3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 8学年生

オルブライト様の牧場 ③

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 搾乳体験が終わると、朝食の時間。チーズとミルクのスープとパン。スープはポタージュだったけど美味しくいただいた。朝食後には他の宿泊客も外に出てきて、セシルさんやララさんと話をしていた。

「スゴいわね。あんなに物怖じせずに話しかけられるなんて」

「セシルさんはお商売をなさっておられますし、ララさんは救民院で慣れているのもあるのでしょうね」

「君達はどこから来たんだい?」

 リーサさんと話していると、男性が2人、話しかけてきた。

「王都です。こちらのオーナーと知り合いで」

「ここは良い所だよね。のんびりしているし。この後乗馬をするんだけども一緒にどう?」

 ナンパだろうか?やけに馴れ馴れしい。

わたくしは初心者ですから、ご一緒には楽しめないと思いますわ。申し訳ございません」

「私も今回が初めてですので。お断りいたします」

「初心者なんだぁ。教えてあげるよ?」

「申し訳ございません」

 再度お断りすると、腕を掴まれた。

「良いからこっちに来なよ。ちょっと紹介したい人が居るんだ」

「おやめください」

「キャシーちゃん!!ちょっとその子を離しなさい」

「お嬢さん達も一緒でも良いよ。女性が多い方が楽しいし」

 ララさんが飛んで来てくれたけど、男性は強引に私を連れていこうとする。

 今回は友人と一緒だからと、護衛は付いてきていない。魔法を使えば逃げられると思うけど、どうすれば良いか判断がつかない。迷ってしまったその隙に、男女が男性の後ろに立った。

「その方を離してくださいね」

「少しお話をしましょうか」

 誰だろう?男性の手首をキュッと握って、私から手を離させる。力を入れていないように見えるのに、相当痛かったようで、男性が悲鳴をあげていた。もうひとりも追い払われた連れていかれた

「助けが遅くなり、申し訳ございません。ブレンダー家の者です」

 ブレンダー家?

「ありがとうございます。彼の方のご配慮ですか?」

 リーサさんは知っているみたい。私とララさんは誰だか分からなくて、ポカンとしていた。

「キャスリーンさん、コテージ客棟に戻りましょう」

「はい」

「ララさん、セシルに事情を説明してくれる?その後は離れないで」

「分かった」

 ララさんがセシルさんの側に行って話をしている。事情説明だと思う。その間に私とリーサさんはブレンダー家の者だと名乗った男女とコテージ客棟に入った。

「リーサさん……」

「ミルクを温めてくるわ。その間にキャスリーンさんは腕を治しておきなさい」

 掴まれた腕が赤くなっていた。黙って光魔法を使う。その間、男女は私を守るように立っていた。

「キャスリーンさん、座って。あなた達も」

「失礼いたします」

 ハチミツの味がする温かいミルクが入ったカップが、コトリと置かれた。

「飲んで落ち着きましょう」

「この方達は?」

「さっき名乗ったでしょう?ブレンダー家の方達よ」

「ブレンダー家ですか?」

「ブランジット公爵家の分家だったかしら?」

「分家というより、配下と捉えていただければ。サミュエル様のご指示です。仲の良い4人で楽しめるように、なるべく接触するなと指令を受けております」

「サミュエル先生の……。そうですか。先程は助けていただき、ありがとうございます」

「助けに入るのが遅くなってしまい、申し訳ございません」

 お礼を言うと、反対に頭を下げられてしまった。

「さっきの人達は?」

「尋問して背後関係を調べます」

「もしかしてお2人だけではないのですか?」

「はい。後5人居ります」

「あ、一番大きいコテージ客棟に泊まってる方って……」

「私共です。『テンセイシャ』の方々の護衛も兼ねておりますので」

「さっき、助けが遅くなった理由は?」

 リーサさんが少し怒って聞く。

「申し訳ございません。判断に迷いました」

 友人だと思っていたって事かしら?

「まぁ良いわ。今後は私達は良いからキャスリーンさんを守ってちょうだい」

「リーサさん」

「この4人の中の最重要人物は、間違いなく貴女よ?キャスリーンさん」

「貴族で光の聖女候補だからですか?」

「それだけじゃないわ。でもね、キャスリーンさんは代わりが居ないの」

「……リーサさん、何をご存じなのですか?」

「たいした事は知らないわ。ただキャスリーンさんはいろんな注目を集めているって事は、分かってるわよね?例えば私はマルムクヴィストの娘だけど、特に何かを求められている訳じゃないわ。セシルもロシュフォールの娘だけど、何かの役割がある訳じゃない。ララさんは光魔法使いで、頑張って修行すれば、光の聖女候補になれるかもしれないけれど、本人にその気が無いのよ」

わたくしも、光の聖女になりたい訳では無いのですが」

「でも、強力な治癒魔法と浄化魔法を使っているでしょう?聖人、聖女に任命される基準は不明だけど、間違いなく何かの功績を残していると思うの。詳細が発表されていないから、分からないけどね」

わたくしの功績なんて……」

「キャスリーンさんは今は学院生で国外には出られないけど、もし学院生じゃない状態で、どこかに怪我や病気で苦しんでいる人達が居ると知ったなら、どうする?」

「向かいます。反対する人は説得します」

「それが、光の聖女候補たる最大の理由だと思うのだけど」

「でも、これは特別な事ではありません。怪我や病気で苦しんでいる人達が居て、私にはそれを治す力がある。それなら行かない理由がありません」

「たいていの人は、そこで躊躇するのよ」

「そうでしょうか?」

 そこまで話した時、ララさんとセシルさんが戻ってきた。

「なぁに?何の話?」

「キャスリーンさんが特別な存在だって話よ。自覚はあるのに自覚が無いんだもの」

「光魔法使いは貴重だって自覚と、その中でも特別だっていう自覚が逆比例してるのよね」

「困っちゃうわよね。そんな所が可愛いんだけど」

「逆比例?反比例じゃなくて?」

「同じ意味よ」

 話をしながら、なぜかセシルさんが私の頭を撫でている。

「あの、セシルさん?」

「なぁに?キャスリーンちゃん」

「なぜわたくしは、頭を撫でられているのでしょう?」

「可愛い妹分を愛でるのは、姉の私の特権なのよ」

「話がズレていませんか?」

「ズレてないわよ?」

 ズレてますよね?ブレンダー家の人達も笑いをこらえてますけど。

「あ、ズルい。私も」

 ララさんが寄ってきた。

「ララちゃんを撫でるの?」

「違うわよ。私が撫でるの。キャシーちゃんを」

「撫でた事、無かったの?」

「無いわよ。キャシーちゃんは侯爵令嬢よ?出来る訳無いじゃない。それにローレンス様ががっちりガードしてたし」

「そのローレンス様に直接お目にかかった事は無いけど。聞いてる限りじゃずいぶん重い方なのね。溺愛されちゃってた?」

「されちゃってた。人目も憚らずイチャイチャしようとして、キャシーちゃんが諌めてたのよ。私も学院時代しか知らないけれど」

 ブレンダー家の皆さんがソワソワしだしたから、目で合図して出ていってもらった。

「2人共、いい加減になさい。キャスリーンさんが疲れちゃうでしょ?」

「あ、そうだ。オルブライトさんにさっきの事を話したら、乗馬は明日以降に回した方が良いって。ナンパ野郎共は明日には帰る予定だからって言ってた」

「それが良いわ。じゃあ、今から何をする?」

「好きな事で良いんじゃない?」

 セシルさんの言葉に、それぞれが好きな事をし始めた。セシルさんとララさんはコテージ客棟から出ていった。羊達を見に行くんだって。



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