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学院中等部 6学年生
フロレシア姫様 ①
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「フロレシア姫様、キャスリーン・フェルナーと申します。お目通りが叶い、嬉しく存じます」
「嬉しいだなんて思ってもないくせに」
刺々しい言葉が向かってきて、奥のベッドの上でムクリと塊が動いた。
日の光を溶かしたような乱れた金髪に少し暗めの赤目。
「フロレシア姫様?」
「アタクシじゃなきゃ、誰が居るってのよ」
「そうですわよね。失礼いたしました」
「光の聖女かどうか知らないけれど……、え?」
姫様の言葉が止まった。たぶんこんなに小さい子供だと思ってなかったんだろうな。
「光の聖女様って、貴女?」
「はい。まだ任命はされておりませんが」
「それなのに名乗って良いの?」
「自分から名乗った事はございません」
「そう……」
「お側に寄らせていただいても?」
「えぇ、許可するわ」
大きなベッドの近くの椅子に座る。
あ、血の匂いがする。
「姫様、月の物の最中では?」
「よく分かるわね」
「少し血の匂いがいたします」
「今朝からよ。いつもの頭痛は少し治まったんだけど、腹痛が、というか、腰が重いっていうか」
生理痛は苦しいですよね。今はまだ始まっていないけど、前世では苦しめられた。「たかが生理痛」という人もいるし。
「姫様、いつもの頭痛は月の物の2週間前位から始まるのでは?」
「よく分かったわね。そうよ」
「おそらく月経前症候群だと思われます。その後続くのが月経痛、さらにその後月経後症候群が発症していると思われます」
「え?」
「月の半数以上、このような症状に苦しまれておられたのですね」
「分かってもらえる?」
「えぇ」
「貴女も同じなの?」
「いいえ。私はまだ、初経を迎えておりません。ですが……」
「なによ、それなら分かるわけ無いじゃない」
「前世では苦しめられましたから」
「は?ゼンセ?」
「スタヴィリス国では知られている事なのですが、私には前世の記憶がございます」
「聞いた事があるわ。たまに自分の生きてきた生と別の記憶がある人がいるって。貴女がそうなの?」
「はい。姫様、今は下腹部の痛みと頭痛ですか?」
「えぇ、あ、痛たたた」
「痛みの軽減をはかってもよろしいですか?」
「お願いするわ」
「では、お手を」
スッと出された手はガサガサしていた。栄養状態が悪いと一目で分かってしまった。
手を取って治癒を行う。月経痛には根本的な治療にはならないけれど、少しでも姫様に心穏やかに過ごしてほしい。
「楽になってきたわ」
「姫様、お食事は摂っておられますか?」
「食欲が無いのよ。お肉は見たくないし、お魚は臭いし、ほらあれって骨があるでしょう?食べたくないのよね」
「お野菜は?」
「味が無いじゃない」
「では果物とか」
「好きじゃない果物の方が多いわね。なんだか酸っぱかったりするじゃない」
痛みが治まっているからか、明るく饒舌になっている姫様だけど、私は少しも笑えない。偏食に好き嫌いが重なっちゃってる気がする。
偏食と好き嫌いは別物だ。偏食は特定の食品を全く口にしようとしない、もしくは特定の食品しか食べないという特徴があるけれど、 好き嫌いは、何度か口にしたり成長に伴い本人の味覚に変化がうまれる事で、味や食感などに慣れて食べられるようになる事が多い。食べられない場合もあるけどね。それに好んで口にする訳じゃない。好きではないけれど食べられるようになる、というだけだ。
「光の聖女様?」
「どうか名でお呼びください」
「キャスリーン?」
「はい」
「どうかしたの?」
「いえ、手強いな、と思いまして」
私のブレシングアクアを飲み続ければ、あるいは改善するかもしれない。でも、それじゃ根本的な解決にならないんだよね。
