その場に居たラスナンド侯爵夫人とドゥフトボルケ侯爵夫人が、顔を見合わせて笑った。
その後、第一王子は王位継承権を大きく落とし、側近候補だったペルティエ辺境伯の次男、オーギュスト・ペルティエは辺境伯の大目玉を喰らい、ペルティエ辺境伯直々に鍛え直されているという。魔法師庁長官の長男、ブライアント・バウワーは、本来なら卒業後魔法師庁に入庁しエリート街道を歩む予定だったのだが、魔法師庁の下働きからの入庁となった。エリート街道からは外れてしまった形になる。ラスナンド侯爵家の長男、すなわちファシスディーテの弟、フーロックスは、縁戚の伯爵家に娘婿に出された。今までラスナンド侯爵家の跡取りとして領地経営術を学んでいた為、難しくはないだろうという判断だ。ただし花嫁は15歳年上の伯爵家の未亡人。跡取りとなる息子も娘も居る。
「なんで僕だけ!!」
「伯爵家の嫡男が事故で急逝してな。領地経営ができる男を探していたのだ。お前ならちょうど良い。伯爵家の領地経営なら出来るだろう」
「だって、僕はラスナンド侯爵家の嫡男でっ」
「その立場を放棄するような真似をしておいて、何を言う。姉であるファシスディーテを貶めたと言う事は、ラスナンド侯爵家を貶めたも同然」
「だって、トレニア嬢が……」
「ほぅ、お前もあのアバズレと関係を持っていたのか」
「お前も?」
「母親から教わった手練手管を全員に使っていたそうだ。常識ある者は行動を諌め距離を取っていたらしいが、あの場に居た4人は誑かされたというわけだ」
「トレニア嬢は……」
「王家簒奪は企んでいなかったが、ラスナンド侯爵家を貶めた事、王族の名誉を傷付け、あまつさえ不敬を行っていた事が確認され、北の女子修道院に送られた。ジプソフィル子爵家は責任を取って爵位を返上した」
「え?」
「王家も我が家もそこまでは望んでいなかったし、ファシスディーテも家は関係ないのでは?と言ったのだが。子爵は真面目な人物でな。話し合って決めていたらしい」
「そんな……」
「あの娘は今は平民だ」
がっくりと項垂れたフーロックスは、大人しく伯爵家に婿に入った。
卒業から2年後、ドゥフトボルケ侯爵家次男、ジークフリートとラスナンド侯爵家長女ファシスディーテの婚姻式が執り行われた。ドゥフトボルケ侯爵家の紋章に使われている薔薇と、ラスナンド侯爵家の紋章に使われているラナンキュラスをふんだんに使った、華やかな婚姻式で、令嬢や庶民達の憧れとなったという。
§§§§§
昨今の
「婚約破棄される→別の王族に嫁ぐ→ハッピーエンド」
も良いのですが、最後まで聞いてて、美味しいとこだけ持ってくって、なんなの?と思ってしまって書いた作品です。別の王族に嫁いでハッピーエンドの方が収まりは良いんですけどね。
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スッキリ読めました。ありがとうございます。
感想、ありがとうございます。
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私も、見てるだけの美味しいとこ取りの人はノーサンキューですわ
ヒロインちゃんに1票
感想、ありがとうございます。
ですよね