3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 7学年生

国軍訪問

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 フランが嬉しそうに大きな花瓶に、ギプソフィラカスミソウを生けている。西洋風の世界だから、お花もワサっと大きく華やかに生ける。

 そういえば、前世で『日本は引算の美学、欧米は足算の美学』と聞いた事があった。日本はどう空間を使うかを考えて、欧米は空間を埋める事を考えるらしい。だから日本では生け花も削って削って、花一輪になってもそこに美を見る。欧米は空間を埋めるから豪華に華やかになるんだそうだ。

 どちらが良いとは言えないけど、和の生け花の凛とした佇まいは好きだったな。

 ギプソフィラカスミソウもたくさん集まると、華やかになる。ローレンス様が言っていたけど、それを実感出来る。フランの生け花の腕もあるんだろうな。生け花じゃない。フラワーアレンジメントだね。

 ギプソフィラカスミソウってたくさん集まると匂いが結構キツいんだけど、生けられたギプソフィラカスミソウは控え目でフローラルな香りがする。

「フラン、このギプソフィラカスミソウ、マリアさんに頼んで咲かせてもらったって言った?」

「はい。頼んでおられましたよ」

「香りも変えられるのかしら?」

「香りですか?そういえばギプソフィラカスミソウの香りはもう少し強かったですわね」

 その日はたくさんのギプソフィラカスミソウに癒された。


 国軍訪問の日になった。ローレンス様と一緒に教会に行って、そこからミリアディス様と迎えの馬車に乗った。

「国軍を訪問するのは2度目ですわ」

「そうなのですか?」

「卒業してすぐに、エドワード様と一緒に見学にまいりましたの。皆様真剣で、見ていて少し怖かったですわ。キャスリーン様はご覧になった事はございますの?」

「フェルナー侯爵家の私兵の訓練でしたら。光魔法使いとして控えておりますから、その際に見学もしておりますが、毎回怪我がないようにとハラハラしますわ」

「そうですのね。わたくしはハイレント家でも見た事が無かったものですから、国軍見学の際はエドワード様に隠れてしまいましたのよ」

「あら、今日は大丈夫ですの?エドワード様がいらっしゃいませんけれど?」

「大丈夫ですわ。キャスリーン様をお守りいたしますからね」

「うふふ。よろしくお願いいたしますわ」

「ヒドいですわ。お笑いになるなんて」

 だって、精一杯虚勢を張っているのが分かるんだもの。可愛いって思っちゃった。

 馬車が国軍訓練場に着いた。ドアが開いてファレンノーザ公爵がヒョイと顔を出した。

「どうぞ、お嬢さん方」

「まぁ、公爵閣下。失礼いたしますわ」

 先にミリアディス様が公爵の手を借りて、馬車を降りた。私が先じゃないの?身分的にも。

「あのっ、ミリアディス様」

「今日はキャスリーン様が主役ですわよ?順番は間違っておりませんわ」

「さぁ、光の聖女様、お手をどうぞ」

 差し出された公爵の手を取って、馬車から降りる。

 ミリアディス様のエスコートは王宮近衛騎士団長様が務めた。近衛騎士は王族を守るのが主な任務だ。本来ならファレンノーザ公爵も守られる立場なんだけどな。

 チラリと公爵を見上げると、柔らかい笑みを浮かべていた。国軍訓練場に入る時にはその笑みも消えていたけど。

「総員、集合!!」

 訓練していた将校、兵士達に号令が掛かる。訓練を止めた将校と兵士達が集合して、朝礼台のような台の前に整列した。

 私とミリアディス様がエスコートされて、台に登ると再び号令が掛かる。

「総員、傾聴!!」

 ファレンノーザ公爵が前に出て話し始めた。

「諸君、日頃の鍛練、ご苦労。今日は教会枢密院女性神官統括であらせられるミリアディス・ハイレント令嬢と光の聖女候補と名高いキャスリーン・フェルナー侯爵令嬢が、諸君らを激励せんと訪問くだされた。ハイレント嬢、フェルナー嬢、どうぞこちらに」