「やっぱりお肉もお野菜も、食べた方がいいのよね?」
「はい。症状も少しは軽くなるかもしれません。少なくともお肉とお野菜を食べれば、肌荒れは改善いたしますでしょう」
「食べる気がしないのよ」
「食欲が無いのですわよね?」
「うん。お腹がすいたらお菓子を食べれば良いんだし」
「どのような?」
「多いのはクッキーね。それからお酒を使ったケーキ。クリームたっぷりのケーキも美味しいわよね」
「美味しいですけど、どれも食べ過ぎには注意する必要がございますわね」
「そうなの?」
「姫様、答えにくいでしょうが、お答えいただけますか?もしや便通が少なかったりしませんか?」
「その通りよ。何でも分かるのね」
圧倒的に繊維質が不足してますからね。繊維質だけじゃない。ビタミンもなにもかも、栄養素が足りてない。脂質と糖分は満たされているどころか過剰摂取しているけれど。
食生活の改善かぁ。私だけじゃどうにもならないなぁ。どうしよう。
「姫様、しばらくは頭痛や腹痛は治まるでしょうけれど、永続的ではございません」
「治ったんじゃないの?」
「病名は後でお伝えいたしますが、まずは食生活の改善が急務です。スタヴィリス国のスティーヴン殿下が、心配されておられましたよ」
「スティーヴン様が?」
ポッと赤く頬を染めている様子から、関係は良好なようだ。
「侍女長様をお呼びしてもよろしいですか?」
「えぇ。お部屋も片付けなきゃね」
侍女長を呼ぶと、おっかなびっくり入ってきた。
「姫様」
ベッドに起き上がって普通に話をしているフロレシア姫様を見て、笑顔で駆け寄ってきた。実際には走ってないけどね。駆け寄るという表現がぴったりだ。
「お身体の具合はおよろしいのですか?」
「えぇ。キャスリーンに治してもらったわ」
「根本的な治療にはなっておりませんよ。あくまでも今は症状を抑えただけです」
「抑えただけ?」
「お話いたします。お掛けになってください」
侍女長に落ち着いてもらって、最初からフロレシア姫様のご病気についてお話しする。
「姫様のご病気は、月経前症候群だと思われます。その後続くのが月経痛、さらにその後月経後症候群が発症していると思われます」
「月経?」
「月の物ですわ。最初に言ったのが月の物の2週間前位から始まり、治まった間もなく月の物に伴う不調が始まり、月の物が終わったらさらに気分の落ち込みやイラつき、頭痛や腹痛が始まっている状態です。月の半分どころか大半は不調に悩まされておられると。さらにそれに拍車を掛けているのが、姫様の偏食と好き嫌いです」
「偏食と好き嫌い」
「栄養失調といいます。必要な栄養素が全く足りておりません。お菓子類から脂質と糖分は、過剰摂取しておられるようですが」
「どうすれば?」
「1番良いのはお肉もお野菜も食べる事なのですが、無理に食べさせると、食事そのものを拒否する事に繋がりかねません。まずは姫様の食べられる物を探す事からですね」
ブレシングアクアの事は今は言わない。サミュエル先生に相談しないとね。
「姫様、お食事が摂れなくなったのは、いつからですか?」
「4年位前、だったわよね?」
「さようでございます」
「そのきっかけは覚えておられますか?」
「……笑わない?」
「もちろんです」
「あのね。お友達とピクニックに行ったの。その時にね、太ったって言われたの」
「どなたにですか?姫様にそんな無礼な事を」
「落ち着いてくださいませ。今はそれは重要ではございません」
私の言葉に、侍女長が黙る。怒りは収まっていなさそうだけど。
「でね、確かに少し気にはなっていたの。だから少し食事を控えめにしたんだけど痩せなくて」
「さらに食事を減らしていったんですか?」
「えぇ。そうしたらもともと嫌いだった物が、食べられなくなっちゃって」
ますます食べなくなって、負のループに陥っちゃったと。
