3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 7学年生

芸術祭前

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 芸術祭が始まった。今年も例によってモデルとして出演する。もう、恒例になってしまって、依頼というか「出てくださいますわよね?」と確認された感じだ。

 今年の衣装は少し前の時代のバッスルスタイル。私の衣装の臀部は控えめだけど、大きく張り出した臀部のドレスの人もいると聞いている。

「ようこそ、キャスリーン様。こちらがキャスリーン様のお衣装ですわ」

 試着の時に見せられたドレスは、アイボリーの大きめの花柄の絹サテン・ブロケードと絹ファイユのストライプ。ツーピース・ドレスでボディスは絹チュールのジャボ飾り付き。衿ぐりと袖口にチュールの装飾。スカート前面に絹チュールのフラウンス飾りが付いている、らしい。ガブリエラ様がツラツラと説明してくれたんだけど、半分以上分からなかった。

 色はアイボリーで、大人っぽい感じだ。

わたくしに似合うでしょうか?」

「えぇ。お背も伸びておられますし、お似合いだと思いますよ」

 背はね、少し伸びたのよ。160センチには足りていないし、クラスではまだまだおチビだけど。

 試着して最終的な調整をしてもらう。今年はエスコート役は居なくて、ひとりでランウェイを歩くようだ。

 いまだに刺繍手芸倶楽部お針子部の壁に飾ってある、光の聖女様風の衣装を着た私とシェーン様の絵姿を見る。この絵姿は、当時の部長が特別に描いてもらったんだそうだ。「売って欲しい」という要望も有ったらしいけど、「これ以上騒がせたくない」という当時の部長の意向から、飾るのは部室のみ、持ち出し厳禁となったらしい。配慮に感謝しながら、ガブリエラ様の説明を聞く。

 ガブリエラ様は薬草研究会の部長なのに、お針子部にも顔を出している。その間の薬草研究会の部長代行はイグニレス・ゲイツとフランシス・エンヴィーオが行っている。「ここには端切れがたくさんあるから、サシェ匂い袋を作るのに貰いに来ているだけだもの」とは、ガブリエラ様の言葉。だけどそれ、お針子部と薬草研究会として売るのよね?教会なんかのバザーで。ララさm……さんが言ってたもの。「けっこう売れ行きが良いのよ」って。売り上げは材料費を除いて全額寄付しているから、学院側も何も言わない。それどころか推奨して支援しているみたいだし。

 ポプリは薬草研究会が作っている。それをお針子部が作った布袋に詰めて再びお針子部へ。袋の口を閉じ、リボンなどで装飾を施し、学院外へ運ばれる。この時点でガブリエラ様の言葉の建前は崩れている。指摘はしないけど。サシェ匂い袋はいくつか残しておいて芸術祭で売る。この辺りは手芸部と刺繍部が協力しているらしい。

「キャスリーン様、お懐かしゅうございますわね」

「えぇ。大騒ぎになりましたもの」

「ふふっ。あそこまでとは、まぁ少しは予想出来ておりましたけど」

「予想出来ておられましたの?」

わたくしではございませんわよ。先輩方ですわ。試着の段階で騒ぎになるかも?と思ったそうですわ」

「こういった風のお衣装は、キャスリーン様が卒業なさるまで制作しないようにと学院長様からお達しがございましたわ。今は再開に向けてデザインを描き溜めておりますのよ」

 お針子部での衣装合わせが終わったから、ガブリエラ様と一緒に薬草研究会に戻った。ちょうどお茶の時間で、ハーブティーが用意されていた。

 今日のハーブティーには、マトリカミアカモミールメリッサレモンバームが入っているらしい。

 お茶請けはセシルさんからいただいたビスコッティ。ザクザクした食感で、フェルナー領のアーモンドなどのナッツが使われている。ナッツ入り以外にもゴマ入り、ドライフルーツ入り、ククルビタカボチャ入り、があるから、シドニー・ピアーズ君も食べられる。

