251 / 281
学院中等部 7学年生
国軍訪問
しおりを挟む
フランが嬉しそうに大きな花瓶に、ギプソフィラを生けている。西洋風の世界だから、お花もワサっと大きく華やかに生ける。
そういえば、前世で『日本は引算の美学、欧米は足算の美学』と聞いた事があった。日本はどう空間を使うかを考えて、欧米は空間を埋める事を考えるらしい。だから日本では生け花も削って削って、花一輪になってもそこに美を見る。欧米は空間を埋めるから豪華に華やかになるんだそうだ。
どちらが良いとは言えないけど、和の生け花の凛とした佇まいは好きだったな。
ギプソフィラもたくさん集まると、華やかになる。ローレンス様が言っていたけど、それを実感出来る。フランの生け花の腕もあるんだろうな。生け花じゃない。フラワーアレンジメントだね。
ギプソフィラってたくさん集まると匂いが結構キツいんだけど、生けられたギプソフィラは控え目でフローラルな香りがする。
「フラン、このギプソフィラ、マリアさんに頼んで咲かせてもらったって言った?」
「はい。頼んでおられましたよ」
「香りも変えられるのかしら?」
「香りですか?そういえばギプソフィラの香りはもう少し強かったですわね」
その日はたくさんのギプソフィラに癒された。
国軍訪問の日になった。ローレンス様と一緒に教会に行って、そこからミリアディス様と迎えの馬車に乗った。
「国軍を訪問するのは2度目ですわ」
「そうなのですか?」
「卒業してすぐに、エドワード様と一緒に見学にまいりましたの。皆様真剣で、見ていて少し怖かったですわ。キャスリーン様はご覧になった事はございますの?」
「フェルナー侯爵家の私兵の訓練でしたら。光魔法使いとして控えておりますから、その際に見学もしておりますが、毎回怪我がないようにとハラハラしますわ」
「そうですのね。私はハイレント家でも見た事が無かったものですから、国軍見学の際はエドワード様に隠れてしまいましたのよ」
「あら、今日は大丈夫ですの?エドワード様がいらっしゃいませんけれど?」
「大丈夫ですわ。キャスリーン様をお守りいたしますからね」
「うふふ。よろしくお願いいたしますわ」
「ヒドいですわ。お笑いになるなんて」
だって、精一杯虚勢を張っているのが分かるんだもの。可愛いって思っちゃった。
馬車が国軍訓練場に着いた。ドアが開いてファレンノーザ公爵がヒョイと顔を出した。
「どうぞ、お嬢さん方」
「まぁ、公爵閣下。失礼いたしますわ」
先にミリアディス様が公爵の手を借りて、馬車を降りた。私が先じゃないの?身分的にも。
「あのっ、ミリアディス様」
「今日はキャスリーン様が主役ですわよ?順番は間違っておりませんわ」
「さぁ、光の聖女様、お手をどうぞ」
差し出された公爵の手を取って、馬車から降りる。
ミリアディス様のエスコートは王宮近衛騎士団長様が務めた。近衛騎士は王族を守るのが主な任務だ。本来ならファレンノーザ公爵も守られる立場なんだけどな。
チラリと公爵を見上げると、柔らかい笑みを浮かべていた。国軍訓練場に入る時にはその笑みも消えていたけど。
「総員、集合!!」
訓練していた将校、兵士達に号令が掛かる。訓練を止めた将校と兵士達が集合して、朝礼台のような台の前に整列した。
私とミリアディス様がエスコートされて、台に登ると再び号令が掛かる。
「総員、傾聴!!」
ファレンノーザ公爵が前に出て話し始めた。
「諸君、日頃の鍛練、ご苦労。今日は教会枢密院女性神官統括であらせられるミリアディス・ハイレント令嬢と光の聖女候補と名高いキャスリーン・フェルナー侯爵令嬢が、諸君らを激励せんと訪問くだされた。ハイレント嬢、フェルナー嬢、どうぞこちらに」
ミリアディス様の後に付いて前に出る。ミリアディス様の挨拶の後、促されて私も挨拶をする。
「フェルナー侯爵が娘、キャスリーン・フェルナーと申します。日頃、この王都を、この国を守らんと努力を続け、日々鍛練される皆様方を誇りに思います。どうぞ無理なく、また怪我をする事なく訓練に励まれますよう、皆様方のご無事をお祈りいたします」
応える声も拍手も無い。当然だよね。軍隊なんだもん。ただ、ミリアディス様と私に注がれる不躾な視線は、いくつか感じた。これは『慰問』だと思っているんだろうか?そういうサービスを期待されている、とか?
