3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 8学年生

お説教

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 帰りの馬車に恐縮しながらも乗ったセレスタ様は、私の隣に座った。最近はひとりでプロクシィとして活動しているらしく、貧困地区には王都の神官に案内されてきたんだそうだ。

「他国にも行くんですよ。光の聖女様の代理人ですから。異変が起きていた地域にも行きましたけど、規模が縮小しているようです」

「そうですか。終息してきているのなら良いのですけれど」

 けっきょくあの異変も、原因が分からないままなのよね。

「あの助け出された方達は、どうなるのでしょう?」

「あの人達かい?こう言ってはなんだけど、良い機会だから、貧困層の改善計画を遂行する。まずは立ち退かせて住居の提供だね」

「お仕事も提供するのですわよね?」

「当然だね。働きたくなくて働かないんじゃなくて、働けない人が多いんだし。適正を見極めて、仕事を割り振っていくはずだよ」

「あの方達の健康状態が心配です」

「しばらくは通うしかないかな?プロクシィはいつまで居られるんだい?」

「今は特に使命はございませんが」

「じゃあさ、手伝ってくれないかな?キャシーちゃんは無茶をしそうだし」

「言い掛かりは付けないでくださいませ?あのような災害現場でないのならば、無茶はしませんわよ?」

 サミュエル先生、これみよがしに大きなため息を吐かないでください。セレスタ様が不思議そうじゃないですか。

「え?無茶?」

「自分の魔力量なんてお構いなしで、治療を続けようとするんだよ。今もフラフラなはずだよね?」

「多少、頭痛はいたしますが」

「多少じゃないでしょ?さっきもふらついていたし。公爵がキャシーちゃんを抱えていこうか?って言ったのは、構いたいだけじゃないんだよ?」

 たしかに頭痛はガンガンしている。典型的な魔力切れのサインだ。

「黙ったって事は図星だね?」

「少し休めば大丈夫ですわ」

「大丈夫じゃないでしょ?先に侯爵邸に送るからね?」

「え?大丈夫ですわよ?セレスタ様を先にお送りしてくださいませ」

「駄目だよ。着いたら部屋に直行だから」

「横暴ですわ」

「光の聖女様、横暴ではないと私も思いますよ。お休みください」

「セレスタ様まで」

 けっきょく馬車は止まる事なく、タウンハウス王都フェルナー邸に着いてしまった。

「キャシーちゃん、掴まりなさい」

「……はい」

 サミュエル先生の腕に掴まって、邸内に入る。

「キャシーちゃん、どうしたの?」

「夫人、後から説明にまいります。今はキャシーちゃんを休ませてあげてください」

「ブランジット卿、代わります」

「頼んだよ。私はプロクシィを送ってくる」

 お義兄様が代わってくれた。

「どうしたんだ?」

「少し魔力を使いすぎました」

「まったく。何があったのかは知らないが、気を付けろ」

「申し訳ございません」

「食べやすい物を頼んでおく。まずはひと眠りしろ」

 部屋で待ち構えていたフランに、有無を言わさず部屋着に着替えさせられて、ベッドに追いたてられた。

「お休みくださいませね?」

「はい」

 フランが灯りを調節して、部屋から出ていく。目を瞑ると強烈な眠気に意識を手放した。相当疲れていたらしい。この眠気は魔力切れの方かしら?