「固いけど美味しいね、これ」

「友人から頂きましたの。お菓子作りのプロだった方で、どれも美味しいのです」

「プロだった方?」

「転生者ですので」

「あぁ、そういう事」

 ジャクソン先輩が幸せそうに言う。

「そういえば救児院に、何度か差し入れを持ってきてくれたヴィジター外国人が居たっけ」

「たぶんその方です」

「これってフェルナー領のナッツ?」

「全てではございませんが」

「救児院でも作れるかな?」

「お聞きしてみましょうか?」

「頼める?」

「お安いご用ですわ」

 ビスコッティはコーヒーに浸して食べるのが、伝統的な食べ方なのだそうだ。カプチーノやワインに浸したり、アイスと合わせても美味しかったと、セシルさんは言っていた。もちろんハーブティーにも合う。他にもココアとか、セシルさんと話していると、食欲が刺激されて困っちゃうのよね。ララさんが「飯テロだ」って唸ってたっけ。

 前世の出身国のイタリアのお菓子だけでなく、いろんなお菓子のレシピを思い出す度に書き貯めているんだって。いずれはレシピ本を出したいって笑っていたけど、材料を揃えるのが大変だったり、前世にはあった材料が無かったり、苦労しているらしい。ベーキングパウダーは開発されているけど、味に納得出来ないと言っていた。フェルナー家の料理人も使っていたし、私には分からないんだけど。

「フェルナー先輩の今回の衣装ってぇ、どういう感じなんですかぁ?」

「あらそれは秘密じゃなくて?」

「えぇぇ、知りたいじゃないですかぁ」

「そうだけど。でも知らない方が当日の楽しみが増えると思わない?」

「えぇぇぇぇ」

 ヒラリー・クリスト伯爵令嬢と、同級生のメリンダ・ハスラー伯爵令嬢が、会話をしている。それを聞きながら、私とガブリエラ様はイグニレス・ゲイツとフランシス・エンヴィーオからの報告というか相談を受けていた。

「ポプリの注文が増えているのですか?」

「お針子部にも伝えたのですが、サシェ匂い袋ではなく、見た目も楽しみたいと」

サシェ匂い袋以外でですか」

 私もポプリの使い方はそんなに知らないのよね。

「アイデアを募集してみましょうか」

「そうですわね。ラベンダーの季節でしたら、ラベンダースティックとかあったのですけれど」

「ラベンダースティック?」

「ご存じありません?ラベンダーを茎ごと束ねて、リボンで装飾いたしますの」

「申し訳ございません。不勉強で存じ上げませんでしたわ」

「お謝りになられる事はございませんわ。グクラン領の領民に教えてもらった物ですもの」

「和やかな談笑中に口を挟んで申し訳ありませんが、部員にアイデアを募るという事で良いのですね?」

「エッセンシャルオイルは量が要りますしね」

「ですわねぇ」

「圧搾法だと大型の機械が要りますし」

「力も要りましてよ」

「「ですわよねぇ」」

「フェルナー嬢、ガブリエラ様」

「「はい?」」

「2人して小首を傾げないでください。何でも許してしまうではないですか」

「うふふ」

「お笑いになられても誤魔化されません」

「ゲイツ様、そんなにお怒りにならないで?」

「怒ってません」

わたくしが悪かったですわ。許してくださいます?」

「許すも何も最初から怒っていませんよ」

 ガブリエラ様とゲイツ様が、イチャイチャタイムに突入してしまった。

「先程まで、ガブリエラ様と一緒に揶揄からかっていたわたくしが言うのもなんですけど、仲がおよろしいですわね」

「そうですね。それで、フェルナー嬢、先程の件ですが」

「良いのではないですか?わたくし達だけで全てを決めなくても良いのですし。「各自がやりたい事をやりたいように」が、我が部のモットーですもの」

「そうですね。ではアイデアを募っておきます」

「お願いします」







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