3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 8学年生

オルブライト様の牧場 ①

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 トリコローレでのお買い物は、非常に盛り上がった。ララさんがラテアートに興奮して、いろんなデザインを出してもらっていた。リーサさんはフルールドリスのお砂糖に感動して、購入していた。

「オルブライトさんの所に行くのはこの4人だけど、移動手段は魔術車を使うから」

「運転出来るの?」

「任せてよ。こっちにはあまり普及してないのね」

「貴族の権威付けとか、色々と事情もありますからね。今居るお馬さんの行き先とか、問題もありますし」

 フェルナー家でも魔術車の導入は考えているらしい。まずは王家が所有してからになるらしいけど。この辺は面子の問題よね。いくつかのメーカーがあるらしくて、家令や執事が検討していた。私も専用にって勧められたけど、まだ学生だからって断った。

 トリコローレでのお買い物の5日後、セシルさん運転の魔術車でオルブライト様の牧場に向かった。道案内なんてする必要もない1本道だから、ナビなんて必要ないけれど一応私がナビシート助手席に座った。

「ごめんなさいね、キャスリーンちゃん」

「いいえ。わたくしがここにいた方が、なにかと便利かと」

「この辺りの人には、キャスリーンちゃんがフェルナー家の娘って知られているの?」

「一応は。この辺りもお義母様と一緒に来ましたし」

 ローレンス様はあの時は一緒じゃなかったのよね。

「あら、フェルナー家の奥様と?」

 言外に「ローレンス様とじゃないの?」って聞かれている気がする。

「はい。あの時はローレンス様は後継者教育で、遅れて合流されましたので」

「そう……」

 それきりセシルさんは黙ってしまった。

 オルブライト様の牧場が見えてきた。

「長閑ねぇ」

「牛が点在してる風景って、こんなにのんびりしてるのね」

「前に来た時は馬車だったわねぇ」

 3人3様の感想が出てきた。以前は見なかった門柱に取り付けられたベルの紐を引っ張る。どういう仕組みかは分からないけれど、馬に乗ったオルブライト様が牧場を一直線に駆けてきた。

