3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
上 下
307 / 328
学院中等部 8学年生

第2王子妃殿下

しおりを挟む
「失礼したね」

「いいえ。正しい権力の使い方だと思いますわよ」

「ああいうご老人って、貴族にも居るんですねぇ」

「貴族のほうが多いと思うよ。早速根回しをしてくるよ。サフィアを安心させてやりたいし」

 サフィア妃殿下を愛されてるんだな、と思う。第2王子が立ち去ってから、さっき気になった事をサミュエル先生に聞いてみた。

「先生、わたくしと先生の仮婚約なのですが、お義父様の妨害はしておりませんわよね?」

「してないね。その辺の根回しは済んでるよ。キャシーちゃんは『行方不明の婚約者を健気に待ち続ける光の聖女様』で、『今回の私との仮婚約は海外からの横やり除け』という事になっているから。実際にそうだしね」

「それならよろしいのですが」

 夜会が終わって翌日には、第2王子妃殿下からお茶会の招待状が届いた。

「キャシーちゃん、これは何かしら?」

 そしてお義母様に呼び出されて、問い詰められる私。

「第2王子妃殿下からのお茶会の招待状です」

「それは見れば分かるわ。どうしてキャシーちゃんに届いたのかしら?」

「ご相談事かと」

ねぇ」

 なんだかトゲがあるなぁ?

「お義母様、第2王子妃殿下はどのようなお方なのですか?」

「第2王子妃サフィア様は、元はグロゥ男爵家のご出身よ」

「え?わたくしはディアベル伯爵家の令嬢だったと、お聞きしていたのですが」

「見初めた相手の身分が低いからと、養子縁組みするなんて、一般的な手段でしょう?」

 それはそうだけど。

「第2王子殿下には当時他に婚約者がいらっしゃったのよ。キューロー伯爵家のご令嬢で、とても気立てのいいお嬢様だったわ。でもね、儚くなってしまわれたの」

「そうだったのですか」

「第2王子殿下の悲しみに付け込んだのが、今のサフィア妃よ」

 わぉ、ララさんが喜びそうなシンデレラストーリー。

「あの方が悪いとは言わないけれど、良い印象は持たれていないわね。特に高位夫人達の支持はほとんど無いわ」

「その辺りのストレスも、お悩みに関係してきそうですね」

「お悩み?子が出来ない事かしら?」

「はい。夜会の時に、第2王子殿下にご相談をされました」

「臣籍降下されればいいのでしょうけど、王族は難しいから」

 王族の臣籍降下は、王太子殿下の子が立太子確実となってからという取り決めがある。つまり、現王が譲位しないと臣籍降下出来ない。王位継承争いを避ける為にと、その昔に決められたらしいけど、今の状況に合ってないよね。決められた当初は、側妃がたくさん居たらしいし。

「時代に即した王室典範に改正するには、手続きが複雑すぎるのよね。反対する元当主も居るし」

 要するに当主でなくなったのに、隠居せず王宮で口だけ出す老害が居るって訳ね。そういう人って自分の事を重鎮だとか重要人物で、頼りにされてるって思い込んでるのよね。実際に目撃したけど、ああいうのがゴロゴロしてるのか。

 思わずため息が出てしまった。

 お茶会の日。サミュエル先生が迎えに来てくれて、馬車に乗る。

「キャシーちゃん、ずいぶんと難しい顔をしているけど?」

「先生はすぐにお分かりになりますのね」

 もうひとり、先生より私の変化に気付く人が居た。ローレンス様だ。本当にどこにおられるんだろう?

