3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 7学年生

光魔法使い

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 私達は無事に進級して、7学年生になった。

 中等部の7学年生は、はっきり言って何も役割が無い。強いて言えば執行役員の補佐の補佐とか、授業外交流の倶楽部長の補佐とか?すでに授業外交流の倶楽部長になっている人も居るけど、少数だ。その内のひとりがガブリエラ様なんだけどね。ガブリエラ様からは私に補佐をして欲しいと言われた。特に抵抗は無かったんだけど、医師資格取得の特別講座もあるし、お断りした。

 理由はちゃんと言って、ガブリエラ様には納得してもらったんだけど、イグニレス・ゲイツは納得してなかったらしい。補佐の一員として私を扱っている。その度にフランシス・エンヴィーオが「補佐はお前だろう」とお説教しているけど、次に行くと忘れたように言ってくるのよね。ガブリエラ様はその光景を見て笑ってるし、イグニレス・ゲイツは分かって言っているよね、これって。

 ギューラエイヒ伯爵代理様からは、あれから手紙が1通届いた。ギューラエイヒ伯爵代理様からの手紙には、アルベリク・リトルトンの学院での様子を教えて欲しいと書かれていて、分かる範囲で良ければと返事を出した。

 アルベリク・リトルトンはプレ社交会以降、本当に接触しなくなった。もちろん医師資格取得の特別講座には出席していて、でも、隣に座ろうとか、話しかけてきたりとか、そういった行動が無くなった。

「キャシーちゃん、彼と何かあったのかい?」

「何もございませんけれど?」

 ブレシングアクア聖恵水を作っていたら、サミュエル先生に聞かれてしまった。

「まぁ、つきまといが無くなったのは良いけどね」

「リトルトン様のご婚約の件は、お聞きになられましたか?」

「聞いたよ。ちょっとあんまりじゃないかって、リトルトン家に問い合わせたんだけど、息子アルベリクが決めた事だからとしか言われなくてね。他家の事だし、それ以上は何も言えなくてね」

 私の知っている事を情報提供しようか迷ったけど、やめておいた。

 アヴァレーツィオからの返事は「光の聖女様の慈愛に満ちたお心に、彼も感謝しているでしょう」の一言だけだった。こちらもなんだかなぁ、って思う。私の事をかいかぶりすぎじゃないだろうか。私はそこまで崇高な人間じゃない。

「あ、そうだ。今年の新入生に、光魔法使いが居るよ。ちょっと力は弱いけど」

「力が弱い?」

「これまで使ってこなかったみたいでね。治癒魔法の初歩からだね。でさ、キャシーちゃんも来てくれない?」

「何の為に?」

「魔法の見本を見せてやってほしいんだ」

「先生が見せるのでは駄目なのですか?」

「なんだか嫌われてるっていうか、距離を感じるんだよね」

「距離を感じる?サミュエル先生、何かしたんじゃないですか?」

「してないよ。私をなんだと思ってるの?」

「サミュエル先生です」

 サミュエル先生が黙ってしまった。

 今年入学した光魔法使いの子はエレン・ピアーズ準男爵の令息、シドニー・ピアーズ。魔法の授業の見学という名目で、私の授業中にやって来た。

「失礼いたします」

「……します……」

 新1学年生の補助教員に連れてこられたシドニー・ピアーズは、緊張しているのかか細い声で挨拶してくれた。

「やぁ、よく来たね」

 サミュエル先生の言葉に、サッと補助教員の後ろに隠れるシドニー・ピアーズ君。これは緊張してるだけじゃないかな?

