3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 8学年生

治癒魔力の向上

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「せんぱぁい、ポーション水剤液、漬け込み開始しまぁす」

「時間計測、開始しますね」

 お湯が沸く前にビンと蓋をお湯に入れて、沸騰する程度の強さの大きさの火で沸騰してから15分。10分で良いんだけど、私は15分って習ってきた。10分以上って事だからって最初に説明されたんだよね。

 15分経ったら火を止めて、清潔なザルの上で自然乾燥させる。

「拭かないんですかぁ?」

「拭かなくて良いのですよ。熱で自然に乾燥しますから」

 乾燥させている間に抽出も出来るはず。

 ポーション水剤液の抽出が終わったら、丁寧に濾して乾燥したビンの蓋が締まる部分から1㎝ほどの所まで入れる。

「これって、しっかり締めた方が良いんですかぁ?」

「普通に締めてください。後でする事がありますから」

「分かりましたぁ」

 布を敷いた鍋にビンを並べ、お湯を沸かす。お湯の量はビンの締める所の1センチから2センチ下。蓋にお湯が被らない火加減で沸騰してから15分加熱して、ヤケドに注意して取り出す。布を被せてキツく蓋を締める。

 熱い液体なら再度の煮沸消毒は不要なんだけど、ポーション水剤は水出しだから、再度の煮沸消毒が必要なのよね。

「出来ましたわ。後は経過観察ですか」

「忙しかったぁ」

 忙しくはないと思うんだけど。

 ビンの温度が下がったら、この時点で成分分析を行う。

「ちょっと数値が下がってる?」

「でもせんぱぁい、こっちは数値が上がってますよぉ?」

「あら、本当」

 成分分析したポーション水剤液に光魔法をかけてみる。ポーション水剤になったら再び成分分析を行う。

「やっぱり色が濃いですねぇ」

「そうですわね。特にいつもと変わりございませんでしたわよね?」

「いつもは数人で行う魔法水生成を、今日は私ひとりでやったくらいですぅ」

「そうですわよね。わたくしの方は特に変わった事は行いませんでしたし」

「私の所為せいですかぁ?」

「悪い事とは限りませんでしてよ?」

 ポーション水剤になった成分は、少しだけ殺菌効果が上がっていた。

「これはどう分析すれば良いのかしら?」

 全体的に数値が上がっているんだけど。誤差の範囲内というには、修復力が高すぎる。

「キャシーちゃん、どうだい?」

「修復力がかなり高いです。光魔法を使う前はここまでじゃなかったんですけど」

「キャシーちゃん、治癒力の精度は上がってない?」

「治癒力ですか?」

 最近、治癒力は使ってないのよね。学院に居たら使わないし。

「試してみる?」

「ここで腕を切るとかやめてくださいね?」

「それが1番手っ取り早いんだよ?」

「それは分かっておりますわ。後が大変だと申し上げているのです」

「ほら、シンク洗い場もあるし」

「駄目ですって。わたくしは慣れておりますが、他の方の事もおもんぱかってくださいませ」

 私とサミュエル先生の会話を、ジャクソン先輩と他のみんなが遠巻きに見ていた。

「せ、先生、腕を切るって……」

「光魔法の訓練にね。よくやってたんだよ。キャシーちゃんにいつも叱られてたねぇ」

「当然でしょう」

「私の訓練方法がそうだったからねぇ」

「どんな訓練ですか……」

「僕の時はそうじゃなかったですよね?」

「ピアーズ君の時は、キャシーちゃんに止められたからね」

「当たり前です」

 治癒力の検証か。どうすれば良いのかしら?剣術倶楽部とか体術倶楽部で試させて貰う?

「剣術倶楽部と体術倶楽部か。それしかないかもね。ピアース君も来なさい」

「え?僕も?」

「先生、今からですか?」

「早い方が良いでしょ?」

 早い方が良いけど。こんな個人的な事に良いのだろうか?

