3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 6学年生

ミザリア領へ

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結局、ダニエル様とマリアさんもいるからと、説得に説得を重ねて、無事にミザリア領行きのお許しが出た。

出発日は私の誕生日の次の日。そこはフェルナー家だけでなく、エドワード様とミリアディス様からも、説得されてしまった。

ミザリア領に行くのは、ファレンノーザ公爵とハロルドさんと私。護衛も同行しているし、途中で泊まる為の天幕車とかいう馬車も同行させている。天幕車は私の為らしい。

移動用の馬車に乗ってるのは、私とマリアさん。ファレンノーザ公爵は騎馬で向かうそうだ。本人曰く、「狭い馬車の中だと息が詰まる」そうで。出来るだけ急ぎたいというのもあるみたい。

馬車はファレンノーザ公爵家の物で、最新型だ。揺れを軽減する魔道具を組み込んでいるらしく、ほとんど揺れない。中で執務が出来る位だもんね。ファレンノーザ公爵はたまにこの馬車で執務をしながら移動しているらしい。

「フェルナーのお嬢様、ご不自由はございませんか?」

ファレンノーザ公爵が遠出の際に、いつも連れていっているという侍女が、気を使ってくれた。

「はい。特に不自由しておりません。お気遣いいただきありがとうございます」

窓はあるけれど、冬で開けていると寒いから、閉められている。だから馬車内は魔道具の灯りが常に灯されている。

王都からミザリア領までは急いでも4日はかかる。急がなければ6日かかるらしい。どんなスピードで飛ばしているのかは分からないけれど、相当速いよね。だから馬にも何か仕掛けがあるらしい。通常は駆けさせても1時間毎に休憩が必要らしいけど、休憩するのは2時間に1回。それも人間用な側面が大きい。トイレとか色々ね、あるからね。

昼食はファレンノーザ公爵家の護衛や侍女達が作ってくれた、スープとパン。乾燥野菜と乾燥肉で作ってあって、とても美味しかった。

夜には天幕車に寝具が用意されていて、簡易型のキャンピングカーのような感じだ。広くはないけど、手足を伸ばして眠れるし、ここでも不自由は感じなかった。

マリアさんによると、とても快適な旅路らしい。通常は雑魚寝だし、野外でテントを張る程度だし、速度もここまで速くないらしい。

狼や熊が襲ってきたら護衛達が率先して退治してしまうし、ファレンノーザ公爵も参加してるし。清潔が保たれないのは仕方がないけど、はっきり言って私は何もしていない。

良いのかな?と思っていたら、ファレンノーザ公爵に笑われてしまった。

「光の聖女様に同行をお願いしているのだ。ファレンノーザ家の名に懸けて不自由などさせないし、不自由な思いなどさせたら義姉上王妃様に何を言われるか」

なんでも私の同行を願った時、王妃様が私に、無理をさせたり不自由な思いをさせないようにと、お達しがあったらしい。

かなりなスピードで駆け抜けているから、街道沿いの街には立ち寄っていない。ファレンノーザ公爵からは帰りに寄るからと謝られた。「観光目的じゃないから、そこまで気を使わないでください」と言ったら「欲が無い」と笑われてしまった。

それでも休憩時に風景は楽しめる。王都から離れるにつれて、自然が多くなっていく。今は冬だけど、針葉樹林が多いから緑は多い。グルチノーザやシルベストと言われる広葉樹も生えていて、そちらは今は葉を落としている。私には見分けが付かないけど、、珍しい果樹もあるらしい。「わたくしだって薬草事典に載っている樹木なら葉を見れば分かるはずなんだけど」、って言ったら、マリアさんに笑われてしまった。

「キャスリーン様、そのような事は私にお任せください」

「だって悔しいじゃないですか。覚えていても現場では役に立たないなんて」

「王都育ちの貴族のお嬢様が、そのような事に詳しいとは思えませんけれど?」

「それはそうですけれど」

街道には時々キュレイトークという広葉樹の大木が現れる。このキュレイトークにはドングリが生るんだけど、このドングリが大きいの。5センチ以上ある。そして食用だ。加熱するとクルミのような味がする。パンに練り込んだりすると、美味しい。ファレンノーザ家の侍女はパスタソースに使っていた。