「何か懸念材料でも?」

「懸念材料というか。王宮を離れられたら、お子が出来るのでは?と思っただけです」

「その訳は?」

「ストレスが少なからず関係していると思いますので」

「ストレスか。あるだろうね」

「しかも妃殿下だけの話じゃないんですよね」

「と、いうと?」

「第2王子殿下にも関わってきます。ストレスが原因の男性不妊もあるんですよ」

「男性不妊というのもあるっていうのは知っているけどね。ストレスは溜まるだろうね。王宮だし」

 王宮の第2王子宮に案内される。第2王子宮は政務宮の北西にあって、少し寂れていると感じた。

「扱いに差がある訳じゃなさそうなんだけどね」

「周りの思惑ですか」

「だろうね」

 第2王子がかろんじられている訳じゃない。でもサフィア妃はかろんじられているんだろうな。

 サミュエル先生と別れて、私だけお茶会の会場に案内される。

「光の聖女様、ようこそいらっしゃいました」

「本日はお招きいただき、ありがとう存じます」

 お茶会にはもう2人、招かれた人ゲストが居た。なんだか敵がい心を顕に私を見てるんだけど。この2人に見覚えはない。

「ずいぶんお若いです事。私達の話に付いてこられるのかしら?」

「第2王子妃殿下のご友人に名を連ねられる名誉を得るのは、簡単じゃなくてよ?」

 言外に「お呼びじゃないのよ、ガキンチョが」って聞こえるんだけど。たぶん気の所為せいじゃない。

「第2王子妃サフィア様。ご紹介いただいても?」

「えぇ、わたくしふるくからの友人達なの。彼女がガドール家のマデリン様、彼女がメイジャー家のイオタ様よ。2人共、この方は光の聖女様候補のキャスリーン・フェルナー様です」

「「光の聖女様候補?この子……方が?」」

「初めてお目もじいたします、フェルナー侯爵が長女、キャスリーン・フェルナーにございます」

 少し嫌味っぽかったかな?丁寧にカーツィーをしてみたけれど。

「あ、その……」

「私達は、その……」

「お2人は、サフィア妃殿下のご友人であられるのですよね?」

「えぇ。先程はごめんなさい」

「お謝りになられないでくださいませ。お2人がサフィア様を守ろうとしておられる、そのお気持ちは伝わりましたから」

「あのっ」

「はい」

「光の聖女様候補って、本当に?」

「はい。任命はまだですが、実力的には十分だと仰っていただきました」

「今日は、その?」

「先の夜会で、第2王子殿下からご相談をお受けいたしまして」

「相談って、え?光の聖女様に?」

わたくしは転生者でございます。前世でも医療に携わっておりましたので、お力になれるかと。第2王子殿下はサフィア様を殊更気遣われ、お悩みの解消を、と願われました」

「でも、悩みの解消と言っても……」

「そうですわね。一朝一夕にはまいりません。まずは環境改善からですね。失礼ですが、サフィア様、王宮をお出になる覚悟はございますか?」

「王宮を出る?」

「別に第2王子殿下と別れろなどと言う気はございません。ただ、サフィア様にとって、王宮は居心地の良い場所ではないのでは?と推察したまででございます」

「確かに居心地は悪いわ。付けられた侍女も不満げな人が居るし」

 やっぱり。茶器も揃いの物じゃないし、わざとやっているんだろうな?と察せられるほど、おしゃべりの声が聞こえる。

「サフィア様は王子妃として立派に頑張っておられるのに、侍女の程度は低いですのね」

 声高に言うと、おしゃべりの声がピタッと止んだ。

「お義父様にも報告しておきますわ。ブランジット公爵家のサミュエル様は、今はわたくしの仮婚約者ですから、そちらにも話してしまうかもしれませんわね」

 バタバタという音が聞こえた。おそらくは準備室から。

「フェルナー様、何を?」

「耳障りでしたので。お義父様やブランジット様にお話しはしようと思いますが、おそらくあの侍女達は解雇か降格でしょうね」

「でも今までどうにもならなかったのよ?」

わたくしの推測ですが、爵位や家名を見て、その人を見ていない方ばかりだったのでしょう。わたくしの事も「フェルナー侯爵家の娘」だから丁寧に接してくれたのでしょうし、お2人の事は「男爵の娘」だからと下に見ていたのでしょう。でなければ茶器にこのように差が出るはずがございません」

「え?茶器の差?」




     
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

【完結】裏切っておいて今になって謝罪ですか? もう手遅れですよ?

かとるり
恋愛
婚約者であるハワード王子が他の女性と抱き合っている現場を目撃してしまった公爵令嬢アレクシア。 まるで悪いことをしたとは思わないハワード王子に対し、もう信じることは絶対にないと思うアレクシアだった。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

こういうの「ざまぁ」って言うんですよね? ~婚約破棄されたら美人になりました~

茅野ガク
恋愛
家のために宝石商の息子と婚約をした伯爵令嬢シスカ。彼女は婚約者の長年の暴言で自分に自信が持てなくなっていた。 更には婚約者の裏切りにより、大勢の前で婚約破棄を告げられてしまう。 シスカが屈辱に耐えていると、宮廷医師ウィルドがその場からシスカを救ってくれた。 初対面のはずの彼はシスカにある提案をして―― 人に素顔を見せることが怖くなっていたシスカが、ウィルドと共に自信と笑顔を取り戻していくお話です。

処理中です...