3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 8学年生

オルブライト様の牧場 ②

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 4人でワイワイ話していたら、オルブライト様が来てくれた。とはいってもセシルさんと話を始めてしまったから、私達は帰ってきたブランカさんの案内で、乳製品の素ともいえる牛を見に放牧場に行った。

「ここの牛達は白黒じゃない方が多いのね」

「牛の種類が違うんです。乳成分も種類によって違いますし」

 ブランカさんは乳牛達のお世話はそこまで関わっていないけれど、牛の知識は物凄く深い。利き牛乳なんかも出来るようで、私達も体験出来るようだ。

「殺菌消毒は浄化の魔道具よね?」

「はい。極小型の物で、熱を加えて殺菌するよりも味が良いんですよ」

「でも、低温殺菌だったら、十分美味しいと思うけど?」

「時間がかかりますし、温度の調整も大変ですから」

「低温殺菌?」

 ララさんが不思議そうに聞く。私も詳しい訳じゃないのよね。こういうのは専門家に聞く方が正確だと思う。

「牛乳は殺菌しないと飲めないんです。生乳には、ウシにも人にも感染する可能性のある感染症人獣共通感染症の病原体が混入している可能性が否定出来ませんから」

「そうなの?じゃあ、寝転んで直接ミルクを口にって出来ないの?前回もさせてもらえなかったけど」

「許可出来ません」

「ララさん、浄化した牛乳もとっても美味しかったじゃないですか」

「美味しかったわよ?でも、直接ならもっと美味しいんじゃないかって思ったの」

「人獣共通感染症にかかるのと、一時の美味しさと、どちらを選びますか?って事になってくるのよ。苦しい思いはしたくないでしょう?」

「う……。そう言われると……」

 リーサさんと2人で説得すると、名残惜しげではあるけれど、諦めてくれたみたい。

「専門家の言う事には従った方が良いわ」

「そうですわね」

「分かったわよぅ」

「その代わり、新鮮な牛乳の飲み比べをしていただけますよ」

 ブランカさんにまで言われて完全に諦めたみたいで、ホッとする。

 夕食はアルヴィンさんが、コテージ客棟に運んできてくれた。大きなお肉と野菜達。

 このお肉達をグリルで焼いて食べる。いわゆるバーベキューだ。焼くのはリーサさん、ソースは届けられた物、ララさんとセシルさんは何かをしているし、私だけ何もしていない。

わたくしは何もしなくて良いのでしょうか?」

「良いのよ。キャスリーンさんは座ってて」

 でも、私にも出来る何かはあると思うの。させてもらえないけど。何かをしようとすると、サッとリーサさんが持ってっちゃうのよね。

 何もさせてもらえなかった夕食が終わり、ララさんとセシルさんが2人でイチゴの乗った白い物を持ってきた。

「イートン・メスよ。メレンゲとクリーム、イチゴを混ぜたスイーツ。シンプルながらも、サクッとしたメレンゲと柔らかなイチゴの食感の違いがクセになる味わいなのよぉ」

 ララさんがニコニコしながら言う。さては味見をしましたね?