街道を進むこと3日目、馬車列に目を付けたらしい盗賊団に襲われた。護衛達とファレンノーザ公爵までもが盗賊相手に戦う中、私はやっぱり守られていた。何も出来ない自分が情けないし悔しい。せめて何か手助けをと締め切られた馬車の中で祈っていたら、外からの声が一瞬止んだ。その後、盗賊達であろうダミ声で、何かを喚いている声が聞こえた。

「フェルナー嬢は植物魔法も持っていたのか?」

盗賊の引き渡しの為に休憩していると、ファレンノーザ公爵に聞かれた。

「はい。どうかされましたか?」

「あの盗賊達を一纏めにしている蔦はあなただろう?」

ツルバラやドリチョスやアイビーに絡め取られた盗賊達を指差して、ファレンノーザ公爵が私に言う。

「はい。たぶんとしか言えませんが」

「この真冬に花を咲かせるとは。香りも良いが、盗賊共が妙に大人しいのは何故だ?」

「おそらくカラバシュのクルルビタシンによる、中毒だと思われます」

「クルルビタシン?」

「カラバシュの苦味成分です。摂取すると唇のしびれや吐き気、嘔吐などを引き起こします」

「フェルナー嬢は狙ってやったのか?」

「狙って生やせるほど精度は高くありません。たまたまだと思います」

それに、私は馬車の中で手助けがしたいと祈っていただけだ。

「そうか」

ファレンノーザ公爵はそれ以上追求してこなかった。

盗賊の襲撃というアクシデントはあったものの、それ以外は比較的順調に進んだ旅は、4日目にミザリア領都に入った。ミザリア領都は活気が無かった。それに治安も悪いようだ。

「聞きしに勝るだな」

「僕達が出た時よりも、確実にすさんでます」

どこかで破壊音と悲鳴が聞こえた。だけど誰も動かない。動けないと言った方がいい。さっきの破壊音と悲鳴は比較的近かったけど、遠くの方でも悲鳴が聞こえている。私達だけじゃなくて、街の人達も出てこないようだ。

「さっさと城に行こう。光の聖女様をこんな場所に留めておけない」

ファレンノーザ公爵が言って、馬車は領城に向かった。

城門で止められた。ファレンノーザ公爵が自分の身分を明らかにすると、入城許可が出たけど、馬車の中の私達も念入りに調べられた。

「フェルナー侯爵様のご令嬢ですか?」

「はい。キャスリーン・フェルナーと申します」

ペンダントの紋章を見せたんだけど、紋章が分かる人じゃなかったらしく、しばらく待たされた。

「早くせよ。フェルナー嬢が病気になってもいいのか!?」

ファレンノーザ公爵が声を荒げる。ついでとばかりにマントを羽織らせてくれた。

「いけません、ファレンノーザ公爵閣下。閣下がお風邪をひいてしまわれます」

「なに。鍛えておるからな。フェルナー嬢こそこのように華奢では、風邪をひく。子供は黙って大人に守られよ」

「……ありがとうございます」

言動は本っ当に大人なイケオジ様なのよ。でもなんだろう?素直に信用出来ないっていうか、うーん。

しばらくバタバタしていたけど、ようやく城門を潜る事が出来た。ハロルドさんも見咎められずに、城内に入った。

城内に入ってすぐの玄関ホールに、3人の男性が立っていた。

「クリスティアンはどうした?」

「父は起き上がれる状態ではありません」

「では今は誰がミザリア領を取り仕切っておる?答えよ」

「「「私です」」」

3人が口々に言った。それぞれが主張しあってる感じかな?

「ラーフェニックは?どこだ?」

「叔父は……」

「どうした?答えよ」

「仮病で籠っています」

1番若い男性が、キッと顔を上げて言った。そんな訳がないよね?






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