 翌日目が覚めると、フランが怒りを抑えた状態で、朝の支度を手伝ってくれた。

「フラン、怒ってる?」

「当然でございます。魔力は使い過ぎると命に関わるのですよ?」

「ごめんなさい」

「反省はしても、後悔はなさらないのですわよね?また繰り返す可能性があると」

 物凄く大きなため息を吐かれた。

「お義父様は?」

「執務室で朝の執務の最中でございます。お嬢様が起きたら呼ぶようにと」

 お説教かなぁ?嫌だなぁ。

 嫌だなぁなんて渋ってても、フランに強引に連れていかれちゃうんだけどね。

「お義父様、キャスリーンです」

「入りなさい」

 入室すると、カリカリとペンを走らせていたお義父様に、ソファーに座るように言われた。

 少し待っていると、お義父様がペンを置いて向かいに座った。

「キャスリーン、私が言いたい事は分かってるな?」

「はい」

「キャスリーンの理念はよく分かっている。だがな、心配する人がたくさん居るという事を忘れないでくれ」

「忘れてはおりませんけれど」

「『けれど』と言う時点で忘れているではないか。まぁ良い。今回はよくやってくれた」

「救出された方々は、どうなっておりますか?」

「幸い夏だからな。簡易的ではあるがテントで過ごしてもらったそうだ。視察と検証が済み次第、あの辺りの区画整理を行い、住宅を提供する。同時に健康状態のチェックをして、適切な医療も施行する。仕事はその後だな。こればかりは閣議で決めねばならん」

「安心いたしました」

「今日は救民院に行くのか?」

「そのつもりですが」

「昨夜はサミュエル殿に迷惑をかけたのだ。よく謝っておきなさい。それからオルブライトには連絡を取っておいた。いつでも来てくれて良いと言っていた」

「ありがとうございます」

 お義父様の話はそこで終了した。これからお義父様は王宮に出仕される。

 お義父様の執務室を出ると、今度は待ち構えていたらしいお義兄様に捕まった。

「お義兄様、昨夜サミュエル先生はどんなお話をされましたの?」

「貧困地区で起きた事と、キャシーの状態について。キャシー、2人同時治癒なんて、かなり難しいんじゃないか?ブランジット卿は魔力をかなり消費するやり方だと言っておられたが」

「そうですわね。わたくしも最初に成功した後に知ったのですが、5代目の光の聖女様がよく使っておられたようです。初代と2代目の光の聖女様はエリアヒールという、広範囲の治癒術を使えたらしいのですが」

「キャシー、今はそんな事は聞いていないんだ。何故わざわざ魔力消費の大きい魔法を使うんだ?キャシーの魔力が多いのは分かっている。だがな、そもそも……」

「そうせざるを得なかったのですわ。あの場には瀕死の重傷を負った方がたくさんいて、ひとりひとり治癒していたら間に合わなかった。ですから2人同時治癒を行使いたしました」

「その結果キャシーの命が危険にさらされたんだぞ?」

「分かっております。反省しておりますわ」

「まったく、分かっておりますとか言って、ちっとも分かってない。父上もキャシーには甘いし、どうせ少しだけ説教して終わったんだろう?」

「仕方がないではないか。キャスリーンには理念があって、それに沿って動いている。親としては非常に心配だが止める事は出来ん」

「父上」

「お義父様」

 お義父様が執務室から出てきた。そろそろ王宮に行かれるようだ。

「キャスリーン、教会に行くのなら気を付けて行くように」

「はい」

「くれぐれも無理はするんじゃないぞ?分かってるな?」

「分かっております」

「ランベルト、お前の執務室に次代の事案を送っておいた。よく検討しておくと良い」

「ありがとうございます」

「まだ荒いがよく考えられている。もう少し綿密に計画を詰めるといい」

 どんな事案なんだろう?お義兄様がお義父様に褒められて、嬉しそうだ。

 お義母様とアンバー様もホールに出てきて、お義父様を見送った。

「さてと、キャシーちゃん。今日も救民院かしら?」

「そのつもりです。後はミリアディス様の執務のお手伝いですわね」

「テンセイシャのお話はどうなったの?」

 あ、忘れてた。ララさんにお話ししないと。

「忘れておりました」

「珍しいわね。それだけ忙しかったのかしら?」

「そうですわね」

「好きな読書もしていないでしょう?」

タウンハウス王都フェルナー邸の本は全て読んでしまいましたもの」

「新しく仕入れた本は、キャシーちゃんのお部屋に届けさせるわ。手芸のご本だけれど」

「手芸ですか?」

レティキュール手提げバッグをね、自分達で手作りするのが流行っているのよ。読んでおきなさい」

「はい」

 手芸かぁ。時間はあるかなぁ?
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