「まず姫様、姫様は太ってなどおられません」
摂食障害までいっちゃってる感じだけど。
「え?でも……」
「私の目には、とてもお美しいお方と写っております。少し栄養状態がお悪いようですが、そこは改善出来ます」
「嬉しいだなんて思ってもないくせに」
刺々しい言葉が向かってきて、奥のベッドの上でムクリと塊が動いた。
日の光を溶かしたような乱れた金髪に少し暗めの赤目。
「フロレシア姫様?」
「アタクシじゃなきゃ、誰が居るってのよ」
「そうですわよね。失礼いたしました」
「光の聖女かどうか知らないけれど……、え?」
姫様の言葉が止まった。たぶんこんなに小さい子供だと思ってなかったんだろうな。
「光の聖女様って、貴女?」
「はい。まだ任命はされておりませんが」
「それなのに名乗って良いの?」
「自分から名乗った事はございません」
「そう……」
「お側に寄らせていただいても?」
「えぇ、許可するわ」
大きなベッドの近くの椅子に座る。
あ、血の匂いがする。
「姫様、月の物の最中では?」
「よく分かるわね」
「少し血の匂いがいたします」
「今朝からよ。いつもの頭痛は少し治まったんだけど、腹痛が、というか、腰が重いっていうか」
生理痛は苦しいですよね。今はまだ始まっていないけど、前世では苦しめられた。「たかが生理痛」という人もいるし。
「姫様、いつもの頭痛は月の物の2週間前位から始まるのでは?」
「よく分かったわね。そうよ」
「おそらく月経前症候群だと思われます。その後続くのが月経痛、さらにその後月経後症候群が発症していると思われます」
「え?」
「月の半数以上、このような症状に苦しまれておられたのですね」
「分かってもらえる?」
「えぇ」
「貴女も同じなの?」
「いいえ。私はまだ、初経を迎えておりません。ですが……」
「なによ、それなら分かるわけ無いじゃない」
「前世では苦しめられましたから」
「は?ゼンセ?」
「スタヴィリス国では知られている事なのですが、私には前世の記憶がございます」
「聞いた事があるわ。たまに自分の生きてきた生と別の記憶がある人がいるって。貴女がそうなの?」
「はい。姫様、今は下腹部の痛みと頭痛ですか?」
「えぇ、あ、痛たたた」
「痛みの軽減をはかってもよろしいですか?」
「お願いするわ」
「では、お手を」
スッと出された手はガサガサしていた。栄養状態が悪いと一目で分かってしまった。
手を取って治癒を行う。月経痛には根本的な治療にはならないけれど、少しでも姫様に心穏やかに過ごしてほしい。
「楽になってきたわ」
「姫様、お食事は摂っておられますか?」
「食欲が無いのよ。お肉は見たくないし、お魚は臭いし、ほらあれって骨があるでしょう?食べたくないのよね」
「お野菜は?」
「味が無いじゃない」
「では果物とか」
「好きじゃない果物の方が多いわね。なんだか酸っぱかったりするじゃない」
痛みが治まっているからか、明るく饒舌になっている姫様だけど、私は少しも笑えない。偏食に好き嫌いが重なっちゃってる気がする。
偏食と好き嫌いは別物だ。偏食は特定の食品を全く口にしようとしない、もしくは特定の食品しか食べないという特徴があるけれど、 好き嫌いは、何度か口にしたり成長に伴い本人の味覚に変化がうまれる事で、味や食感などに慣れて食べられるようになる事が多い。食べられない場合もあるけどね。それに好んで口にする訳じゃない。好きではないけれど食べられるようになる、というだけだ。
「光の聖女様?」
「どうか名でお呼びください」
「キャスリーン?」
「はい」
「どうかしたの?」
「いえ、手強いな、と思いまして」
私のブレシングアクアを飲み続ければ、あるいは改善するかもしれない。でも、それじゃ根本的な解決にならないんだよね。
「やっぱりお肉もお野菜も、食べた方がいいのよね?」
