3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
上 下
248 / 281
学院中等部 7学年生

ラッセル様との考察

しおりを挟む
 ラッセル様がフェルナー侯爵邸にやって来た。今回訪問が遅れたのは、ゴーヴィリス国での情報収集の所為せいだと盛大に言い訳してくれた。気にしてないんだけどね、私は。

「それでさ、フェルナー嬢はロマンサ北方国の近くまで行ってきたんでしょ?何か分かった?」

「ご相談しようとは思っておりましたが、性急ですわねぇ」

「こういうのってワクワクしない?」

「ご想像にお任せいたしますわ。それよりもサミュエル先生とファレンノーザ公爵様が、お会いしたいと仰っておられました」

「ブランジット公爵子息とファレンノーザ公爵か。ちょっと怖いね」

「全くそうは見えませんけれど?」

「そう?で、何の用?聞いてるんでしょ?」

「おそらくは魔方陣の解析かと。ラッセル様は伝心機を知っておられますか?」

「知ってるよ。そういうのがあったというのは。もしかして伝心機関係なのかい?」

「その話をしておりましたのでおそらくは。伝心機の魔法陣がどういう物だったとか、そういう話ですわね」

「え?魔法陣が判明してるのかい?」

「それは分かりませんわ。聞いておりませんし」

「それは是非とも見てみたいね。まずはそっちかな?どちらかというと、伝心機の方が早く終わりそうだし」

「そういえばラッセル様、レオナルド様は今、どこに居られますの?」

「秘密の場所」

「……レヴィ領ですか」

「相変わらずだねぇ。正解かどうかも言えないけど」

「そういう情報秘匿は大切ですものね」

「……そういう事にしておくよ」

 サミュエル先生への伝言をフランに頼んで、返事が来るまでの間に例のモヤの事を話しておく事にした。

「黒っぽい紫のモヤか。それと黒い渦、ね」

「渦の方は、わたくしが直接見た訳ではないのですけれど」

「それでも気になるね。それから変色した動物か」

「浄化で元に戻る方もいらっしゃるのですけれど」

「ララちゃんが言っていた次元が複数あるというのは、多元宇宙構造論だね」

「多元宇宙構造論?」

「いわゆるマルチバースだよ。フェルナー嬢自身が言っていたでしょ?同じような文化の、でも違う世界。魔法の有無とかね」

「そういう理論がございましたの?」

「複数の宇宙の存在を仮定した理論物理学として存在していたよ。なかなか面白くてね」

「そちら方面も嗜んでおられましたの?」

「興味があるとついついね。実際に体験してるしね。今の状況がそうでしょ?それにしても黒い渦かぁ。見てみたいね」

 話をしている間に、サミュエル先生が駆けつけてくれた。

「ラッセル殿」

「久しぶりだねぇ。ずいぶん急いでるけど、まあ落ち着いて」

 のんびりとラッセル様が言った。フランがお茶を出してくれる。

「申し訳ない」

「フェルナー嬢から聞いたけど、伝心機の事だって?」

「魔法陣が読み解けないのです。キャシーちゃんからラッセル殿ならもしかするとと聞きまして」

「魔道具関係はジョーダンの方が得意なんだけどね」

 ラッセル様がサミュエル先生から魔法陣を受け取る。

「なるほどね。これはこの世界の魔道具士じゃ無理だろうね」

「地球の言語が使われているからですか?」

「その通りだよ、フェルナー嬢。この魔法陣の作成者は、語学堪能だったようだね。たぶん日本人だ」

「そこまで分かるのですか?」

「漢字とカタカナが使われているよ。後はラテン語。残りは英語かな?ちょっと翻訳してみようか。フェルナー嬢、力を貸してもらえるかな?」

わたくしがお役に立ちますの?」

 私は日本語と、かろうじて英語が読める程度なんだけど。しかも記憶が薄れているから、日本語も自信が無い。

 ラッセル様は、そのまま翻訳作業に没頭してしまった。

「キャシーちゃん、あれから何か思い付いた?」

「ロマンサ北方国の事ですか?いいえ。あ、でも、ララ様やラッセル様とお話しさせていただいて、ヒントかな?と思う事象の言葉を知りました」

「ヒントかな?と思う事象の言葉?」

「多元宇宙構造論です」

「タゲンウチュウ……。何それ?」

「ラッセル様の方がお詳しいのですけれど、世界はひとつだけじゃ無いって考えでしょうか。わたくしには前世の記憶がございますけれど、この世界とは似て非なる世界なのです。魔法もございませんでしたし。前の世界と今わたくしが生きている世界は、重なりあうことはなくて、でもちゃんと存在していると言うか……」

「……。よく分からないけど、キャシーちゃんのゼンセの世界と違うんだ?」

「はい。先程も申し上げましたが、前世の世界には魔法はございません。創世神話もございましたが、ずいぶん違っております。神話も1つではございませんでしたし」

「ひとつじゃないのかい?」

わたくしが覚えているだけでも、日本神話、ギリシャ神話、ローマ神話、北欧神話、中国神話、ヒンドゥー神話、アラビア神話、メソポタミア神話。信仰する宗教によって種類がございましたし、わたくしが言った以上にたくさんございました」