「帰ったらサマープティングをご馳走するわ。スタヴィリス国ってベリー類が美味しいわよね」

「サマープティングって、真っ赤なベリーの果汁が染み込んだプティングなんですって」

「一晩置くから、時間がかかるのよ」

 フェルナー侯爵家で食べた事がある。ベリー類がいっぱいで爽やかで美味しかった。酸味があって甘さ控えめだったけど、シェフがその辺りは作り手次第だと言っていた。

 4人でイートン・メスを食べる。少しだけサクサク感が失われたメレンゲと、少し酸味の強いイチゴとクリームの甘さがちょうど良いハーモニーとなっている。

「この生クリームはオルブライトさんに分けてもらったの。もちろんあちらにも差し入れ済みよ」

 4人でイートン・メスを食べ終わったら、明日の予定を話す。明日は早起きしての搾乳体験と、新鮮ミルクの飲み比べをさせてもらう事になっている。

「起きられるかしら?」

「起こすわよ。覚悟しなさい?」

「怖いんだけど?」

「私は仕入れとかで早起きは慣れているから。もちろんリーサも早起きするわよ。キャスリーンちゃんも結構早いわよね?」

「そうですわね。学院の寮生活で慣れました」

「私は朝は弱いのよぅ」

「神殿でのお勤めなんかはどうしてるのよ?神官って朝早いんでしょ?」

「……リチャが起こしてくれてる」

「え?」

「何?どういう事?」

 ポツリと呟いたララさんの顔は真っ赤だ。

「リチャード神官様と一緒にお住まいなのですか?」

「違っ、違うわっ!!最初はシスターの皆さんに迷惑かけてたんだけど、その内リチャが迷惑をかけるなって怒って、で、リチャが起こしてくれるようになって……」

 ボソボソと話すララさん。たしかララさんはリチャード神官の事をカッコいいって言っていたけど。

「ふぅん。恋仲って訳?」

「……神官は恋愛禁止なの」

「そうなの?」

「って、リチャが言ってた」

「キャスリーンちゃん?」

わたくしにもその辺りは、分かりかねるのですが」

 神官は恋愛禁止って聞いた事は無いんだけど。でも、ミリアディス様の側近の話が出た時に、ローレンス様が何か言っていたなぁ。ミリアディス様の側近となっても結婚は出来るのかって。その時にお義父様は「神の花嫁たるシスターではないから、結婚は出来る」って言ってた気が……。そういえば女性神官はシスターだけど、男性神官はどう呼ぶのかしら?

「ララさん、女性神官はシスターと呼びますわよね?では男性神官はなんとお呼びしているのですか?」

「男性神官はブラザーよ。男性神官というか、修道士がブラザー、修道女がシスターね。そこから修行して神官になるの。女性が神官になるのって結構厳しいの。私は神官になるつもりはないから、修行はしてないのだけど」

「厳しいって?」

「聞いただけだけど、そのシスターは答えられなかったと言っていたわ。神官試験の最後に質問をされるらしいんだけど、神官になった男性は答えられたらしいの」

「答えられなかった?」

 いったいどんな質問だったんだろう?

「ララさんは神官じゃないと。シスターという立場なの?」

「私は教会所属の光魔法使いという立場よ。救民院に就職したというのが正しいわ」

「立場としてはお医者様と同じですわね」

 翌日、予想通りに起きられなかったララさんを、セシルさんが起こして、全員で搾乳体験に行く。私とララさんは体験済みだけど、ほとんど覚えていないから、一緒に説明を受けた。

「親指と人差し指で挟んで、後は順番に折り畳んで握り込んでいくのね」

 セシルさんが指を動かしてみる。

「お上手ですね。ではやってみましょうか」

 アルヴィンさんが、私とリーサさんに付いてくれた。ララさんはブランカさんが付きっきりで教えてくれているし、セシルさんにはオルブライト様が付いている。

「お嬢様は前回もお上手でしたね」

「あの時は牛さんの大きさに驚きました。今回の牛さんも大きいですけれど、わたくし自身が成長しましたから、あまり驚きませんわね」

「キャスリーンさんは細すぎるわ。もっと食べた方がいいけれど、無理もさせられないし。困っちゃうわね」

「ウチの牛乳は侯爵家でも使われているんですよね?」

「もちろんですわ。とても美味しくてシェフが張り切ってますのよ。美味しい原材料を目の前にすると困っちゃうんですって。どうやってさらに美味しくするかって、考えちゃって。贅沢な悩みだって笑っていましたわ」

「分かる気がするわ。オルブライトさんのお家のチーズ、美味しすぎて食べ過ぎちゃうもの。お野菜にもお肉にも負けないってスゴいわよね。そのお野菜もお肉も美味しいし。帰ったら太ってるんじゃないかしら?怖いわぁ」

「乗馬も申し込まれてましたよね?大丈夫ですよ。乗馬って全身運動ですから」





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