「はい。症状も少しは軽くなるかもしれません。少なくともお肉とお野菜を食べれば、肌荒れは改善いたしますでしょう」
「食べる気がしないのよ」
「食欲が無いのですわよね?」
「うん。お腹がすいたらお菓子を食べれば良いんだし」
「どのような?」
「多いのはクッキーね。それからお酒を使ったケーキ。クリームたっぷりのケーキも美味しいわよね」
「美味しいですけど、どれも食べ過ぎには注意する必要がございますわね」
「そうなの?」
「姫様、答えにくいでしょうが、お答えいただけますか?もしや便通が少なかったりしませんか?」
「その通りよ。何でも分かるのね」
圧倒的に繊維質が不足してますからね。繊維質だけじゃない。ビタミンもなにもかも、栄養素が足りてない。脂質と糖分は満たされているどころか過剰摂取しているけれど。
食生活の改善かぁ。私だけじゃどうにもならないなぁ。どうしよう。
「姫様、しばらくは頭痛や腹痛は治まるでしょうけれど、永続的ではございません」
「治ったんじゃないの?」
「病名は後でお伝えいたしますが、まずは食生活の改善が急務です。スタヴィリス国のスティーヴン殿下が、心配されておられましたよ」
「スティーヴン様が?」
ポッと赤く頬を染めている様子から、関係は良好なようだ。
「侍女長様をお呼びしてもよろしいですか?」
「えぇ。お部屋も片付けなきゃね」
侍女長を呼ぶと、おっかなびっくり入ってきた。
「姫様」
ベッドに起き上がって普通に話をしているフロレシア姫様を見て、笑顔で駆け寄ってきた。実際には走ってないけどね。駆け寄るという表現がぴったりだ。
「お身体の具合はおよろしいのですか?」
「えぇ。キャスリーンに治してもらったわ」
「根本的な治療にはなっておりませんよ。あくまでも今は症状を抑えただけです」
「抑えただけ?」
「お話いたします。お掛けになってください」
侍女長に落ち着いてもらって、最初からフロレシア姫様のご病気についてお話しする。
「姫様のご病気は、月経前症候群だと思われます。その後続くのが月経痛、さらにその後月経後症候群が発症していると思われます」
「月経?」
「月の物ですわ。最初に言ったのが月の物の2週間前位から始まり、治まった間もなく月の物に伴う不調が始まり、月の物が終わったらさらに気分の落ち込みやイラつき、頭痛や腹痛が始まっている状態です。月の半分どころか大半は不調に悩まされておられると。さらにそれに拍車を掛けているのが、姫様の偏食と好き嫌いです」
「偏食と好き嫌い」
「栄養失調といいます。必要な栄養素が全く足りておりません。お菓子類から脂質と糖分は、過剰摂取しておられるようですが」
「どうすれば?」
「1番良いのはお肉もお野菜も食べる事なのですが、無理に食べさせると、食事そのものを拒否する事に繋がりかねません。まずは姫様の食べられる物を探す事からですね」
ブレシングアクアの事は今は言わない。サミュエル先生に相談しないとね。
「姫様、お食事が摂れなくなったのは、いつからですか?」
「4年位前、だったわよね?」
「さようでございます」
「そのきっかけは覚えておられますか?」
「……笑わない?」
「もちろんです」
「あのね。お友達とピクニックに行ったの。その時にね、太ったって言われたの」
「どなたにですか?姫様にそんな無礼な事を」
「落ち着いてくださいませ。今はそれは重要ではございません」
私の言葉に、侍女長が黙る。怒りは収まっていなさそうだけど。
「でね、確かに少し気にはなっていたの。だから少し食事を控えめにしたんだけど痩せなくて」
「さらに食事を減らしていったんですか?」
「えぇ。そうしたらもともと嫌いだった物が、食べられなくなっちゃって」
ますます食べなくなって、負のループに陥っちゃったと。
「まず姫様、姫様は太ってなどおられません」
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