【完結】もういいよね?

玲羅

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もういいよね?④

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「ぎゃあぁぁぁ」

「五月蝿い」

二発目は右膝。

「痛い痛い痛い!!止めて!!」

「ふぁにーとハンスの分は終わり。次はオロペサの分」

次に狙うのは左足首。

「ひっ!!お願い助けて」

「ふぁにーは助けても言えずに死んだ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

引き金を引こうとした僕の手を、イウナリアの手から逃れていたK9が止める。

「駄目だよ」

「K9、止めるの?」

「殺しちゃ駄目だよ。機械的なサビ猫は見たくないからね」

「K9……」

「あの扉の封印を解こう。それがハンスとふぁにーの願いだったでしょ?」

「……うん」

ハンドガンを下げる。K9はイウナリアの手当てを始めた。

「どうして?」

「サビ猫の為。僕だって怒ってるんだよ?でも感情を失くしたようなサビ猫は見たくないんだ」

「感情を失くした?何があったの?」

「答える義務は無いよね?」

冷たく笑ったK9がふぁにーが使っていた杖を渡すと、イウナリアは素直に受け取った。

「これって……」

「ふぁにーがしばらく使っていた」

「そう……」

イウナリアを気遣って歩くK9の、先に立って歩く。

「イウナリアはマギ求で何の職業だったの?」

「スナイパー。今は役に立たないわね」

電波塔にたどり着いた。

「ハンスはどの辺りで?」

「手前100m位の所」

「サビ猫、気持ちを落ち着けておいで」

「K9を1人に出来ない」

「大丈夫だから」

K9の言葉を受けて引き返す。ハンスが亡くなったであろう場所で黙祷を捧げた。

『サビ猫、必ず帰るんだよ?君達には未来があるんだから』

ハンスの声が聞こえた気がした。

大きく深呼吸をして気持ちを切り替える。

「お待たせ。行こうか」

「もう良いの?」

「うん」

短い会話を交わして電波塔に入る。

「サビ猫、K9。これ……」

それを見付けたのはイウナリアだった。

「換字暗号かな?」

解いてみると『J、R、P、H、Q、Q、H』となった。

「もしかして更に変換が必要なの?」

「シーザー暗号でも当てはめてみる?」

「1文字ずらしは……駄目。2文字ずらしは……これも駄目だね。3文字ずらしは……えっと、『ごめんね』?」

「ごめんねって……」

「何に対しての謝罪だよ?」

僕が苛立って吐き捨てると、K9が背中を撫でて落ち着かせてくれた。

「あのドアはテンキーのダイアル式だったよね?」

「最終的には全ての組み合わせを試しても良いけどね」

「桁数も分からないのに?」

「だよねぇ」

イウナリアが分からない顔をしていたけど、説明せずに更に電波塔内を探す。電波塔の柱に目立たない色で単語?文章?を見付けた。

「『待ってる 』『会いたい』?なんだこれ?」

「何かの暗号?」

「なんだか単純な気がするんだけど」

「K9?」

「ん~?」

K9が考え始めた。K9はこういった謎解きが得意だ。僕も好きだけどK9には敵わない。

「サビ猫、K9っていつもこうなの?」

問いかけるイウナリアをあえて無視して、K9を視界に納められる範囲を調べ始める。

「サビ猫ってば」

「僕は許した訳じゃないからね?それは覚えておいて」

「う、うん」

気不味そうなイウナリアをそこに放置して部屋の真ん中をまっすぐ貫いている太い柱を見る。

「ここにも『待ってる 』『会いたい』、か」

僕が見付けただけでも同じ文字が5ヶ所で見付かった。

「あれ?」

イウナリアがすっとんきょうな声をあげた。

「どうしたの?」

「これって扉、よね?」

「そうだね」

壁にまっすぐ入った切れ目。右側を押すとカチッと音がしてポッカリと空間が開いた。同時にパパッと灯りが点いていく。

「K9を呼んでくる」

イウナリアを残してK9を呼びに行く。

「分かった。これって語呂合わせだ」

