3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 6学年生

冬季休暇と賓客

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 ローレンス様とアヴァレーツィオの関係は、単なるライバルじゃないと思う。ローレンス様はアヴァレーツィオと首席を争っていたと言ったけれど、アヴァレーツィオからの話は聞けていない。聞く気もないけど。だって、顔を合わせる機会もないし、私はローレンス様の婚約者だもの。

 

 冬季休暇に入って6日目。フェルナー家我が家は賓客をお迎えした。ゴーヴィリス国のフロレシア姫様だ。

 第3王子であられるスティーヴン殿下が婿入りする前に、スタヴィリス国との友好関係を強固な物にしようと、フロレシア姫様が友好大使として、スタヴィリス国に来国されたのだ。私がゴーヴィリス国に行った時は、緊急だったのもあって転送部屋を使わせてもらったけれど、今回のフロレシア姫様は普通に陸路で馬車に乗っての訪問だ。ゴーヴィリス国からスタヴィリス国までは、馬車で1ヶ月ほどかかる。来国の知らせを聞いて、フロレシア姫様の体調を心配したけれど、御殿医の娘さんが侍医として同行されると、フロレシア姫様からの手紙に書いてあった。

 侍医である娘さんとは面識はないけれど、御殿医から非常に優秀だと聞かされていた。多少親バカの娘贔屓が入っているとしても、姫様や侍女達からも評判が良かったし、優秀なのは間違っていないと思う。

 冬季休暇の2日目に王宮入りしたフロレシア姫様は、スティーヴン殿下と仲睦まじく過ごされていると、お義父様が教えてくれた。その際にフロレシア姫様が私に会いたいと言っていると聞かされた。

 私が王宮に行く事も案の中にあったんだけど、今回はフロレシア姫様のたっての願いでフェルナー家我が家にお越しいただく事になった。

「キャスリーン、久しぶり」

 玄関でお出迎えして、賓客用のサロンに通した姫様は、私に笑顔で話しかけられた。私の挨拶の途中で。

「姫様、ご息女のご挨拶を遮ってはいけません」

「えぇぇ、良いじゃない。キャスリーンはわたくしの恩人で友人よ?堅苦しい挨拶なんて要らないわ」

 同行した侍女頭が窘めたけど、姫様はどこ吹く風だ。気にしていない。

「それでもご挨拶はさせてくださいませ。礼儀でございますので」

 私の言葉に少し残念そうにしながらも、姫様は挨拶を受けてくれた。

「紹介するわ。彼女がわたくしの侍医であるヴィヴィアンよ」

「よろしくお願い致します、光の聖女様」

「うふふ。ダメよヴィヴィアン。ここに居るのはキャスリーン・フェルナーというひとりの令嬢なの。光の聖女様じゃないわ」

「父からは光の聖女様が、姫様を診察されたと聞いたのですが?」

「立場上はね。でもまだ任命されていないからと、光の聖女を名乗る事はないのよね?」

「はい。わたくしは光魔法使いとしても医師としてもまだまだ勉強中でございます。特に医師は資格も取得しておりません。ゴーヴィリス国で姫様を診察させていただけたのも、わたくしの師の同行と、わたくしのような小娘を信用して任せ、意見を聞き入れてくださった御殿医様のご厚情によるものでございます」

「え?父は光の聖女様の指示でって……。あぁ、そういう事?」

「御殿医様のお心遣いでございましょう」

 ニコリと微笑むと、ヴィヴィアンと呼ばれた侍医は戸惑ったように姫様を見た。

「キャスリーンを普通の14歳と思っちゃダメよ?ヴィヴィアン。キャスリーンは『テンセイシャ』だからというのもあるけど、いろんな事を知っているの」

わたくしの前世知識がお役に立てれば、幸いです」

「私達が知らない知識があると?」

「そうですわね。ただ、わたくしもこの世界の医学に詳しくはございません。ですから今学んでいるのです」

「姫様のご病状については?」

「男性には少々厳しかったのではないかと。女性でも察せられない方がいらっしゃったと思いましたので」

「女性でも?」

「女性特有の症状でも、知識が無いと症状に軽重があると知らないと、どうしても自分を基準に考えてしまいます。苦しんでいる方がいても『そんな大袈裟な』や『同じ症状を自分は我慢しているのに』など考えてしまうんです」