「はじめまして。キャスリーン・フェルナーと申します」

 私が挨拶すると、ソロッと覗かせた顔が固まった。

「シドニー・ピアーズ君、大丈夫ですか?」

 補助教員が呼び掛けると、ギギギと音がしそうな程ぎこちなく補助教員を見上げた。

「今日は見学だよね?じゃあ、その辺で見ていて」

 サミュエル先生との打ち合わせ通りに、光魔法の練習を始める。まずは魔力出力から。両手を合わせて魔力のボールを作る、魔法の基礎だ。普通は属性を持たせない魔力のボールを作るんだけど、今回は『見せる為』に最初から光魔法でボールを作った。

 最初は小さく、だんだん大きくしていく。バスケットボール位の大きさまで大きくしたら、今度は小さくしていく。豆電球位まで小さくしたら、次は大きく。それを繰り返す。サミュエル先生に課せられた回数は15回。もちろん私はもっと多く出来る。最初から50回でさせられたんだよね、この練習。サミュエル先生もジルベール先生叔父様も、「最初からこの回数はキツいと思うけどね」って、笑ってた。やってやりましたよ。2人のポカンとした顔に溜飲が下がったのは、私だけの秘密。

 私の基礎練習を、シドニー・ピアーズ君はジィっと見ていた。

「興味、あるかい?」

 サミュエル先生が優しく話しかける。フルフルと首を振られてしまった。

「じゃあ、次は、この花を元気にしてみようか」

 切り取ったまま水に入れずに、萎れてしまった花が用意された。その数、50本。

 人にかけるより弱く治癒魔法をかける。集中してかけている間に、サミュエル先生が次の準備をしていた。

「自分も同じように出来るなんて、思い上がってはいけませんよ。あなたはただ光魔法を持つだけの、無能なのですから」

 不意に補助教員が、シドニー・ピアーズ君に言った言葉が聞こえた。

「えっ?」

「キャシーちゃん?」

「いえ、なんでもございません。失礼いたしました」

 練習を再開する。聞こえた言葉が空耳でないなら、補助教員がモラハラ発言をした。

 50本の花に治癒をかけ終わったら、少し休憩して、次は浄化。

「この子、浄化出来る?」

 サミュエル先生が用意したのは、丈夫な檻に入れられた真っ黒なウサギ。あれ?打ち合わせと違う。確か打ち合わせでは、王宮に保管されている動く人形の浄化だったはず。

「先生?」

「ロマンサ北方国との国境で見つかったそうだよ。ロマンサ北方国民が元は白ウサギだったと証言している。私では駄目だったんだよね」

 この子、何の為に捕まえたの?それが気になるんですが。

「この子が何らかの呪いに侵されていると?」

「呪いではない、らしいよ。王宮の解呪士が呪いではないって判断した」

「確かに呪い特有の、嫌な感じはしませんが」

 檻に近付くと、黒ウサギは威嚇してきた。全身の毛が逆立っている。キーキーという鳴き声が聞こえる。手を伸ばすと何度も檻に体当たりしてきた。ガンッ、ガンッという音が響く。

 浄化の魔力をまとわせた両手で、黒ウサギに手を伸ばす。ブゥブゥと荒い息づかいと、後ろ足を強く踏み締めるダンっという音が時折聞こえる。

 ソッと触れようとしたら、噛み付かれた。血が飛び散る。

「キャシーちゃんっ」

「大丈夫です。申し訳ございませんが、少しだけわたくしに任せて、見ていてくださいませ」

「駄目だよ。キャシーちゃんに怪我させるなんて、見ていられない」

「先生、動かないでくださいませ」

 噛まれた指が痛い。血が流れているのが分かる。指に治癒をかけて、もう1度手を伸ばす。

 檻を開けて手を伸ばすと再び噛み付かれたけど、ウサギを抱き上げた。そのまま浄化を強める。

 脳裏に映像が流れ込んだ。黒と紫のマーブルのモヤが広がる白い雪に覆われた地。モヤに捕まった他のウサギや鹿がパタリと倒れ、みるみる内に黒く朽ちていく。人も例外ではない。

 凄まじい恐怖に心が支配される。

「もう大丈夫。恐かったね」

 ウサギを抱き締めて、何度も何度も撫でていると、黒ウサギは白ウサギに変化していった。

「キャシーちゃん、どうやったんだい?」

サミュエル先生の声に、ウサギがビクッとする。撫でて落ち着かせた。

「浄化をかけただけですよ?」

「それだけには見えなかったけど。手は?噛まれた所は平気かい?」

「治癒しました」

「もう1度治癒と浄化をしておくよ。やれと言ったのは私だけど、無理はしないように」

「はい」

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