ファレンノーザ公爵が私達を下げて前に出た。
「いいか、貴様ら。この方々をただの慰問だと思うな。そのような思想は今すぐ捨てろ」
国軍って女性は居ないのかしら?別の場所に居るとか?整列しているのは男性だけに見える。
ファレンノーザ公爵と王宮近衛騎士団長にエスコートされて少し歩くと、今居た訓練場より小さい場所に出た。そちらにも訓練している人がいる。
「ここに居るのは女性騎士や兵士と、近衛騎士団員達だ。あちらに交ぜると余計な問題が起こる懸念がある故な。分けざるを得ないのだよ」
「それは、女性だからという事でしょうか?」
「しかり。女性だからと見下す者のいかに多い事か。近衛騎士団員者達はそうでもないのだが、さっきの奴らは……。実力的には問題は無いのだがな」
「分けるとイザという時の連携が、取れなくなる可能性もあるのでは?」
「そうなのだよ。だが……」
「それは将校様達も同様ですの?」
「見て見ぬふりだな。報告もほとんど無い」
女性騎士に何人か顔を見知っている先輩が居た。コッソリ覗いているから、私達に気付いていない。
その内、近衛騎士団長に気付いた騎士達が、自主的に集合した。
「騎士団長様、そちらは?」
「ミリアディス・ハイレント令嬢とキャスリーン・フェルナー侯爵令嬢だ」
「ミリアディス・ハイレント令嬢って、教会枢密院女性神官統括様では?エドワード殿下のご婚約者の」
「それにキャスリーン・フェルナー侯爵令嬢って、光の聖女様候補様!!」
ザッと全員が片膝を付いた。
「お立ちくださいませ。私はまだ婚約者ですわ。フェルナー様もそのような事は望んでおられませんわよ」
「しかし……」
「お立ちくださいませ」
ミリアディス様が再度言うと、不承不承ながらも立ってくれた。
「学院で見知った顔が、いくつもございますわね」
ミリアディス様が緩く微笑まれた。
懇談をと勧められたので、国軍の方でも懇談をしたいと言うと、騎士団長に難色を示された。
「彼らはフェルナー嬢を、その、好色の目で見るかもしれませんよ?」
「はい。存じております。しかしこちらでは懇談を、国軍では挨拶のみというのは、不満が溜まりませんか?」
「それはそうでしょうが」
「俺が付いていよう。そうすれば彼らも、邪な事は考えぬであろう?」
「ありがとうございます。その際には少し離れていてくださいませね」
「何故だ?」
「本音を言わなくなる可能性があるからですわ。上位の方の前で自然に本音を語る方は、まず居られません。取り繕い、本音を隠し、綺麗事で終わらせようとします」
公爵閣下が側に居たら、本音どころか飾った上辺の言葉も聞けないと思う。この世界は多少緩いとはいえ、歴然たる身分社会だ。
結局公爵には離れていてもらう事を了承してもらって、国軍の皆さんには、影となる場所に集まってもらう事にした。
「フェルナー様、お気を付けくださいませね?」
「お気遣い、ありがとうございます」
かつての先輩に見送られて、国軍将校、兵士達が待っている屋内訓練場に案内してもらった。
そういえば、前世で『日本は引算の美学、欧米は足算の美学』と聞いた事があった。日本はどう空間を使うかを考えて、欧米は空間を埋める事を考えるらしい。だから日本では生け花も削って削って、花一輪になってもそこに美を見る。欧米は空間を埋めるから豪華に華やかになるんだそうだ。
どちらが良いとは言えないけど、和の生け花の凛とした佇まいは好きだったな。
ギプソフィラもたくさん集まると、華やかになる。ローレンス様が言っていたけど、それを実感出来る。フランの生け花の腕もあるんだろうな。生け花じゃない。フラワーアレンジメントだね。
