3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 8学年生

ポーションの長期保存 検証その①

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「それで何かな?」

 薬草研究会が終わってから、サミュエル先生の部屋にお邪魔した。

「光魔法とは何でしょうか?」

「うん?光魔法は光魔法でしょ?人体修復力を持つ奇跡の属性だ」

「そう、ですよね」

「どうかしたのかい?」

「人体を即座に修復するなんて、神の領域だと思っただけです。この世界でも医者がいて、日数をかければ怪我も病気も治ります。それなのに何故光魔法があるのかと……」

「そんな事は考えた事が無かったよ。でもさ、奇跡の属性じゃ駄目なのかい?」

「そもそも魔法も謎なのですが」

「まぁね。でも魔法は存在していて、それが当たり前だ」

「当たり前……」

「神様が、天父神シュターディル様と地母神マーテル様が授けてくだされた、神秘の力だよ」

「それは知っています。眷属神である属性神様達の慈悲の力ですよね。創世期はもっと強く大型の獣ばかりで、その獣に対抗出来る力を授けられたと習いました」

「それじゃ駄目なのかい?」

「駄目ではないですよ。この世界に昔生息していた獣にそっくりな獣は、前世でも生息していましたし」

「居たんだ」

「前世ではダイノソア恐竜は人間と同時期には存在しませんでしたけどね。ファーニィービースト毛むくじゃらの獣に似た獣は人間が狩りの対象にしていたらしいですけれど」

「魔法は無かったんだよね?どうやって狩っていたんだい?」

「槍とか自作の武器で」

「へぇぇ」

「石を割ったり磨いたりした物を槍の穂先としていたらしいです」

「プッ、いや失礼。でもそんな物で?」

「石といってもオブシディアン黒曜石ですわよ?割れたオブシディアン黒曜石の切れ味はご存じだと思いますが?」

 後はサヌカイトとか。サヌカイトは日本だけだったっけ?

 それに失敗も多かったらしいし。そして単独で狩る獲物じゃない。

オブシディアン黒曜石かぁ。たしかに切れ味は鋭いね」

 オブシディアン黒曜石はこの世界でもインテリアに用いられる。衝撃で割れやすいから怪我もしやすい。落として割ってしまって、拾い集めようとして、とかで、怪我をする事も多いそうだ。

「考えすぎないようにした方がいいよ。光魔法は光魔法。そう思っておいた方がいい」

「……分かりました」

「他は?大丈夫?」

「ローレンス様の……。いえ、なんでもありません」

「今、紋章から調べてるよ。何か分かったら知らせるから」

「はい。よろしくお願いいたします」

 礼をして、サミュエル先生の部屋を出た。

 その日から5日置きにポーション水剤の確認を行った。品質に変わりはないか、腐敗していないか。クリスト様と一緒にひとつひとつ確認と記録を行った。日の当たる窓際に置いたポーション水剤は、20日目に品質がガクッと落ちた。窓際に置いた3つ共全てがだ。

「これは駄目ですねぇ」

「そうですわね。開けてみましょうか」

 減圧は出来ていたようで、開けるのにかなりの力が要ったけれど、ビンのフタを開けてみた。

「匂いは変わりないですぅ」

「少しとろみはあるかしら?」

「でも、ポーション水剤ってこんな感じですよねぇ?」

「そうでしたわね」

 日陰に置いたポーション水剤は45日目に、品質が落ちると共に色が薄く、透明になった。

「駄目ですねぇ。薬草の匂いも消えちゃいましたぁ」

「ひとつは完全にとろみも消えてますわね」

 残りは冷暗所に置いた3つのみ。この3つは品質も変わらないし、色も変わらない。

「冷暗所に置けば、長期保存は可能って事ですかぁ?」

「まだ分かりませんでしてよ?次は夏に試してみなければ」

「えぇぇ……。まだ駄目なんですかぁ?」

「この後もう1度、同じ条件を試してみましょう」

「え?今からですかぁ?夏じゃなくて?」

「今からです。とは言いましても、明日からですが」

「良かったぁ。明日からなんだ。ねぇ、フェルナー先輩、ちゃんと休めています?お顔色が悪いですよ?」

「え?」

 顔色が悪い?ちゃんとお化粧をしてるのに?