 ミリアディス様の後に付いて前に出る。ミリアディス様の挨拶の後、促されて私も挨拶をする。

「フェルナー侯爵が娘、キャスリーン・フェルナーと申します。日頃、この王都を、この国を守らんと努力を続け、日々鍛練される皆様方を誇りに思います。どうぞ無理なく、また怪我をする事なく訓練に励まれますよう、皆様方のご無事をお祈りいたします」

 応える声も拍手も無い。当然だよね。軍隊なんだもん。ただ、ミリアディス様と私に注がれる不躾な視線は、いくつか感じた。これは『慰問』だと思っているんだろうか?そういうサービスを期待されている、とか?

 ファレンノーザ公爵が私達を下げて前に出た。

「いいか、貴様ら。この方々をただの慰問だと思うな。そのような思想は今すぐ捨てろ」

 国軍って女性は居ないのかしら?別の場所に居るとか?整列しているのは男性だけに見える。

 ファレンノーザ公爵と王宮近衛騎士団長にエスコートされて少し歩くと、今居た訓練場より小さい場所に出た。そちらにも訓練している人がいる。

「ここに居るのは女性騎士や兵士と、近衛騎士団員達だ。あちらに交ぜると余計な問題が起こる懸念がある故な。分けざるを得ないのだよ」

「それは、女性だからという事でしょうか?」

「しかり。女性だからと見下す者のいかに多い事か。近衛騎士団員者達はそうでもないのだが、さっきの奴らは……。実力的には問題は無いのだがな」

「分けるとイザという時の連携が、取れなくなる可能性もあるのでは?」

「そうなのだよ。だが……」

「それは将校様達も同様ですの?」

「見て見ぬふりだな。報告もほとんど無い」

 女性騎士に何人か顔を見知っている先輩が居た。コッソリ覗いているから、私達に気付いていない。

 その内、近衛騎士団長に気付いた騎士達が、自主的に集合した。

「騎士団長様、そちらは?」

「ミリアディス・ハイレント令嬢とキャスリーン・フェルナー侯爵令嬢だ」

「ミリアディス・ハイレント令嬢って、教会枢密院女性神官統括様では?エドワード殿下のご婚約者の」

「それにキャスリーン・フェルナー侯爵令嬢って、光の聖女様候補様!!」

 ザッと全員が片膝を付いた。

「お立ちくださいませ。わたくしはまだ婚約者ですわ。フェルナー様もそのような事は望んでおられませんわよ」

「しかし……」

「お立ちくださいませ」

 ミリアディス様が再度言うと、不承不承ながらも立ってくれた。

「学院で見知った顔が、いくつもございますわね」

 ミリアディス様が緩く微笑まれた。

懇談をと勧められたので、国軍の方でも懇談をしたいと言うと、騎士団長に難色を示された。

「彼らはフェルナー嬢を、その、好色の目で見るかもしれませんよ?」

「はい。存じております。しかしこちらでは懇談を、国軍では挨拶のみというのは、不満が溜まりませんか?」

「それはそうでしょうが」

「俺が付いていよう。そうすれば彼らも、よこしまな事は考えぬであろう?」

「ありがとうございます。その際には少し離れていてくださいませね」

「何故だ?」

「本音を言わなくなる可能性があるからですわ。上位の方の前で自然に本音を語る方は、まず居られません。取り繕い、本音を隠し、綺麗事で終わらせようとします」

公爵閣下が側に居たら、本音どころか飾った上辺の言葉も聞けないと思う。この世界は多少緩いとはいえ、歴然たる身分社会だ。

結局公爵には離れていてもらう事を了承してもらって、国軍の皆さんには、影となる場所に集まってもらう事にした。

「フェルナー様、お気を付けくださいませね?」

「お気遣い、ありがとうございます」

かつての先輩に見送られて、国軍将校、兵士達が待っている屋内訓練場に案内してもらった。









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