3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 7学年生

噂と対抗策

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 フェアールカク領での救援活動も2週間を越えた。そろそろ戻るようにとの陛下からの手紙も1週間前から届いている。ファレンノーザ公爵がその度に状況を知らせて「帰還はまだ先」と送っているんだけど、理解していないと憤っていた。

「公爵閣下。通電器があるのは分かりましたけど、国家間じゃなくて、例えば各領を繋ぐ通信機は無いのでしょうか?」

「あー、あった、のだが……」

「のだが?」

「どの国の伝心機も壊れてしまってな。修理が出来ないのだよ」

「伝心機というのですね。壊れたとは?」

「……。ブランジットの息子、説明して差し上げるがいい」

公爵プリンス、丸投げしないでくださいよ。えぇっとね、キャシーちゃん。魔晶石で動くものなんだけど、刻んである魔法陣が複雑で細かすぎて、複製が出来ないんだ。というか謎言語なんだよね」

「魔晶石に再び魔力を籠めてはいけないのですか?」

「それも試したらしいんだけどね。上手くいかなかったんだって。壊れ始めたのが今から150年以上前。最後の伝心機が壊れたのが75年前だって話でね。私も稼働している実物は見た事が無い。公爵プリンスもですよね?」

「当たり前だ」

「それで謎言語とは?」

「前に資料翻訳をしてもらったでしょ?ああいう文字って事」

「その中にこういう文字は?」

 かろうじて覚えている自分の名前を、漢字で書いてみた。

「こんな文字もあったよ。後はよく分からないけど」

「ラッセル様なら読めるかもしれませんわね」

「ラッセル氏か。今ごろどこに居るのやら」

 ラッセル様は、あちこち放浪していますからね。でも本来の家はゴーウィリス国なんだし、そちらに送ってみればいいのに。ジョーダン・モンターギュ・エドガー様もいらっしゃるし。

「そういえば今年の夏は、いらっしゃらないのかしら」

「ん?キャシーちゃん、どうしたんだい?」

「毎年ラッセル様は我が家を訪れるのです。わたくしも夏期休暇が始まってすぐにこちらに来ましたから、今年はどうなっているのかと」

「それだっ」

 ファレンノーザ公爵とサミュエル先生が、顔を見合わせて言った。

「キャシーちゃん、ラッセル氏が来たら、是非とも知らせてくれるかな?」

「いいですけれど」

 サミュエル先生の必死さに頷いたけど、ちょっと引いてしまった。

 ルカク連峰を越えてロマンサ北方国に入るチャレンジは、何度も行われている。ルカク連峰頂上まで、2日掛かるらしい。ただし、それは山頂付近でキャンプを張っての話。実質的には1日で登れる。

 私も行ってみたかったけど、たぶん体力的に無理だと思うからやめておいた。ファレンノーザ公爵は明日アタックするそうだ。ちなみにエリックとリオンとシェリーは2回目と3回目のアタックの時に登頂している。

「お気を付けくださいませね?」

「光の聖女様は心配性ですな。大丈夫。だてに騎士団総督に任命されておりません」

 体力があるのは分かってるのよ。心配なのは野生動物の襲撃。一応登山道はあるらしいけど、ほぼ獣道だと聞いたし、ファレンノーザ公爵って王弟様なのに、いいのかしら?と思ってしまう。

 サミュエル先生はやめておくと言って、公爵に揶揄からかわれていた。「自信が無いのか?」とか「体力無さそうだしな」とか「無理はするな」って笑われたり。あれは煽ってたんだよね?きっと。


 翌日、ファレンノーザ公爵はフェアールカク辺境伯と共に、ルカク連峰に登っていった。残ったのは辺境伯夫人とソフィア様と、フェアールカク領の重鎮達。ソフィア様に何か言われたのか、私に対する態度がよそよそしい。私の側にはサミュエル先生が居てくれるし、使用人達の中でも私達付きとされた人達は、他の人達のそんな変化に戸惑っている。

 ホンの1日で、何をしたのだろうか?私の役割には対して支障はないけれど、本邸の私を見る目がなんだか蔑んでいるというか、汚い物を見るだ。

 そんな気配に気付いたのだろう。サミュエル先生が私を気遣ってくれた。

「キャシーちゃん、大丈夫かい?」

「えぇ。大丈夫ですわ。わたくしわたくしの役割を、全うするだけですから」

「そうは言ってもね」

「本当に大丈夫ですわ。だいたいの概要は分かってきましたし。まぁ、1日でここまでというのは、本拠地だからでしょうね。自分の味方が多い場所でしか動けないのではないかと。うふふ」

「怖いよ、その笑顔」

「何も企んでおりませんわよ。わたくしは何もしませんもの。相手と同じ場所まで降りてあげる必要はございませんし」

「何をしたの?何を」

「何もしておりませんわよ。まだね」

「本当に怖いんだけど?」

 次の日には避難民の間にまで噂が広まっていた。どうやら積極的に動いているらしく、あちらこちらで辺境伯家のメイド達を見かける。

 私は治療する度に、噂を聞いて心配した私兵達や避難民に声をかけられたり、反対に噂を信じた人達に避けられたりするようになった。サミュエル先生も同様だ。というか、サミュエル先生の方が酷いと思う。

 私に関する噂としては、「男好き」「必要もないのに手を握りたがる」「治療と称して相手を物色している」。この3つが多い。さらに見過ごせないのがサミュエル先生との仲に関する噂。曰く「サミュエル先生とは愛人関係で、それもフェルナー嬢の方から誘った」という物。これはさすがに見過ごせない。サミュエル先生は公爵子息だし、放っておいたら不敬罪が適用されてしまう。

「お嬢様、必要なら調査いたしますが?」

「必要ないですわ。わたくしわたくしのすべき事を成すだけです」

「しかし……」

「そうね。噂をばらまいている人物を見付けたら、警告だけしておいてくださいませ。それとダニエル様とマリアさんをお呼びしてください」

 エリックとリオンとシェリーが、心配そうにお伺いを立ててきたから、指示をしていく。私は噂に関して動く事はしない。それはサミュエル先生が苦々しげにやってくれている。

「お嬢ちゃん、呼んだか?」

「キャスリーン様、お召しですか?」

 ダニエル様とマリアさんが来てくれた。

「お呼び立てして申し訳ございません。フェアールカク辺境伯様に連絡は取れますか?」

「そりゃあお安いご用だけどよ」

「それではこういう噂を流してわたくしとサミュエル先生が迷惑していると、お知らせしてきていただけますか?」

「親に言うのか?」

「成人して言って良い事と悪い事の区別が付くはずなのに、それが出来ないようですから。いまだ保護が必要なのでしょう。それなら保護者に知らせるのが1番です」

「キャスリーン様、私はどうすれば?」

「辺境伯領の通信施設から、お手紙を送ってくださいますか?」

 簡単に手紙を書いて、マリアさんに託す。宛先はマッケンステイン様。あの方なら上手く拡散してくれると思う。

 ダニエル様とマリアさんが姿を消してしばらくして、サミュエル先生が走ってきた。

「キャシーちゃん、何の企み事?」

「サミュエル先生。わたくしは何もしておりませんわよ。少々各所に連絡を取っただけですわ」

「本当に怖いんだけど?そうそう。公爵プリンス達が帰ってきたら王都に帰るよ。浄化もほぼ終わったし、後は辺境伯領に任せて大丈夫そうだしね」

「それでよろしいのですか?」

「王家がちょっとね」

「何をなさったのです?わたくしも少し手を打ちましたけれど、王家まで巻き込むつもりはございませんでしてよ?」







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