「やぁ、いらっしゃい」

「オルブライト様、お久しぶりにございます」

「本当に久しぶりだね。綺麗になって見違えたよ」

「ご紹介いたします。セシル・ロシュフォールさんとリーサ・マルムクヴィストさんです。セシルさん、リーサさん、こちらの方がハーランド・オルブライト様です」

「様なんて付けなくて良いのに。彼女達も?」

「はい。転生者のお2人です」

「セシル・ロシュフォールと申します」

「リーサ・マルムクヴィストと申します」

「ハーランド・オルブライトだ。オルブライト牧場にようこそ。荷物は……、ん?魔術車かな?」

「はい。私の運転で。荷物は後ろに積んであります」

「ほぉ、ピックアップトラックか。懐かしいな」

「今回はロシュフォール商会スタヴィリス国店の物を、借りてきました」

「スタヴィリス国店という事は、お嬢さんは外国人か」

「そうですね。アウラリア国の者です」

「アウラリア国ってぇっと?」

「海を挟んだ向こうの大陸ですわ、オルブライト様」

「なるほど。まぁ、案内しよう」

 オルブライト様が柵の中を馬に乗って進み、その外をセシルさんが運転する車が進む。物珍しい魔術車を牛達が見ていた。

 オルブライト様のお家は、敷地内に家が増えていた。可愛らしい小さなお家が3棟建っている。

「グループ客用に作ったんだよ。君達が泊まるのはこっち。2棟使って良いからね。2人ずつでも1人と3人でも、4人一緒に使っても良いよ」

「ありがとうございます」

 ジャクソン先輩位の年の男性が、荷物を運んでくれた。

「アルヴィン様?」

「えっ?あ、フェルナーのお嬢様?」

「はい。お久しぶりでございますわ」

「お久しぶり。ビアンカももうすぐ帰って来るよ」

「どこかに行かれているのですか?」

「チーズの加工場に。ビアンカは責任者なんだ」

「あら、アルヴィン様は?」

「僕はここを継ぐから。馬や牛の世話を父さんから引き継いでいるところ……です」

「普段の言葉遣いでおよろしいのに」

「フェルナーのお嬢様に、そんな言葉は使えません」

「淋しいですわね」

「父さんに叱られるから」

「あぁ、それは仕方がございませんわね」

 アルヴィン様と話をしていると、リーサさんがやって来た。

「キャスリーンさん、そちらは?」

「オルブライト様のご長男のアルヴィン様です。アルヴィン様、こちらは友人のリーサ・マルムクヴィストさんですわ」

「アルヴィン・オルブライトです。歓迎いたします」

「あら、ご丁寧に。リーサ・マルムクヴィストです。お世話になります」

 ほのぼのと挨拶しあっている2人の後ろから、賑やかな声が聞こえてきた。

「あー、アルヴィン君じゃん、ひっさしぶりー」

「お久しぶりです?」

 ちょっと分かってなさそうなアルヴィン様に、そっと耳打ちする。

「ララさんです。以前わたくしと一緒にお世話になりました」

「あぁ、牛に追いかけられてた」

「ちょっと、言わないでよ」

 以前、オルブライト様の牧場に来た時、ララさんは子牛に不用意に近付いて、母牛に追いかけ回されたのよね。オルブライト様曰く遊んでいるだけで本気じゃないから大丈夫って事だったけど。すぐに牛追い犬を走らせて、助けていたし。

「もうおひとりがセシル・ロシュフォールさんです。わたくしの友人ですのよ」

「そうよ。仲良し4人で遊びに来たの。あら?妹さんは?」

「チーズの加工場に行っています。もうすぐ戻ってくると思います」

「やぁだぁ。普通に話してよ。私達の仲じゃない」

 どういう仲なんだろう?アルヴィン様も困惑してるけど。

「ララさん、アルヴィンさんを困らせてはダメですよ?」

 リーサさんに穏やかに窘められて、ララさんが黙った。

「チーズの加工場かぁ。見学出来ないかしら」

「見学ですか?」

「ウチの商店で扱いたいの。その話もしたいのだけれど、お父様に取り次いでいただける?」

「チーズをロシュフォールさんのお店でですか?取り次ぎは出来ますけれど、そんなに量はお譲り出来ませんよ?」

「良いの。まずはここからよ。チーズは作る地によって味が違うの。人によってもね。だからその辺りを確かめたいのよ」

 セシルさんがカードを出しながら言う。

「これをお父様にお見せしてほしいの」

「預かっておきます」

 アルヴィン様が礼をして出ていった。

「セシルちゃん、さっきのって?」

「ビリエット ダ ヴィジタよ。ビジネスカード名刺ね」

「名刺かぁ。デキる女って感じね。カッコいい」

「ふふん。もっと褒めてくれて良いのよ」

 炎の聖人様味を感じるなぁ。陽キャというか。ララさんも陽キャよね。リーサさんは落ち着いていて大人の女性って感じだ。

「キャスリーンちゃん、どうしたの?」

「いえ。セシルさんとララさんって似ていますね。性格とか」

「そうね。セシルもララさんも周りを明るくするわよね」

「リーサは落ち着いてるのよね。よく言われたわ。リーサちゃんを見習えって。キャスリーンちゃんはリーサに似てるわよね」

「そうねぇ。2人で本とか読んで、感想を言い合ったり、知的な感じ」

「ん?ララちゃん、私は?」

「えっと、活動的?」

「どうして疑問系なのよ」

「そうなるとララさんも活動的って事になるわよ?」

「身体を動かすのは好きよ。前世の高校ではテニス部だったわ」

「良いわね。この世界って、スポーツはあまり発展してないのよね。テニスもあるけどボールにゴムが使われてないし」

「魔術車の車輪は?ゴムよね?」

「空気入りじゃないのよ。私もタイヤの構造なんて分かんないし」

「レオナルド様はバイク関係だったとお聞きしましたが、ご存知ないのでしょうか?」

「バイクの設計組立と、また違うんじゃないかしら?既存の物を使っていたでしょうし」








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