「信仰する宗教によってって、そんなに色々あったんだ?」

「ございましたね。わたくしが生まれ育った国は日本ですけれど、日本は宗教に寛大というか無関心というか無節操というか、いろんな宗教行事を取り入れておりましたし、宗教関連施設も色々でした。教会も1つの宗教の教会だけではなかったりとか」

「どういう事だい?」

「同じ教会と呼ばれる施設でも、宗教によって様式が違っていますの。わたくしも詳しくはございませんが」

「この世界の教会はキリスト教型式だね。ちょっとフェルナー嬢、良いかな?」

没頭して翻訳していたラッセル様が、会話に入ってきた。

「この文章、読んでくれる?」

「奇想天外、空前絶後、斬新奇抜、前代未聞……。何ですか?これ」

「魔法陣に書いてあった文字だよ。意味は分かる?」

「奇想天外は普通では思いもよらない奇抜な事、空前絶後は非常に珍しい事、斬新奇抜は発想が独自で他に類を見ないという意味ですわね。前代未聞も似たような意味です」

「つまり、伝心機には関係ないのかな?」

「たぶん?」

「じゃあ、これは?」

「架通電言ですか?こんな四字熟語有りましたっけ?」

「じゃあ、これかな?」

「この言葉がどうかされましたか?」

「伝心機に必要と思われる言葉だよ。フェイクが多くてね」

ラッセル様は魔法陣に戻っていった。

「それで、どういう事だい?」

「ここから話す事は、完全なわたくしだけの想像、もしくは妄想だと思ってくださいませ。つまり、他の世界が繋がってしまったのではないかと。フェアールカク領で聞いた、ロマンサ北方国の湖に見えた城のような建物、グクラン領で見たとされる未知の動物のような生命体。他にもあるかもしれませんが、この2つからこう考えるのがしっくり来るんです」

「まぁ、突飛ではあるけどね。他の世界の未知なる生命体か。可能性のひとつとして覚えておくよ。後はモヤかな?」

「それも他の世界のモノにしておきません?」

「億劫になってきた?」

「そうですわね」

はふっと息を吐く。空想上の物事を考えるのって苦手なのよね。

「ただ……」

「ん?」

「これはあくまでもわたくしの想像、妄想ですわ。全てを納めるにはこうこじつけるしかないという。個人的にはどなたかが何らかの方法で、事象を起こしたと考えたいですわね」

「誰が?」

「存じ上げません。考えてもくださいませ?たった2つの物事から、全てを見通すなんて、神様のようですわよ。わたくしにそのような力はございません。それに物的証拠がございません。ロマンサ北方国の湖に見えた城もグクラン領で見たとされる動物のような何かも、見たという証言だけです。見たのは真実でも、それが虚像かもしれないという可能性は、残っておりますのよ」

「そうか。そうだね。原理は不明だけど、たしかに見た物が実像とは限らないんだ」




しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです

めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。 さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。 しかしナディアは全く気にしていなかった。 何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから―― 偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。 ※頭からっぽで ※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。 ※夫婦仲は良いです ※私がイメージするサバ女子です(笑)

そんなに妹が好きなら家出してあげます

新野乃花(大舟)
恋愛
エレーナとエーリッヒ伯爵が婚約を発表した時、時の第一王子であるクレスはやや複雑そうな表情を浮かべていた。伯爵は、それは第一王子の社交辞令に過ぎないものであると思い、特に深く考えてはいなかった。その後、エーリッヒの妹であるナタリーの暗躍により、エレーナは一方的に婚約破棄を告げられてしまうこととなる。第一王子のエレーナに対する思いは社交辞令に過ぎないものだと思っていて、婚約破棄はなんら問題のない事だと考えている伯爵だったが、クレスのエレーナに対する思いが本物だったと明らかになった時、事態は一変するのだった…。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

【完結】第三王子殿下とは知らずに無礼を働いた婚約者は、もう終わりかもしれませんね

白草まる
恋愛
パーティーに参加したというのに婚約者のドミニクに放置され壁の花になっていた公爵令嬢エレオノーレ。 そこに普段社交の場に顔を出さない第三王子コンスタンティンが話しかけてきた。 それを見たドミニクがコンスタンティンに無礼なことを言ってしまった。 ドミニクはコンスタンティンの身分を知らなかったのだ。

初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。

甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」 「はぁぁぁぁ!!??」 親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。 そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね…… って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!! お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!! え?結納金貰っちゃった? それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。 ※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。

【完結】婚約破棄された私は昔の約束と共に溺愛される

かずきりり
恋愛
学園の卒業パーティ。 傲慢で我儘と噂される私には、婚約者である王太子殿下からドレスが贈られることもなく、エスコートもない… そして会場では冤罪による婚約破棄を突きつけられる。 味方なんて誰も居ない… そんな中、私を助け出してくれたのは、帝国の皇帝陛下だった!? ***** HOTランキング入りありがとうございます ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

処理中です...