ギプソフィラってたくさん集まると匂いが結構キツいんだけど、生けられたギプソフィラは控え目でフローラルな香りがする。
「フラン、このギプソフィラ、マリアさんに頼んで咲かせてもらったって言った?」
「はい。頼んでおられましたよ」
「香りも変えられるのかしら?」
「香りですか?そういえばギプソフィラの香りはもう少し強かったですわね」
その日はたくさんのギプソフィラに癒された。
国軍訪問の日になった。ローレンス様と一緒に教会に行って、そこからミリアディス様と迎えの馬車に乗った。
「国軍を訪問するのは2度目ですわ」
「そうなのですか?」
「卒業してすぐに、エドワード様と一緒に見学にまいりましたの。皆様真剣で、見ていて少し怖かったですわ。キャスリーン様はご覧になった事はございますの?」
「フェルナー侯爵家の私兵の訓練でしたら。光魔法使いとして控えておりますから、その際に見学もしておりますが、毎回怪我がないようにとハラハラしますわ」
「そうですのね。私はハイレント家でも見た事が無かったものですから、国軍見学の際はエドワード様に隠れてしまいましたのよ」
「あら、今日は大丈夫ですの?エドワード様がいらっしゃいませんけれど?」
「大丈夫ですわ。キャスリーン様をお守りいたしますからね」
「うふふ。よろしくお願いいたしますわ」
「ヒドいですわ。お笑いになるなんて」
だって、精一杯虚勢を張っているのが分かるんだもの。可愛いって思っちゃった。
馬車が国軍訓練場に着いた。ドアが開いてファレンノーザ公爵がヒョイと顔を出した。
「どうぞ、お嬢さん方」
「まぁ、公爵閣下。失礼いたしますわ」
先にミリアディス様が公爵の手を借りて、馬車を降りた。私が先じゃないの?身分的にも。
「あのっ、ミリアディス様」
「今日はキャスリーン様が主役ですわよ?順番は間違っておりませんわ」
「さぁ、光の聖女様、お手をどうぞ」
差し出された公爵の手を取って、馬車から降りる。
ミリアディス様のエスコートは王宮近衛騎士団長様が務めた。近衛騎士は王族を守るのが主な任務だ。本来ならファレンノーザ公爵も守られる立場なんだけどな。
チラリと公爵を見上げると、柔らかい笑みを浮かべていた。国軍訓練場に入る時にはその笑みも消えていたけど。
「総員、集合!!」
訓練していた将校、兵士達に号令が掛かる。訓練を止めた将校と兵士達が集合して、朝礼台のような台の前に整列した。
私とミリアディス様がエスコートされて、台に登ると再び号令が掛かる。
「総員、傾聴!!」
ファレンノーザ公爵が前に出て話し始めた。
「諸君、日頃の鍛練、ご苦労。今日は教会枢密院女性神官統括であらせられるミリアディス・ハイレント令嬢と光の聖女候補と名高いキャスリーン・フェルナー侯爵令嬢が、諸君らを激励せんと訪問くだされた。ハイレント嬢、フェルナー嬢、どうぞこちらに」
ミリアディス様の後に付いて前に出る。ミリアディス様の挨拶の後、促されて私も挨拶をする。
「フェルナー侯爵が娘、キャスリーン・フェルナーと申します。日頃、この王都を、この国を守らんと努力を続け、日々鍛練される皆様方を誇りに思います。どうぞ無理なく、また怪我をする事なく訓練に励まれますよう、皆様方のご無事をお祈りいたします」
応える声も拍手も無い。当然だよね。軍隊なんだもん。ただ、ミリアディス様と私に注がれる不躾な視線は、いくつか感じた。これは『慰問』だと思っているんだろうか?そういうサービスを期待されている、とか?