「今はお化粧で誤魔化せてますけどぉ、唇とか口紅の色が浮いちゃってて、心配ですぅ。食事も少ないでしょう?」

 驚いた。クリスト様ってあんがいよく見ている。

「なぁんて。私が気付いたんじゃないですよぉ。クグラン先輩が言ってたんですぅ。それ以来気になっちゃって、それで注意してたんですよぉ」

「ごめんなさい」

「謝らないでくださいよぉ。お茶、飲みましょ。あ、クレイヴンせんぱぁい、教えてくださぁい」

 パタパタとクリスト様が走っていった。何かを話しかけられたクレイヴン様とリリス様が少し考えて、ハーブティーを淹れ始める。

「キャスリーン様、ハーブティーです。リラックス効果と血行促進の効果のハーブを使いました」

「リリス様」

「みんなもお茶にしますから、お飲みください。お茶請けもありますけれども、召し上がられますか?」

「いえ、申し訳ございませんが」

「食欲は戻られませんか?」

「えぇ」

 リリス様がソッとその場を立ち去った。ひとりにしてくれたんだと思う。

 リリス様が淹れてくれたハーブティーを、ゆっくりと味わう。水色は黄色がかったグリーン。メリッサレモンバームの香りとチェストベリーの少し苦味のある味がする。他にも入っているのだろうけど、判別は付かなかった。

 その時、鉄臭い血の匂いがした。鼻出血らしい。最近は慣れてきて鼻出血の前に匂いで分かるようになってきた。ハンカチで鼻の辺りを押さえて席を立つ。レストルームに駆け込んでハンカチを外すと、ハンカチが真っ赤に染まっていた。

「キャスリーン様」

「マリアさん」

「鼻出血ですか?」

「はい。ハンカチを汚してしまいました」

「洗いましょうか?」

「自分で洗いますわよ?」

「私に任せてください。もしかして今まではご自分で?」

「はい。これ位でしたら、ランドリーメイド洗濯メイドの手を煩わせるまでもありませんから」

「キャスリーン様、お気持ちは分かりますが」

「だって、血の付いた物は早く洗わないと染みになっちゃって、落ちなくなってしまいますもの」

「そういった物を綺麗にする技術を持っているのが、ランドリーメイド洗濯メイドですよ?」

「それは分かっておりますけれど」

 レストルームでマリアさんと言い合いをしていると、リリス様が様子を見に来てくれた。どうやら心配になったらしい。

「キャスリーン様、大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫ですわ。ご心配させてしまいましたのね。申し訳ございません」

 私がリリス様と話している間に、ハンカチを手早く綺麗にしたマリアさんも一緒に、薬草研究会に戻った。

「キャスリーン様、どうなさいましたの?急に教室をお出になられましたから、心配いたしましたのよ」

 ガブリエラ様からも心配の目を向けられた。

「申し訳ございません。少し……」

「ご無理はなさっておられませんわよね?何かございましたらご相談なさってくださいまし?」

「ありがとうございます」

 と言われても相談出来ないのよね。代償経だいしょうけいの事は、たぶん私が1番詳しいだろうし。

 翌日から薬草研究会のみんなを巻き込んでの、ポーション水剤液作りを始めた。やり方は私が指導しての煮沸消毒。全員で作ったから成分統一は出来ていないけれど、ポーション水剤液としては合格している物ばかりで、それぞれ別々の場所に5個ずつ置いての経過観察が始まった。

 最初に効果が失われたのは、直射日光が当たる屋外に置いたポーション水剤。やっぱり10日程で有効成分の数値が、ガタッと落ちた。

 次いで直射日光が当たる室内の物。こちらは20日程で有効成分が失われた。

 ちなみに有効成分が失われたポーション水剤は、園芸愛好会が植物に与えていた。















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