「語呂合わせ?」

通路を進みながらK9と話をする。

「うん。たぶんあの部屋のテンキーのダイアル式キーのパスワードだと思う」

通路は校舎に繋がっていた。校舎に入って扉の部屋を目指す。K9がテンキーの数字を押す。

『0106 1101』

ピッと音がして扉が開いた。

「3人?あの状況で?」

そんな声が聞こえた直後、僕の意識は暗転した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

目覚めたのは病室のような白い壁の部屋。そこのベッドに僕は寝かせられていた。頭にいくつもコードがくっついている。

「目が覚めたかい?」

「ここは?」

「世界CPNSJP支部東都総合研究所だよ。君は意識不明になってすぐこちらに運ばれた。さっき連絡があって君の友達も無事に目覚めたそうだよ」

「友達?」

「あちらでは何と名乗ってたのかな?マギ求の世界では」

「僕?僕はサビ猫だけど」

「そこの世界で友達は居なかったかい?」

「K9?」

「そうだね。世界CPNSJP支部西都総合研究所の彼もそう名乗ってる」

「K9も無事だったの?」

「無事だよ。あちらで死亡判定を受けた人達はしばらく静養が必要だったけどね。おおむね快方に向かってるね」

「ハンスやふぁにーも?」

「世界CPNSJP支部南都総合研究所とUN研究所の2人かな?南都の彼はずっと君達を気にかけていたよ。南都研究所の彼はまだ静養中だね」

「誰か1人しか戻れないっていうのは?」

「プログラムAIの暴走だ。巻き込んでしまって悪かったね」

1週間後、検診で研究所を訪れた僕を待っていたのは、35歳位の男性と20歳代後半の女性、それから僕と同じ年代の青年。

「サビ猫?」

「そうだけど?」

「僕はK9。はじめましてだね」

「ふぁにーよ」

「ハンスと名乗っていたね。ハハハ。ちょっと照れ臭いね」

「良かった。無事だったんだ」

「他の面々にも声をかけたんだけどね。ヘッジホックは家族に反対されたそうだよ。イウナリアは合わせる顔がないって」

「そうなんだ」

ハンスとふぁにーはぎこちない雰囲気だったけど、手を握っていてバレバレだった。

K9はこちらに引っ越してくるらしい。

「えっ?引っ越してくるの?」

「父親の仕事の都合でね。この研究所の近くだよ」

僕達が巻き込まれたAIの暴走は、大々的に報道されて、僕達もしばらくは大変だったけど、徐々に落ち着きを取り戻してきた。K9とは良い友人関係を築けている。ハンスとふぁにーともたまに会ってゲーム内で一緒に遊んだりもしている。

AIの暴走は、AIが自我を持ち、特定の人物に感情移入したから起きた事件だったらしい。これは極秘事項なんだけど、研究所の人が当事者にだけ教えてくれた。

AIの暴走から半年経った頃、僕とK9を訪ねて1人の女の子が東都総合研究所にやって来た。

「お久しぶりです。イウナリアです」

消えそうな細い声で自己紹介した彼女は、電脳空間でしてしまった殺人を重く受け止めすぎたらしい。世界中を回って自分が迷惑をかけた人に謝罪しているのだそうだ。

「あの時はすみませんでした」

「それを言うなら僕もイウナリアを撃ったよね?」

「でもそれは私がっ……」

「実際に殺人を犯した訳じゃないけど、痛覚設定が撤廃されてたらしいから、結構苦しかった。でも本気じゃなかったでしょ?」

「それでも、2人の事を殺そうとしました。本当にすみませんでした」

ひとしきり謝った後、イウナリアは帰っていった。

僕達は電脳空間での適応力が高いからと、東都総合研究所で時々アルバイトをしている。今後AIの暴走がまた起きないとは限らないから、その対策としてAIの監視役という立場を与えられた。要するにAI相手のカウンセラー?遊び相手?をしているのだ。

僕達が巻き込まれたAI暴走を期に、電脳空間でのゲームは少し変わった。痛覚設定は最大で50%までしか上げられないだとか、他にも色々。僕達にはよく分からないけど。

今後こういうが起きなくなれば良いなと思っている。





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