3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 6学年生

プレ社交会

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 あの日から、何度かアルベリク・リトルトンとダンスを合わせた。踊りやすくはあるのよね。アルベリク・リトルトンも体幹がしっかりしていて、リードも上手いし。でも嫌悪感というか、不快感が消えない。踊っているとアルベリク・リトルトンの視線を感じる。ジッと私の顔を見ている。こういう時に、背が低くて良かったと思う。私の視線はアルベリク・リトルトンの胸骨上部辺り。私が顔を上げないと、アルベリク・リトルトンと視線が合う事はない。私も半ば意地になっていて、顔を上げる事はない。

「キャスリーン様、少しよろしいでしょうか?」

 プレ社交会を明日に控えた日、ガブリエラ様に話しかけられた。

「どうかされましたか?ガブリエラ様」

「あの、プレ社交会のダンスの事で」

「はい」

「パートナーの方と、上手くいっていらっしゃいませんの?」

「少し苦手な方ではありますわね。わたくしの感情は、あちらもご存じですわ。それでも良いと仰っていますの」

「そうですの?」

「変わった方だと思いますわ。わたくしのどこが良いと仰るのかも不明ですし」

「キャスリーン様はどんな方に対しても、一生懸命向き合われますから、その辺りでは?」

「そうでしょうか?」


 プレ社交会当日、アルベリク・リトルトンとは会場入口のラウンジ待ち合いロビーで落ち合った。通常は寮まで来てもらうのだけど、ラウンジ待ち合いロビーで良いと、私が言い張った。我ながら意地になっているとは思う。

 若干反省しながらアルベリク・リトルトンと合流した

「光の聖女様、お綺麗です」

「ありがとうぞんじます」

「光の聖女様、どうぞこちらへ」

 ラウンジ待ち合いロビーの椅子に案内されて、私が座るとアルベリク・リトルトンは私にはべるように、床に膝を付いた。

「リトルトン様、そのような真似はおやめくださいませ」

「私が好きでやっている事です。光の聖女様はお気になさらないでください」

 気になりますって。

「リトルトン様。わたくしの態度も褒められたものでは無いと自覚しておりますが、リトルトン様も、ご自分を必要以上に卑下なさらないでくださいませ」

「申し訳ありません」

 それをやめてって言ってるんだけど。ニコニコと私を見上げているアルベリク・リトルトンを見る。

 入場時間が近付いて、イザベラ様やガブリエラ様がやって来た。ニコニコと跪くアルベリク・リトルトンと、困っている私を交互に見る。

「先程からこの調子ですの」

「あら、あらあら」

「リトルトン卿、立った方が良い。フェルナー嬢が困っておられる」

 イザベラ様のパートナーのカーティス・ノーマン様が言ってくれて、ようやくアルベリク・リトルトンが立ち上がる。立ち上がっても視線は感じている。

 入場の時間になった。イザベラ様やガブリエラ様と一緒に会場に入った。

 今年の会場は、シックな雰囲気。絨毯は深みのあるダークレッド。休憩スペースのテーブルクロスは赤味の強いパープル。ソファーはグレー。照明も暗めで全体的に大人っぽいというか、落ち着きすぎているというか。

「今年は大人っぽい雰囲気ですわね」

わたくしは好きですわ。こういう雰囲気」

わたくしはもう少し明るい方が……」

 あちこちで会場に関する感想が聞こえる。私はこういった雰囲気も好きだけど、もう少し明るさが欲しいと思う。学生だし、若々しさというか、こう……。

「光の聖女様、果実水です」

 アルベリク・リトルトンがウェイター給仕係から飲み物を取って、私に渡してくれた。

「ありがとうぞんじます」

 淑女の微笑みと言われるアルカイックスマイルを浮かべているから、不自然ではないよね?目は合わせてやらないけど。

 そろそろ意地を張るのも可哀想という感情が芽生えてきている。いつまで続けようか?という考えもある。私の態度は褒められたものじゃない。ましてやアルベリク・リトルトンは私への好意を隠していない。