ファレンノーザ公爵が私達を下げて前に出た。
「いいか、貴様ら。この方々をただの慰問だと思うな。そのような思想は今すぐ捨てろ」
国軍って女性は居ないのかしら?別の場所に居るとか?整列しているのは男性だけに見える。
ファレンノーザ公爵と王宮近衛騎士団長にエスコートされて少し歩くと、今居た訓練場より小さい場所に出た。そちらにも訓練している人がいる。
「ここに居るのは女性騎士や兵士と、近衛騎士団員達だ。あちらに交ぜると余計な問題が起こる懸念がある故な。分けざるを得ないのだよ」
「それは、女性だからという事でしょうか?」
「しかり。女性だからと見下す者のいかに多い事か。近衛騎士団員者達はそうでもないのだが、さっきの奴らは……。実力的には問題は無いのだがな」
「分けるとイザという時の連携が、取れなくなる可能性もあるのでは?」
「そうなのだよ。だが……」
「それは将校様達も同様ですの?」
「見て見ぬふりだな。報告もほとんど無い」
女性騎士に何人か顔を見知っている先輩が居た。コッソリ覗いているから、私達に気付いていない。
その内、近衛騎士団長に気付いた騎士達が、自主的に集合した。
「騎士団長様、そちらは?」
「ミリアディス・ハイレント令嬢とキャスリーン・フェルナー侯爵令嬢だ」
「ミリアディス・ハイレント令嬢って、教会枢密院女性神官統括様では?エドワード殿下のご婚約者の」
「それにキャスリーン・フェルナー侯爵令嬢って、光の聖女様候補様!!」
ザッと全員が片膝を付いた。
「お立ちくださいませ。私はまだ婚約者ですわ。フェルナー様もそのような事は望んでおられませんわよ」
「しかし……」
「お立ちくださいませ」
ミリアディス様が再度言うと、不承不承ながらも立ってくれた。
「学院で見知った顔が、いくつもございますわね」
ミリアディス様が緩く微笑まれた。
懇談をと勧められたので、国軍の方でも懇談をしたいと言うと、騎士団長に難色を示された。
「彼らはフェルナー嬢を、その、好色の目で見るかもしれませんよ?」
「はい。存じております。しかしこちらでは懇談を、国軍では挨拶のみというのは、不満が溜まりませんか?」
「それはそうでしょうが」
「俺が付いていよう。そうすれば彼らも、邪な事は考えぬであろう?」
「ありがとうございます。その際には少し離れていてくださいませね」
「何故だ?」
「本音を言わなくなる可能性があるからですわ。上位の方の前で自然に本音を語る方は、まず居られません。取り繕い、本音を隠し、綺麗事で終わらせようとします」
公爵閣下が側に居たら、本音どころか飾った上辺の言葉も聞けないと思う。この世界は多少緩いとはいえ、歴然たる身分社会だ。
結局公爵には離れていてもらう事を了承してもらって、国軍の皆さんには、影となる場所に集まってもらう事にした。
「フェルナー様、お気を付けくださいませね?」
「お気遣い、ありがとうございます」
かつての先輩に見送られて、国軍将校、兵士達が待っている屋内訓練場に案内してもらった。
97
お気に入りに追加
462
あなたにおすすめの小説
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)
そんなに妹が好きなら家出してあげます
新野乃花(大舟)
恋愛
エレーナとエーリッヒ伯爵が婚約を発表した時、時の第一王子であるクレスはやや複雑そうな表情を浮かべていた。伯爵は、それは第一王子の社交辞令に過ぎないものであると思い、特に深く考えてはいなかった。その後、エーリッヒの妹であるナタリーの暗躍により、エレーナは一方的に婚約破棄を告げられてしまうこととなる。第一王子のエレーナに対する思いは社交辞令に過ぎないものだと思っていて、婚約破棄はなんら問題のない事だと考えている伯爵だったが、クレスのエレーナに対する思いが本物だったと明らかになった時、事態は一変するのだった…。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】第三王子殿下とは知らずに無礼を働いた婚約者は、もう終わりかもしれませんね
白草まる
恋愛
パーティーに参加したというのに婚約者のドミニクに放置され壁の花になっていた公爵令嬢エレオノーレ。
そこに普段社交の場に顔を出さない第三王子コンスタンティンが話しかけてきた。
それを見たドミニクがコンスタンティンに無礼なことを言ってしまった。
ドミニクはコンスタンティンの身分を知らなかったのだ。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね
猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」
広間に高らかに響く声。
私の婚約者であり、この国の王子である。
「そうですか」
「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」
「… … …」
「よって、婚約は破棄だ!」
私は、周りを見渡す。
私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。
「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」
私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。
なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる