【完結】もういいよね?

玲羅

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もういいよね?③

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「とりあえずアルテミシアとノトゥウィードを採取してくるよ」

「待ちなさい。私も行くよ。ふぁにー、ヘッジホック、ここに居てくれるかい?」

「傷が治らないと何も出来ないわ。ここで何か作れそうなものを探しておくわ」

「ふぁにー、包帯を変えましょう。新しいのもあるのよね?」

「降ろしておくよ。棚の上の方だしね」

ハンスが奥に入っていった。救急セットは別の部屋だったはずだけど?

「あったあった。これだよ」

「ありがとう。ふぁにー、巻き直しをするわ。その前に洗わないと」

ヘッジホックがふぁにーの手当てを始めた。ハンスが僕とK9を連れて外に出る。

「警戒して進もう」

「僕が先行するよ。警戒範囲が広いから」

僕を先頭にして慎重に進む。偽装岩の場所をハンスに教えて、アルテミシアとノトゥウィードを探す。どちらもよく見かける薬草だからすぐに見つかって、30分かけて採取した。

戻るとふぁにーとヘッジホックが談笑していた。見慣れない器具が置いてある。

「おかえりなさい」

「その器具は?」

「こっちは理科実験室らしき所から持ってきたの。今から点検修理をするわ」

「これは調理室から」

「すり鉢?」

「磨り潰す作業があるから。本当は専用の器具があるんだけど、代用よ。乳鉢と乳棒があればいいんだけど、今はそんな事は言っていられないし」

そう言ってハンスが細かく刻んだアルテミシアとノトゥウィードを、ヘッジホックがすり鉢で磨り潰す。

「スキルが使えれば楽なんだけど」

そんな事を呟きながら薬草を磨り潰している。ハンスによるとヘッジホックにスキルが使える事は言っていないらしい。調薬師に限らず最初に全工程を手作業で行えば、スキルとして定着し、次からスキルで物が作れるようになるのだそうだ。そこはふぁにーも同じだったらしい。

出来た傷薬をふぁにーの傷に塗り、ガーゼを当てて包帯を巻いていく。

「これで少しは楽になると思うわ」

「ありがとう。けっこうすぐに効いてくるわね」

「その辺りは謎ね。マギ求では傷が塞がるのも早かったわ。軽微な傷ならこの塗薬を塗ればすぐに治ってたし。ふぁにーの怪我なら3時間位で治ってたわ」

「痛みは引いたわ。傷はまだ塞がってなさそうだけど」

「早いわね」

「もう少し様子見ね。歩かない方が良いのかしら?」

「そうね。あら?それは?」

「昨日見付けてきたのよ。メッセージを送れないかと思って」

「ホワイトボードでも作るの?」

「手書き用なんてこの世界でしか使わないわよね」

ふぁにーが手際よくスチール板を切っていく。塗料はどうするのかと思っていると、の塗料缶を2つ取り出した。

「奥にあったの。たぶん使えると思うわ」

スチール板を白く塗り、黒色で大きく「一緒に帰りませんか?」と書いた。

「それを見て、そうだな、なんて考えるかしら?」

「考えないでしょうね。でも、何もせずにはいられないの」

「どこに設置する?」

「川向こうかしらね」

「そうだね。行ってくるよ」

「ハンス、一緒に行く」

ハンスと一緒に外に出る。

「サビ猫、ヘッジホックには気を付けた方がいい」

「ヘッジホックに?」

「あれはすぐに仲間を裏切る。便利に使えるだけの人間と認識しておいた方がいい」

「何かあったの?」

「マギ求で何度か組んだが、2度裏切られた」

「ふぅん。覚えておく」

ハンスの意外なほど冷たい声に、ゾッとしながらも頷いた。

お目当ての場所にメッセージボードを設置し、拠点に戻る。

次の日、ふぁにーの傷はほぼ完全に治っていた。今日は拠点の全員で川向こうの廃墟に行ってみる事にした。ヘッジホックは武器を携帯していない。本人からうまく扱える自信がないと申告されたからだ。

廃墟まで行って周囲を調べる。少しの間、全員が1人行動になった。しばらくするとガスッという音と何かが倒れる音がした。警戒して音の方に進む。

「ふぁにー!?ふぁにー、しっかりするんだ」

「きっ、傷薬を」

少し時間が経ってから、慌てたハンスとヘッジホックの声がする。角を曲がるとふぁにーを抱えたハンスと呆然とするヘッジホックがいた。

「ふぁにーは?」

黙ってハンスが首を振る。

サラサラとふぁにーの身体が光の粒子になって消えていく。

「サビ猫、ふぁにーって聞こえたけど、ふぁにーに何か?」

遅れて到着したK9がふぁにーが居ない事に気付いて聞いたのに、僕も首を振った。

拠点に帰り、みんな黙って座り込む。ハンスに至っては寝室に閉じ籠ってしまった。

「たぶん、ハンスはふぁにーを好きだったんだと思うよ」

「そうなの?」

「ふぁにーと居るとハンスがスゴく嬉しそうだったんだ。見ていてこっちが恥ずかしかった」

K9と話していると、教室を調べに行っていたヘッジホックが戻ってきた。

「あのね、変なのを見付けたの。私には分からなくて」

「何が分からないんですか?」

「4桁から5桁の数字が4つ書いてある落書きを見付けたの」

「4桁から5桁の数字?それって……」

「見てみないと分からないな」

3人で教室に上がって、落書きの場所に案内してもらう。

「これですか」

「これって四角号碼しかくごうまだよね?」

「だよね。えっと……」

「下に行って解かない?」

「だよね。数字だけ写していく」

K9がメモをし終わるのを待って、地下室に戻る。

「ねぇ、それってなんなの?」

「おそらく四角号碼しかくごうまです。漢字を形から数字で表したものです。 漢字の4つの角の部分の形をもとに、横棒なら1、縦棒なら2、十字なら4のように線の形ごとに0~9の数字をつけます。最大5桁で1つの漢字を表すんです」

「……ごめんなさい。何を言っているのか分からないわ」

「解いてみます。少し時間をください」

K9と一緒に解読する。

「こっちは背信棄義はいしんきぎだね」

「こっちは不俱戴天ふぐたいてん。どっちも裏切りとかそういう意味だよね?」

「誰かに恨まれる覚えがないんだけど?」

「僕も」

ハンスが寝室から出てきた。

「なんだい?それは」

「教室の隅にありました。四角号碼しかくごうまです。こっちが解読した文字です。どちらも裏切りとか強い憎しみを感じさせる熟語です」

「誰かの巻き添えって訳かい?」

「たぶん。『誰か』が誰かは分からないけど」

翌日からハンスは何かを忘れるように探索に没頭した。校舎の周りも1人で調べはじめて、恐竜に襲われても意に介していなかった。

「生き急いでいるように見えるね」

「だよね」

K9と話をしていたそんな頃、ヘッジホックが殺られた。恐竜に殺られたかイウナリアに殺られたのかは分からない。ただ名前が消えていた上、拠点に帰ってこなかった。

「ハンス、戻ろう」

「もう少しここを調べたいんだ。2人は戻ってくれ」

「そうは言ってももう調べ尽くしたじゃないか。後は電波塔の近くだけだよ」

「じゃあ、そこに行こう」

「今から?」

周りは暗くなってきている。イウナリアの居場所は分からないけどもし僕達をどうにかしようと思ってるなら、この暗さはちょうど良いと思う。それに夜行性の恐竜も居るし。

「ハンス、待ってよ」

「急ぎたいんだ。2人は戻ってても良いよ」

ハンスが拠点から離れていった。

「ハンス、待ってってば」

「仕方がない。探しに行こう」

校舎を出て残照の残る草原を進んでいる時だった。

「そのまま動かないで」

K9の首に縄が巻かれた。

「イウナリア?」

「そうよ。帰るのは私だけで良いわ。あなた達は死んでちょうだい」

「ハンスは?」

「ふぁにーの所に送ってあげたわ」

「ヘッジホックを殺ったのは?」

「私よ」

一歩進むとK9の首の縄が絞められた。

「そうなんだ」

それを見た瞬間、僕の中で何かが消えた。

「K9、もういいよね?頑張ったよね?」

「サ……ビ猫……」

ゆっくりとハンドガンを構える。イウナリアがハンドガンを見て顔をひきつらせた。

「それをどこで?」

「拠点」

一発目はイウナリアの腕を狙った。

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