「せんせぇ、私も行きますぅ」

「クリスト嬢も?」

「幼馴染みがぁ、居るんですよぉ。剣術倶楽部にぃ」

「婚約者かい?」

「違いますぅ。私には婚約者は居ませぇん」

「そうだねぇ。ジャクソン君に猛アタック中だもんね」

「やぁだぁ。言わないでくださいよぉ」

 クリスト様がサミュエル先生の背中をバシバシ叩いた。

「痛っ、痛いって」

 先生、恋する乙女を揶揄からかうからですよ。

 急遽剣術倶楽部に向かいながら、怪我人を探す事にした。怪我人を探すって普通はしないよね?

 私とサミュエル先生とピアーズ君は剣術倶楽部に行くけれど、他の部員はグリーンハウス温室で待機する事になった。クリスト様はどうするんだろうって思ったら、グリーンハウス温室で待っているらしい。


 剣術倶楽部に着くと、目敏く私達を見付けた剣術倶楽部員が、走ってきた。

「ブランジット先生、フェルナー嬢、ピアーズ君、どうされたんですか?」

「ちょっとね。怪我をした人を探してるんだよ」

「怪我人をですか?」

 非常に怪訝な顔をされた。そうなりますよね。気持ちは分かります。

「確認したい事があるんだよ」

「それってちょっとした怪我で良いんですか?打ち身とか」

「そんな感じの軽い怪我で良いよ」

「打撲って軽い怪我なんだ……」

 剣術倶楽部員はブツクサ言いながらも、怪我人を探しに行ってくれた。

 体術倶楽部員にも声をかけてもらって、打撲や捻挫の治癒で検証した結果、私の治癒力の精度が以前に比べて上がっていると判断された。

「発動速度も治癒速度も、それから心身の癒しの力も、強くなっているね」

「心身の癒し?」

「私はそこまで出来ないけどね。怪我をすると人は、人に限らないけどやる気というか活力を失うだろう?恐怖を覚えて、同じ事態に陥らないようにあれこれ考える。で、力が入って余計な怪我が増える。その繰り返しなんだって。中には怪我から学んで瞬時に最適化する特別な人もいるけど、たいていは何度も繰り返してそこから学びとっていく。その恐怖心を軽減するんだ。やる気を引き出すとでもいうのかな?もう1回って向かう力を引き出すんだよ」

「それって……」

 危険じゃないだろうか。つまりは怪我をしても、即座に相手に突っ込んでいけるって事だ。

「もちろんね、危険な事だけど、いつまでも恐怖を引きずらないって案外大切なんだよ」

「そうなんですか?」

 近くにいた剣術倶楽部員に聞いてみた。

「そうですね。1度大きな怪我をすると、その攻撃を完全に封じる事が出来るまで、余計な力が入ったり怪我が増えますね。ですから先程のフェルナー嬢の治癒魔法は気が楽になって、余計な力が抜けました。感謝してます」

「それにね、キャシーちゃん。怪我は日常生活でもするでしょう?ナイフで切ったり転んで擦りむいたり。そんな時に大丈夫だって思えるのって大切なんだよ」

「でも、学びの機会を奪いませんか?」

「それはその人次第。キャシーちゃんが思い悩む事じゃないよ」

 本当にそうだろうか?痛みから学べる事はあると思う。それを奪うんじゃないだろうか。

「先生……」

「ピアーズ君、ちょっと休もうか。キャシーちゃんと同じに出来なくても良いからね」

「僕は光魔法使いなのに、ちっとも上手くいかない……」

「最初から上手くいく人はホンの一握りだよ。人と比べなくても、ピアーズ君はピアーズ君の長所が必ずあるから。それに十分にやれているよ。救民院の時より発動速度も上がってるし、迷いが減っているね」

 ピアーズ君とサミュエル先生が話している。こうしているとサミュエル先生って、生徒の事をよく見ているし、良い先生なんだと思う。

「先生」

「どうしたんだい?不安そうな顔をして」

「不安そうでした?」

「大きく表情が変わることはないけど、見慣れてきたかな?ちょっとした変化でも分かるようになってきたよ。それでどうしたんだい?」

「後で話を聞いていただけますか?」

「良いけど?」

 みんなで薬草研究会に戻って、その日は解散した。ポーション水剤の長期保存の検証にはまだ時間が掛かるしね。今出来る事はない。せいぜいが保管場所を変える位だ。













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