3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
上 下
283 / 328
学院中等部 8学年生

婚約者

しおりを挟む
 クリスト様とポーション水剤液を作った状況を話し合って、もう一度再現し、他部員に記録を付けてもらった。

 薬草研究会が終わって、サミュエル先生の部屋に行く。

「先生、お話とはなんでしょう?」

「もうちょっと待って。ジャクソン君を待とう」

 ジャクソン先輩を?何の為に?

「その前に詳細を見せてもらって良いかな?」

「さっきのポーション水剤液の、ですよね?いつもと変わりはないんですけど」

 サミュエル先生に記録紙を見せる。

「心理状態は関係あるんですか?ローレンス様の事があってから今まででも、ポーション水剤は作ってますよ?」

「キャシーちゃんが関係なくても、クリスト嬢が関係してくるかもしれないからね。キャシーちゃんは自分の感情を抑えて魔法を使う事に慣れているけど、クリスト嬢はそうじゃない。魔法の効果ってけっこう感情に左右されるんだよ」

「そうですか?というか、わたくしって感情を抑えて魔法を使ってたりしますか?」

「切り替えが早いと言い換えた方が良いかな?特に光魔法を使う時は、どんなに怒っていても素早く切り替えて、冷静に使ってる気がするんだけど」

「冷静になる事は大切ですから。感情のままに動いてはミスが多くなります」

 アンガーマネジメントだ。衝動と思考と行動をコントロールし、怒りを適切に対処する事によって、常に冷静な判断を出来るようにしていく。

「なるほどねぇ。大切だけど難しいよね」

「先生はお得意そうですけれど?」

「そんな事はないよ。そう見えるとしたら年を取ったからだね。人間的に成長したんだよ」

「成長……」

「何かな?その懐疑的な目は」

「いいえ。先生ってどうして今まで婚約者が居なかったんですか?ご結婚していてもおかしくないお歳ですわよね?」

「前にも聞かれたね。ちょっとね、結婚の必要性を感じなかったというか。説明した通りだよ」

「でも、先生も条件的にはわたくしと同じですわよね?光の聖人候補だったから、国外に出したくないのは同じなはずです。それには婚約、婚姻が手っ取り早いはずですわよね」

「そうなんだけどね。キャシーちゃんと根本的に違うのはゼンセの記憶があるか無いかだよ。私にはゼンセの記憶は無いからね」

「前世の記憶による知識的優位性の、国外流出の阻止ですか」

「……そうだね」

 妙な間が空いたなぁ。他に何かあるのかしら。それに微妙に話題を逸らされてるよね?

 これは答えたくない何かがあるんだろうな。踏み込まない方が良いよね?気になるけど。

 用事を終えたジャクソン先輩が戻ってきた。

「揃ったね。キャシーちゃん、これから話す事はさっきの話題に関係してくるよ」

わたくしの婚約についてですか?ジャクソン先輩を待っていたって事はまさか……」

「そのまさかだよ。キャシーちゃんの仮婚約者候補にジャクソン君の名前が上がってる。その他にも伯爵家から何人か候補となっている」

「先生は候補から外れたんですか?」

「まだ候補の筆頭に居るよ」

 サミュエル先生がちょっと忌々しそうに吐き捨てる。結婚したくないんだろうな。婚約は結婚の前段階だから。婚約を続けると結婚というゴールにたどり着く。結婚したくない、その訳は教えてもらえそうにないけれど。以前聞いたのはどう考えても建前というか、本心じゃないと思う。

「ジャクソン先輩、ご迷惑をお掛けします」

「迷惑じゃないけどね。フェルナー嬢も大変だね」

「他の候補者の方って分かりますか?」

「ある程度ならね。知りたい?知りたいなら教えられるよ。全員集められて説明を受けたから」

「説明ですか?」

「貴君達が光の聖女の婚約者候補に選ばれたのは、ひとえに光の聖女候補がスタヴィリス国に帰ってこられるようにという、その1点のみだ。思い上がって光の聖女候補に迷惑をかけないようにってさ。貴族院の重鎮のオフラハティ伯爵って自己紹介されたけど」

「オフラハティ伯爵は、自分で『貴族院の重鎮』って名乗ってるだけだよ。宰相補佐の補佐をしてた人物で、いまだに貴族院に居座ってるんだよね。今回もキャシーちゃんの代弁者を僭称してたね」