「分かります。私も理解されなくて……。キャスリーン様も?」

わたくしは今世ではまだですわ」

「キャスリーン、大丈夫なの?」

「こればかりは焦っても仕方がございませんから」

 私はもうすぐ15歳。初経は一般的に10歳から15歳といわれていた。個人差が大きくて遅ければ16歳以降という人もいた。早ければ8歳なんて人もいたのよね。

 焦っても仕方がないなんて余裕ぶっているけれど、実際は焦っている。顔には出ていないと信じたい。

 ヴィヴィアン医師とばかり話しているわけにはいかないけど、ヴィヴィアン医師と話すのは勉強になる。フロレシア姫様も特に自分の事は話さないし、自然と医学系の話になってしまった。フロレシア姫様の今回の訪問の目的は、ヴィヴィアン医師と私の顔合わせもあったんだと思う。始終ニコニコしていたもの。

 フロレシア姫様の今の症状も聞いたけど、御殿医とヴィヴィアン医師の治療が上手くいっているようで、私が訪れた時のような症状は落ち着いているらしい。当時は『誰も分かってくれない』という気持ちが強かったらしく、私が光魔法を使った事によって、その気持ちが少し晴れたんだとか。それによって少しだけ周りを見る余裕が出来て、心配している人が居てくれる事に気が付いたと言っていた。

「キャスリーンには本当に感謝しているの。光魔法使いはゴーヴィリス国にも居るし、治療も受けたわ。でも、どう言ったらいいのかしらね?キャスリーンの光魔法って優しくて温かかったの。こういう言い方はいけないのかもしれないけどね。治療に携わってくれた光魔法使い達に失礼よね」

「本人に面と向かって言わなければいいのでは?」

「私もそう思います」

 会話に参加していない侍女頭も小さく頷いていた。

 このサロンには今は私達だけだ。通常はこんな事はあり得ない。フロレシア姫様という賓客を迎えるのに、その館のあるじや女主人が同席していないのは、異例中の異例だ。フロレシア姫様の意向でこうなったわけだけど、お義父様とお義母様が私を信頼してくれているというのも大きい。

 護衛はドアの外だし、今はダニエル様も外にいる。マリアさんはメイドの格好で、今はサロンの準備室にいる。

 フェルナー侯爵家我が家のメイド服は、全員統一されている。小さい頃に私がヤラかしちゃった結果だ。マダムリュシュランが張り切っちゃったのよね。濃紺の無地のロングワンピースに、白いピナフォア、白いモブキャップ。白いカラーとカフス。お義父様はお義母様のおねだりに少しだけ渋った後、許可を出していた。

 今の時代のメイドの服装は、午前中はプリント柄のワンピースにピナフォアを付けて、モブキャップを被っている。午後から黒いワンピースに着替えていた。小さい頃、それが不思議だったのよ。私には服飾に関する専門的な知識もなかったし。

 お義母様に言ったら笑われて、でも良いアイデアだとマダムリュシュランに話してくれて、そこからはトントン拍子だった。

 侍女服は今まで通り。侍女とメイドは違うしね。ちなみにサーバント男性使用人は開襟シャツにスラックス。侍従は色味が違うだけ。

「姫様、そろそろ……」

 ドアの外から声をかけられた。時間のようだ。

「名残惜しいわね。キャスリーン、ゴーヴィリス国にも遊びに来てね。歓迎するわ」

「機会がありましたら」

 今の時代、簡単には旅行なんて出来ない。ましてや国外に出るとなると手続きも煩雑になる。

「じゃあね」

「またお会い出来る日を楽しみにしております」

 フロレシア姫様は始終笑顔で帰っていかれた。



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