 ダンスの為に、エスコートされてホールに出る。向かい合ってチラリと目線を上げた。アルベリク・リトルトンは嬉しそうに蕩けるような笑みを浮かべて私を見ていた。慌てて視線を下げる。

「光の聖女様、今日はありがとうございます。私のワガママにお付き合いくださり、感謝いたします」

「いいえ。お礼は不要です」

「こういったお誘いは今回で最後です」

「最後?」

「えぇ。冬期休暇中に、婚約いたしました」

「おめでとうございます」

後夫うわおですが」

「え?」

 後夫うわお後夫ごふとも言う。死別や離別した女性に連れ添う夫の事だ。後添いというのが一般的かな?女性だと後妻という呼び名になる。

「相手は30歳を過ぎています。跡取りとなる義息子は私より年上です」

「そんな……」

 貴族社会は、男社会だ。最近では女性進出も認められていて、爵位を継ぐ女性も増えてきている。でも……。

「お気になさる事はありません。相手には光の聖女様を想い続けていても良いと許可を得ています」

「でも、サン=コーム外科医はどうされるのですか?」

「続けますよ。後夫うわお先もそういう家系ですから」

「リトルトン家はどうなるのですか?」

「弟が継ぎます。次代の教育は、アヴァレーツィオ家から派遣されます」

 つまりは、アヴァレーツィオ家の意向という事だ。

「どうしてそんな……」

「婚約者が私の顔を気に入ったそうです」

 そんな理由で?思わずアルベリク・リトルトンの顔を見る。彼は幸せそうに私を見ていた。

「最後にこうして光の聖女様と踊れた。思い残す事はありません」

「そのように、今生の別れのような事を仰らないでください」

「やはりあなたはお優しい。こういう強引な手段を使った私にも、お心を砕いてくださる」

 ダンスが終わった。待機していた場所に戻ると、イザベラ様とカーティス・ノーマン様も戻ってきた。

「キャスリーン様?どうかなさいましたの?」

「何でもございませんわ。それよりイザベラ様、ノーマン様と連続で踊られるのだと思っておりましたわ?」

「お揶揄からかいにならないでくださいませ」

「ガブリエラ様とゲイツ様は、連続で踊っておられますわね」

「あのお2人はどうなってますの?」

「どうなって?あぁ、お付き合いをされているかどうかですか?」

「えぇ。辺境伯家と男爵家ですから難しいかもしれませんけれど、それでも気になってしまって」

「ただいま説得中ですわね。お義父様からお聞きしましたけれど」

 イザベラ様との会話中も、さっきのアルベリク・リトルトンの話が気になって仕方がない。私が気にかけるのも変な話だけど。女性だとこういった話もたまにあるのよね。主に素行が悪くて、縁談がなかったからとか、だけど。

「リトルトン様、先程のお話、わたくしが関係しておりますか?」

「……いいえ」

 妙な間が開いた。関係してるのかしら?

「光の聖女様はお気になさらなくとも、よろしいのですよ?」

「気になります」

「困ったお方だ」

 嬉しそうに笑いながら、アルベリク・リトルトンが言う。その後はいっさい、アルベリク・リトルトンの婚約話に触れられる事はなかった。

 プレ社交会が終わった。アルベリク・リトルトンは寮まで送ってくれた。

「リトルトン様、朝は意地を張って申し訳ございませんでした」

「そうさせたのは私です。お謝りになる必要はありません」

「あのお話は、本決まりなのですか?」

「いえ。今は仮です。が、何事もなければ進級時には決まっているでしょう」

「お相手様のお名前を教えていただけませんか?」

「知ってどうされます?」

「お聞きしたい事が……」

「不要です。彼女との婚約が本決まりとなったら、お教えしますよ」

「リトルトン様は意地悪ですね」

「そうでしょうか?」











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