3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 6学年生

武術魔法披露会 ④

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「行くぞ。しっかり掴まってろ」

 短く言ったダニエル様が、私を抱き上げた。同時に走り出す。ダンっと音がしたと思ったら、私は空中にいた。一瞬の浮遊感。

「きゃあっ」

 思わずダニエル様にしがみつく。

 1秒に満たない落下の後、まったく衝撃を感じさせずに、私は試合場にいた。

「お嬢ちゃん、手当てを」

「光の聖女様、お願いします」

 ダニエル様の腕から降ろされて、直後は状況が把握出来なかった。

「お嬢ちゃんっ」

 ダニエル様の声に、慌ててお義兄様と試合相手に駆け寄る。サミュエル先生も走ってきた。

「キャシーちゃんはフェルナー君を」

「はいっ」

 倒れたお義兄様に近付いて、怪我の状況を確かめる。腕の大きな裂傷に、あちこち破れた武術着に滲む血液。腕を持ち上げた痛みからか、お義兄様が目を開けた。

「キャシー?」

「お義兄様、今、治しますから」

「腕だけで、良い。あいつの、手当てを、頼む」

「お相手様は、サミュエル先生が対応してくださっています」

「そうか」

 再び目を閉じてしまったお義兄様の手を取って、治癒を発動する。同時に浄化を使って傷口を治した。

「少し休ませた方がいいね」

「分かりました。少し休憩の時間を取ります」

 サミュエル先生が審判に言って、休憩時間が取られた。

 係員が担架で、お義兄様とお相手を救護室へ運ぶ。当然私も付いていった。

「ダニエル、良い判断だったけど、目立ちすぎだよ。キャシーちゃんを必要以上に目立たせるんじゃない」

 サミュエル先生がダニエル様に注意をする。

「あれが1番早かったんっすよ」

「分かってるけどね。ウィル爺の説教は避けられないよ?」

「うへぇ」

 ウィル爺って誰だろう?

