3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
上 下
286 / 328
学院中等部 8学年生

ポーションの長期保存 検証その②

しおりを挟む
 日陰の屋外のポーション水剤が35日目で、日陰の屋内の物が45日目で有効成分が失われた。最後まで有効成分を保てていたのはやはり冷暗所のポーション水剤。前回の物もまだ有効成分が保たれている。

「ここからは夏季長期休暇に入ってしまうのですわよねぇ。どうしましょうかしら?」

「私が様子を見に来ましょうか?」

 夏季長期休暇に帰宅しないと言う部員が、申し出てくれた。

「サミュエル先生に相談してみましょう」

「そうですわよね。様子を見に来ていただくにしても、先生に報告はしないと」

 みんなでゾロゾロと、サミュエル先生の部屋に行くわけにはいかない。お邪魔になってしまうし。

「やっぱり代表者のガブリエラ様じゃないかしら?」

「キャスリーン様が主導している検証でしょう?それならキャスリーン様の方が」

 みんなが一斉に私を見る。

わたくしは構いませんけれど、ガブリエラ様、一緒に行ってくださいませね?」

「付いていくだけですわよ?わたくしは何も分からないのですから」

 説明したんだけどな。まぁ、そう言って逃げ道を作ったんだろうという事は分かる。絶対に私だけに話させる気だよね。

 ガブリエラ様と一緒にサミュエル先生の部屋を訪ねる。

「先生、今よろしいでしょうか?」

 サミュエル先生が何かの書類から顔をあげた。

「どうしたんだい?」

「夏季休暇中の事なのですが、今検証中の物がありまして、その確認に立ち入りを許可いただけませんでしょうか?」

「検証中の、って、ポーション水剤でしょ?保冷箱に入っている。いいよ。許可は出来るけど、誰が見に来るんだい?」

「ドミニク・ベレストリーム様ですわ」

「あぁ、ベレストリーム君。分かったよ。ちょっと不安だけどね」

 ドミニク・ベレストリーム様はとにかく、やんちゃというか天真爛漫というか落ち着きがないというか、うーん、なんと言おうかしら?元気一杯な初等部3学年生の男性だ。ベレストリーム子爵家の6男(!!)様でお兄様とは年が離れている末っ子だから、とても可愛がられている。学院に一緒に在籍している次女様は魔術同好会に、5男様は執行部補佐をされている。今回帰宅しない理由はベレストリーム子爵領が離れていて、しかもタウンハウス王都屋敷を持っていないから。ベレストリーム子爵様が王都に来られる時は、ご親戚のパレスフォード伯爵家に宿泊するんだって。

 ベレストリーム子爵家はパレスフォード伯爵家の、分家筋に当たるらしい。非常に仲の良いご親戚だと聞いている。

 サミュエル先生の了解が取れたので、部屋を辞してみんなに報告に行く。

「ベレストリーム様、では説明をいたしますので、こちらに」

「うわぁ、緊張するなぁ」

 ベレストリーム様に確認事項を伝えていく。成分分析が変わりなければ元の場所に戻してそのまま様子を見てもらい、成分の数値が落ちてしまったらフタを開けて色と匂いと粘度を確認してもらう。

「えぇっと、全部ですよね?」

「もちろんです」

「分かりました」

 ベレストリーム様がしっかりメモを取ったのを確認して、今までの結果を纏めた物の写しを渡す。

「これに数値を書き入れてください」

「はい。あの、これって部外者に知られても良いですか?」

「部外者とはお兄様、お姉様でしょうか?」

「はい。たぶん兄ちゃ……兄上にはバレると思うので」

「他の方に漏らさないのでしたら、大丈夫ですわよ?」

「ありがとうございます」

「こちらこそお願いいたします」

 ベレストリーム様にポーション水剤の件を託して、みんなは他の事をしにいった。私とクリスト様は今までの結果を検証しつつレポートに纏めていく。

「せんぱぁい、これってやっぱりぃ、冷暗所じゃないとダメなんですよねぇ?」

「室温でも日陰だったら、つまり直射日光が当たらなければ、1ヶ月は品質に変わりはございませんけれど。作成して1ヶ月は置いておけるというのは、かなり心理的にも余裕がありますわね」

「光魔法を持ってなくても、ポーション水剤を作れたら良いのにぃ……」

「そうですわねぇ」

 光魔法を使わずに作成するポーション水剤は、現在各国が威信をかけて開発中なんだけど、今のところ成功はしていないらしい。成功している国があっても、そう易々と技術や製法を他国に提供するとは思えない。少なくとも自国で安定供給出来るようになってからだよね。

「この長期保存のポーション水剤も、すでに既知の物かもしれませんし。でもこうやって少しずつ理解していくのも楽しくございませんか?」

「楽しいですけどぉ、先輩や先生やピアーズ君にだけ負担が行ってるって思うとぉ、なぁんかこう、もやもやするっていうかぁ……」

「負担にはなっておりませんわよ。クリスト様達が下準備からビンの準備までしてくださっているじゃありませんか。皆様がお膳立てをしてくださって、わたくし共は仕上げをしているだけですわ。お気に病まないでくださいませ」

 こうして何かに夢中になっていれば、その間だけでもローレンス様の身を案じるだけの時間が減る。「自分は何もしていない」という事実から逃げる事が出来る。

「せんぱぁい、お茶にしましょう?」

「そうですわね。少し休憩いたしましょうか」

 自分で選んだ薬草をブレンドしハーブティーにする。私もクリスト様も水魔法を使えるから、自分でお湯を沸かした。

「でもぉ、ポーション水剤って不思議ですよねぇ」

「そんな事を言ったら、光魔法自体が謎ですよ。わたくしは光魔法を使っておりますが、どこがどうなって 怪我が治っているのか全く分かりませんもの」

 推測は出来るけどね。細胞を活性化させる事によって損傷部位を修復しているんだと思う。ただし、何故光魔法で細胞が活性化するのかが分からない。

「そんな事を言ったら、水魔法だって火魔法だって、分かんないじゃないですかぁ。植物魔法なんてあっという間に植物が大きくなるんですよぉ?」

 あ、そうか。植物魔法も細胞の活性化だ。そういえば弱ったり傷付いた植物に、光魔法をかけても植物は元気になるよね。逆はどうなんだろう?

「フェルナー先輩?」

「あぁ、ごめんなさい。ちょっと考えちゃって」

「何を考えていたんですかぁ?」

「弱ったり傷付いた植物は光魔法で元気になるのですけれど、逆はどうなのかしら?って。検証をなんて考えませんけれどね。植物魔法は植物にしか作用しないと、マルムクヴィスト博士も著書で仰っていますし」

「ビックリしたぁ。フェルナー先輩が言う事だから、検証をなんて言い出すんじゃないかって思っちゃいましたぁ」

「クリスト様、わたくしだからとは、どういう意味です?」

「えっ?フェルナー先輩って、疑問に思ったら納得するまで調べるじゃないですかぁ」

「そうですか?」

「そうですよぉ?」

 たしかに言われればそうかもしれない。でもそんな事はないって否定して欲しい自分がいる。

「でもぉ、私はそういうフェルナー先輩が好きですよぉ?」

 ニカッと笑う令嬢らしくないヒラリー・クリスト様。

「クリスト様はご自分のお心に正直ですね」

「はいぃ。だってぇ、自分の心にフタをしても苦しいだけですもん。だからよほどの事がない限り、自分に正直でいたいんですぅ。こういう喋り方もぉ、ダメだって、貴族令嬢らしくないって言われるんですけどぉ、でもこの方が自分らしいって思っててぇ」

「たしかに貴族令嬢らしくはございませんけれど、クリスト様らしいですわ」

「フェルナー先輩ぃ、大好きですぅ」

 クリスト様に抱き付かれてしまった。クリスト様、私よりも発達が良いのね。どことは言わないけど。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

【完結】裏切っておいて今になって謝罪ですか? もう手遅れですよ?

かとるり
恋愛
婚約者であるハワード王子が他の女性と抱き合っている現場を目撃してしまった公爵令嬢アレクシア。 まるで悪いことをしたとは思わないハワード王子に対し、もう信じることは絶対にないと思うアレクシアだった。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

こういうの「ざまぁ」って言うんですよね? ~婚約破棄されたら美人になりました~

茅野ガク
恋愛
家のために宝石商の息子と婚約をした伯爵令嬢シスカ。彼女は婚約者の長年の暴言で自分に自信が持てなくなっていた。 更には婚約者の裏切りにより、大勢の前で婚約破棄を告げられてしまう。 シスカが屈辱に耐えていると、宮廷医師ウィルドがその場からシスカを救ってくれた。 初対面のはずの彼はシスカにある提案をして―― 人に素顔を見せることが怖くなっていたシスカが、ウィルドと共に自信と笑顔を取り戻していくお話です。

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?

瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」 婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。 部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。 フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。 ざまぁなしのハッピーエンド! ※8/6 16:10で完結しました。 ※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。 ※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。

処理中です...