「なんですの?それ。わたくしは頼んでいませんし望んでもおりません」

「分かってるよ。候補者はほぼ全員が学院卒業生だね。在校生も居たけど」

「在校生はアヴァレーツィオ家の関係だよ。アヴァレーツィオ家からガッツリ釘を刺されているらしくてね。今はまだ接触は無いよね?」

「ありませんわね。もっとも、どなたがアヴァレーツィオ様のご関係者か存じ上げませんが」

「集まった全員には、ブランジット先生と説明しておいたよ。学院卒業生はおおむね納得してくれてたからね。安心して」

「ありがとうございます。ちなみに何名ですか?」

「私とジャクソン君を含めて6名。何故だい?」

「どういう方が集められたのか分かれば、どういった基準か推測が付くと思いまして」

「それは……」

わたくしの事を見知っている方、わたくしの性格を知っている方、少なくともわたくしが悪印象を抱いていないであろう方。後は仮婚約者という立場を方でしょうか」

「よくそこまで分かるね」

「まぁ、キャシーちゃんだからね」

 私だから、ね。サミュエル先生の言葉にちょっとムッとしてしまう。サミュエル先生は私をよく分かっているよね。付き合いは10年になるんだもん。

 私はサミュエル先生の事をよく知らない。性格とかは分かっているけど、家の事とか結婚しない理由とかは、聞いてもはぐらかされる事が多い。自分の事を話さない人は信用出来ない。信頼はしてるよ。光魔法の先生だし先生自身の事以外は、聞けば教えてくれる。でも、信用は出来ないのよね。

 信用と信頼は違う。「信用」は根拠があって信じる時、「信頼」は主観的な判断で信じる時といわれているけど、私は「信用」はその人を信じ全てを任せても良いと思う事、「信頼」はその人を信じ頼りに出来ると思う事だと思ってる。過去のその人との関係を、全て信じられるかどうかが違いって感じかな?

   「信用」は全てを信じてるし、「信頼」は信じられない部分はあっても、それを認めているというか。うーん、上手く言えないなぁ。

「キャシーちゃん、婚約者候補達の事は本当に気にしなくて良いから。ローレンス君の生存を信じて待っていてね」

「ありがとうございます」

 気にはなるけど、現状、私に出来る事はない。サミュエル先生に話の進捗だけ聞かせてもらう事を約束して、解散した。

 長期保存のポーション水剤の研究は、クリスト様と一緒にする事を認められた。あの時のポーション水剤はハイポーションの元となるポーション水剤液だったようで、結局、「私が薬草の下準備の時に無意識に光魔法を使っていたのではないか」、「クリスト様が無意識に魔力調整をしたのではないか」と、結論付けられた。

「フェルナーせんぱぁい、長期保存ってどうやるんですかぁ?」

「今考えているのは、煮沸消毒」

「しゃふつしょうどく?」

「ビン詰めのジャムなんかの消毒法ですわよ。簡単に言えばビン詰めしてお湯に入れて煮ちゃいますの」

「煮るんですかぁ?」

「お料理みたいですわよね」

 煮沸消毒の後、脱気すれば完璧とは言えなくても、ある程度の長期保存は出来るはず。

 まずはポーション水剤液の作成。同時進行でビンの煮沸消毒の為にお湯を沸かす。お水の量はビンが完全に漬かる位。鍋にお湯を沸かしてトングも用意して本当にお料理みたいだね。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那様、離縁後は侍女として雇って下さい!

ひかり芽衣
恋愛
男爵令嬢のマリーは、バツイチで気難しいと有名のタングール伯爵と結婚させられた。 数年後、マリーは結婚生活に不満を募らせていた。 子供達と離れたくないために我慢して結婚生活を続けていたマリーは、更に、男児が誕生せずに義母に嫌味を言われる日々。 そんなある日、ある出来事がきっかけでマリーは離縁することとなる。 離婚を迫られるマリーは、子供達と離れたくないと侍女として雇って貰うことを伯爵に頼むのだった…… 侍女として働く中で見えてくる伯爵の本来の姿。そしてマリーの心は変化していく…… そんな矢先、伯爵の新たな婚約者が屋敷へやって来た。 そして、伯爵はマリーへ意外な提案をして……!? ※毎日投稿&完結を目指します ※毎朝6時投稿 ※2023.6.22完結

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

【完結】裏切っておいて今になって謝罪ですか? もう手遅れですよ?

かとるり
恋愛
婚約者であるハワード王子が他の女性と抱き合っている現場を目撃してしまった公爵令嬢アレクシア。 まるで悪いことをしたとは思わないハワード王子に対し、もう信じることは絶対にないと思うアレクシアだった。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

処理中です...