 ベッドに寝かされたお義兄様達は疲労の極致なのか、ぐったりとしている。

「お義兄様、大丈夫ですか?」

「大丈夫だけど、疲れた。でも、スゴく満足してる」

「こちらも同じく。またやりあおう」

「今度はお怪我の無いようにお願いいたしますわ」

 そこでお相手が、私の存在に気が付いたらしい。

「は?え?光の聖女様?」

「義妹なんだから、居ても当然だろ?」

「あ、あぁ、そうか。似てないからつい忘れるんだよ。まさに美女と野獣だな」

「うるさい」

 お義兄様が腹筋だけで起き上がった。お相手も同じく起き上がる。

「大丈夫なのですか?」

「十分休んだ。ありがとうな」

「お役に立てたのなら幸いです」

「キャシーは十分役に立ってるよ」

 ワシワシっと乱暴に頭を撫でられる。

「もぅっ、お義兄様、髪が乱れてしまいますわ」

「わるいわるい」

 ちっとも悪いと思ってない口調で一応謝ったお義兄様は、お相手と一緒に出ていった。仲良く話をしながら肩を叩いたりしている。

 表彰式が始まった。今年はポディアム表彰台が用意され、記念として武術着が贈られた。

 男性部門、女性部門、魔法部門と表彰が続く。ちなみに魔法部門の記念品は魔法使い風の丈の長いローブ。

「ダニエル様、先程はありがとうございました」

「お礼を言われるような事、したっけ?」

わたくしの正気を取り戻してくださいましたでしょう?」

「あれは……。ビックリしたんだろうなって思ったし、原因はオレだって分かってたし……」

 モゴモゴと言うダニエル様に、改めてお礼を言う。

「ありがとうございました。ダニエル様のおかげで、迅速に治療に当たれました」

「キャスリーン様、お礼なんてダニエルには無用ですよ。サミュエル様にも叱られていましたしね」

 マリアさんが笑いながら言う。

「何かをしていただいたら、お礼を言うのは当然ですわ。マリアさんもサミュエル先生を呼んできていただいて、ありがとうございました」

「私はダニエルの指示に従っただけですよ」

「しかし、あの2人……。まぁ、いいか。両方貴族なんだし」

「ダニエル、何か?」

「あの程度で倒れてちゃ、実戦では役に立たないって思っただけ。貴族子息にしちゃよくやれてるけど」

「実戦って、お義兄様が出るような、現場は無いと思いますわよ?」

「フェルナー領は平和だからな」

「お義父様もお忙しい宰相職の合間を縫って、領地視察に行かれておりますし、代官であられるネイト・ウィルビー様も優秀な方ですもの」

「フェルナー領は平和なんだが、ハナアイム領では盗賊団に悩まされているらしい」

「お隣ですか?」

「たしか領を越えての討伐は、出来ないんだったよな?」

「はい。領地法で決められているようです」

 貴族法には領地法という項目があって、越領しての武力行使(討伐や駆除等)は禁じられている。もちろんその領から助けを求められれば別だ。敵対していなければ助けに応じても瑕疵にはならないし、その辺りは助力を求められた領主次第だ。

 私も領地法は詳しく学んでいないから、確実にとは言えないけれど、領地経営を学ぶ人には、この辺りは必須らしい。

 表彰式が終わって、お義兄様とアンバー様がやって来た。

「お義兄様、アンバー様、優勝、おめでとうございます」

「ありがとう。最後は倒れちゃったけどな」

「ここまで戦ってこられましたから、当然では?最後の打ち合いは大変迫力がございましたもの」

「キャシーは2階席から飛び降りたんだって?」

わたくしではございません。ダニエル様ですわ」

「そのおかげで早く癒してもらえたんだけどな。アンバーがビックリしたと言っていたぞ」

わたくしもビックリいたしましたわ」

「あの方法が1番早かったんだって。ランベルトは結構出血してたし」

「だからってな、飛び降りりゃ目立つだろう?」

「それは悪かったって」

 ランベルトお義兄様とダニエル様って、仲が良いのよね。年齢も同じ位?よく分からないけど。

 私に付けられている護衛は、総じて若い。ダニエル様もマリアさんも、シェーン様だって若かった。ランベルトお義兄様と同じ位か、少し上位だと思う。ローレンス様位かしら?

「キャスリーン様、なにかお気がかりでも?」

「ダニエル様とマリアさんって何歳なのかな?って思ってしまいましたの」

「オレは18歳だよ。マリアは21歳」

「え?」

「庶民には年齢は関係無いねぇから。能力次第だからな」

「シェーンはいくつだったんだ?」

「今は19歳かな?オレより1歳上だから」

「そうね」

「兄貴より下か」

「そうなるな。実力はあるぞ?」

「それは知ってる」

 武術魔法披露会が終わって、寮に帰る。お義兄様とアンバー様はまだ何か用事があるようで、武術場で別れた。

「キャスリーン様!!」

 寮の部屋に入る直前、私を見付けたらしいガブリエラ様に呼び止められた。

「キャスリーン様、あの飛び降りは何ですの?キャスリーン様は目立ちたくないのではなかったのですか?」

「目立ちたくはございませんよ。あれは不可抗力というか……」

「キャスリーン様が望んだ事では無いのですか?」

「望んでおりません。ダニエル様は腕の出血を見て判断されたらしいです」

「あのようなお怪我に動揺もされないキャスリーン様を、尊敬してしまいますわ」

「飛び降りた直後はわたくしも呆然自失でしたわよ。何が起きたか分からなくて」

「でも、あのお怪我、不思議ですわね。だって使われたのは切れない剣なのでしょう?」

「あれは刃の部分の当たりが強すぎて、皮膚が破れちゃったからだそうです。出血は酷かったですけど切れてなかったのですわ」

「そんな事もありますのね」

実際に裂傷下の筋挫傷きんざしょうの方が酷かったもの。アドレナリンが出ていたとはいえ、お義兄様達はよくあの傷で動けたと思う。









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