3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 6学年生

新学期

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 夏期休暇の残りの日は、救民院に行って過ごした。幸い重症は患者はおらず、ララ様や元貴族の神官見習い達と作業したり、ミリアディス様のお手伝いで日々を過ごした。

 学院再開に向け、寮に帰って友人と顔を合わせ、夏期休暇中の事を話した。私が『光の聖女』としてゴーヴィリス国に行った事は貴族間で公然の秘密だったらしく、詳しい事情を知らない人達に質問攻めにはされたけど、特に問題なく新学期を迎えた。

 医師資格取得の為の特別講座の、第2回執刀科見学の募集が始まった。今回は前回参加しなかった生徒も、特別な理由がない限り参加しなければならない。向き不向きもあるから見学して「やっぱり無理、絶対に嫌」って医師志望者もいる。それを見極める目的もあるらしい。前回リタイアしちゃった女性生徒とかね。彼女達は病科一本で行くコースにすでに移っている。どちらでもオッケーな人とは講座内容にそこまで違いはないんだけど、実技は習わないらしい。切り方とか縫い方って事ね。

「キャスリーン様、どうしても参加しなければなりませんのよね?」

 半泣きになってしまったリリス様に相談された。

「そうですわね。向き不向きを自覚する為でもありますから。どうしても駄目なら見学中にリタイアも出来ますわよ?」

「キャスリーン様はどうして平気ですの?」

「私兵達の訓練を見たりしておりましたから。最初は生傷が絶えませんから、それで慣れたのもあるかもしれません」

「怖いですわ」

 執刀科見学の最大のネックは、見た目と臭いだと思う。見た目は言わずもがなだけど、前回、血の臭いに顔をしかめる人も何人も居たもの。慣れれば良いと言う人も居るけど、そうそう慣れるものでもないと思う。

 まぁ、見た目の酷さと臭いに怖じ気づく人は結構いるし、こればかりは解決策が思い付かないのよね。

「そういえば、病科の見学はございませんのね」

「そうですわね。聞いてみましょうか」

 私にとって1番話しやすいのはサミュエル先生だけど、リリス様はシェアラー先生が1番話しやすいらしく、2人でシェアラー先生の元に向かった。

「先生、病科の見学はございませんの?」

「あぁ、病科はね。希望者があれば見学出来るようになっている。見学したいのかい?」

「はい」

 病科は内科とほとんど同じで、個人的には人の話を聞く能力と、確かな知識が必要だと思っている。正しい症状が聞き取れなければ、正しい診断がくだせない。それから薬師との連携も大切だ。元病科医の薬師も多いらしいし、正しい知識って本当に大切だと思う。

「分かったよ。他に希望者が居ないか確認してからになるから、少し時間はかかるけど、決まったら連絡するね」

「よろしくお願いいたします」

 リリス様と席へ戻って話をしていると、何人かが話を聞きに来た。病科見学の話が聞こえていたらしく、是非とも見学したいと私達に言いに来た為、シェアラー先生に申し込むように言った。

 シェアラー先生から私を含めた8人に集合が掛かったのは、それからわずか8日後だった。8人は全員中等部。6学年生3人と7学年生2人と8学年生1人と9学年生2人。

「シェアラー先生、まいりました」

「ごめんね、集まってもらって。ここに居る8人は病科見学を希望していたね?」

「はい」

「見学の日が決まったよ」

「いつですか?」

「5日後の休息日。その病科医院は休息日にも開院していてね。休むのは次の日なんだ。ただ、小さい医院だから見学は2回に分けてほしいと、申し入れがあった」

「2班に分かれるとなると……」

「話し合って決めてくれるかい?」

 生徒だけで話し合った結果、7学年生が別々の日で良いと分かれてくれた。最初は8学年生と9学年生と7学年生の1人が見学に行き、次回に残りの私達という事も決めた。

 シェアラー先生に報告に行く。

「決まったかい?」

「はい。まずは上の学年の我々が行きます。その次に下の学年の4人となります。こちらが見学者名簿です」

「ありがとう。それじゃ見学する医院について説明するね。見学する病科院はウィルム医院」

「ウィルム医院って、フェルム伯爵様の?」

 8学年生の先輩が言う。

「知っているのかい?」

「はい。小さい頃にお世話になりました」

「彼も今じゃ平民だからね。話をしたら未来の医師の手助けがしたいと、協力を申し出てくれた」

「先生らしいです」

「持ち物は執刀科の時と同じ。紙はこちらで用意するから携帯ペンだけ忘れないように。後は動きやすい格好を心掛ける事」

「「「はい」」」

 私達6学年生は次回の見学の為、急いで準備する事はない。いつも通り過ごして先輩達の病科見学を見送った。

「キャスリーン様は、病科を見学なされた事があるんですのよね?」

「えぇ。夏期休暇中に、領地の方で」

「羨ましいですわ。何をお感じになりました?」

「連携の大切さを。見学したのはグゥエラ病院という、病科と執刀科がある病院なのですけれど、病科と執刀科では細かな点が違うと思いましたわ」

「細かな点ですか?」

「病科は最初から薬師様が一緒に話を聞いている場合もございましたの。院長様が仰るには、新しく雇用した者だけだそうですけれど、薬師様のアドバイスも受けておられましたわ。たいていは最初に病科が診察して、執刀科に回すのだそうですわ。そうする事で患者にとって1番良い道を探るのだと。もちろん最初から執刀科にという患者もおりますけれど」

「いろいろございますのね」

「今のお話はグゥエラ病院のお話ですからね。他の病院はどうなっているか分かりませんけれど」

「でも参考になりましたわ」

 今回の見学のウィルム医院は病科のみと聞いた。だからグゥエラ病院とはかなり違うと思う。

 先輩達が帰ってきたのはその日の夕食直前だった。夕食の直前だったからすぐには何も聞けなくて、ソワソワしながら夕食後の自由時間を待った。

「先輩、お話を聞かせてくださいませ」

 私とリリス様が話しかけると、先輩が笑いながら今日の内容を話してくれた。

 ウィルム医院には薬師様も待っておられたそうだ。薬師様が説明を請け負ってくれ、ルイス・フェルム医師も診察の合間に説明してくれ、多くの学びが得られたと話してくれた。

「それでね、簡単な問題を出していただいて、それを解かせていただけたの」

「少し前の医師資格取得試験の問題だそうよ」

「解かせていただけたのですか?」

「えぇ。医師ならば手に入れられるのですって。ルイス医師はご自分の復習手段として、手に入れていると仰っておられたわ」

「熱心な方なのですね」

「えぇ。わたくしはあの方のような医師になりたいと、強く思いましたもの」

 先輩は目をキラキラさせていた。元々執刀科は向いていないと感じていたそうだ。執刀科見学は耐えられたし、いざとなれば執刀科のような応急措置もするけれど、積極的にしたいと思わないそうだ。

 私もその辺りは同じだと思う。私は光魔法使いだから、外傷の治療も多い。でも執刀科専門となると無理だと思う。動揺はしないけど、やっぱりね。痛そうだし見ているのが辛くなっちゃう。お仕事だと割りきれば平気なんだけど。

 先輩方の病科見学は、特に変わった事もなく終わったそうだ。急患として運び込まれる患者も居るみたいだけど、先輩方の見学日にはなかったらしい。

 1週間後、私達の見学日になった。髪を邪魔にならないように纏め、過度にヒラヒラしないワンピースで、馬車に乗る。

 馬車の中でメモ用の紙とアンケートかな?が配られた。

「その質問用紙は見学後のレポート提出と一緒に出してくれるかな?」








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