3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
上 下
190 / 296
学院中等部 6学年生

フェルナー領へ

しおりを挟む
 翌日、母親に連れられて、子供がタウンハウス王都のフェルナー侯爵邸に来てくれた。

「お姉ちゃん」

「ごめんね。側に行けなくて」

「いいの。お母様に聞いたの。ばしゃからおりちゃいけない人もいるんだって。お姉ちゃんはおりちゃいけない人なんだよね?」

「本当は降りたかったの。ごめんなさい」

「あのね、お姉ちゃん、ピカピカのキラキラなの。だからいいの」

 ピカピカのキラキラ?

「この子はたまに言うんです。暖炉みたいとか、お水みたいとか。フェルナー様はピカピカのキラキラに見えたようですね」

 戸惑っていると、お母様が解説してくれた。それって、魔法属性が見えてる?

 少しおもてなしをした後、子供とお母様は帰っていった。


 その翌日、フェルナー領へ出発する。今回はフェルナー領の中でも保養地と呼ばれる別荘地に滞在するらしい。滞在期間は10日間。

 フェルナー領都では私の希望も入れて、教会と救民院への訪問と、病院の視察も組まれている。そしてローレンス様は同行していない。お仕事だから仕方がないよね。一緒に馬車に乗ってくれているのはお義母様。まず最初に向かうのは別荘地のザウスコンウェル。ここはフェルナー領でも標高が高い場所で、王都より5度は気温が低い。もしかしたら10度近く違うかも?とは事前にローレンス様が教えてくれた。

「お義母様、キラキラしておりますけれど、あれは?」

「湖よ。あの湖からティズラ河が始まるの」

 ティズラ河は王都を経てキプァ国まで、国を跨いで流れる大河だ。

「あそこから……」

フェルナー侯爵ウチの別荘は、1番良い場所に建っているのよ。王家に文句を言われちゃったらしいわ」

「よろしかったのですか?」

「ここはフェルナー侯爵領だもの。文句を言われる筋合いはありませんって、言い返したそうよ。あ、この話は今代王家じゃないから。3代前の話よ」

 そういえば別邸と別荘の違いってなんだろう?

「お義母様、フェルナー侯爵家にはいくつかの別邸がございますわよね?あちらの別荘も別邸となるのでは?」

「別荘は余暇を楽しむ為の建物よ。あの別荘は夏にしか使わないの。冬は寒いから。湖も凍っちゃうしね。別邸は季節関係なく滞在する建物ね」

 湖の名前はペアルル湖。大粒の淡水真珠が採れるらしく、名産とまでいかないけれど真珠加工業に携わる人が多いらしい。そういえばデザインを見せられたけど、私の婚姻式で使う予定のパリュールも真珠を用いた物だった。真珠とダイヤモンドね。

 パリュールはアクセサリーのセットだ。だいたい4から5点のセットで、私の婚姻式のパリュールはネックレス、ブローチ、イヤリング、ティアラ、ブレスレットのセットらしい。ローレンス様とお義母様が盛り上がっているのよね。

 ちなみにランベルトお義兄様とアンバー様の婚姻式に用いられるパリュールはイエローダイヤとブルートルマリンが使われている。こちらはすでに製作に入っていて、ランベルトお義兄様がウンウン言いながら色とデザインを決めていた。

 私のパリュールが、なぜこんなにも早くから準備されているのかというと、ティアラやネックレスに使われる、質の良い淡水真珠の数を揃える為だそう。養殖技術はまだ知られていないのか、はたまた発表されていないだけか。そこは分からないけれど、とにかく時間がかかるらしい。

 別荘に着くと、お義母様が別荘の中を案内してくれた。カントリーハウス領城タウンハウス王都のフェルナー邸と比べると確かに狭いけど、それでも十分に広いお部屋で室内には木がふんだんに使われていた。

 その他にも湖を見て楽しむ為の、広いテラスのある食事室や趣味の為の部屋など、そこそこの広さはあると思う。

「ピアノもあるんですか?」

「えぇ。キャシーちゃん、弾くでしょう?」

「ずいぶん触れておりませんから、少し不安ですが」

「ここにはね、ジルベール様がよく滞在されていたのよ」

「だからピアノが?」

「今回も来られると連絡があったわ」

 私の水魔法の先生であるジルベール様にお会いするのは、学院入学以降だ。10年は経っていないけど、6年位?攻撃魔法は一切教えてくれなかったけれど、水魔法の基礎はみっちり教えられた。サミュエル先生とジルベール先生の2人によって、光と水の同時行使という無茶振りをされたのもあの頃だった。今は同時行使で作っているブレシングアクア聖恵水も最初は水球に治癒を掛けて作っていた。

 そのジルベール様がフラリと別荘に現れたのは、私とお義母様が到着した翌々日だった。ヒゲと髪が伸び放題で、服装も泥だらけ。貧民とまでいかなくても、ボロボロのヨレヨレを身に纏って、別荘に現れた。

「久しぶりだな、キャスリーン」

 そう声をかけられてもしばらく動けなかった私は、悪くないと思う。側に控えてくれていたマリアさんに庇われ、ダニエル様がジルベール様にナイフを突きつけるまでは動けなかった。

「叔父様?」

「そうそう。キャスリーンの水魔法の先生だった叔父様だ」

「ダニエル様、離してくださいませ。わたくしの叔父様、ジルベール様ですわ」

 ものすごく警戒しながらも突きつけていたナイフを、ジルベール様から離したダニエル様は、かなりの距離をあっという間に戻ってきた。

 その頃にフェルナー家の護衛が駆けつけ、なんとジルベール様を湖に蹴り飛ばした。ジルベール様は笑いながら落ちていって、その上で髪を整えて上がってきた。

「ヒドイなぁ」

「そうせよと仰ったのは、貴方様にございますが?」

「本気で蹴ったでしょ?とっさに飛んだからダメージは無いけれど」

「失礼いたしました。お嬢様に近付く不審者かと」

「えぇぇ。ヒドイなぁ」

「とにかく身だしなみを整えてきてください。お嬢様が居られるのですよ」

「はいはい」

 今回護衛をまとめてくれているゴルド(ジルベール様を蹴り飛ばした護衛)によると、よくああして領城にも現れるらしい。その度に「本当に不審者だったらどうするつもりだ」と言われ、最終的にあの扱いになったんだとか。

 湯浴みを終えて、髭を剃り、髪も整えたジルベール様は私の先生をしてくれていた頃と変わらなかった。服も着替えて貴族らしく見える。

「本当に貴族だったんだ」

 ダニエル様が呟いた。

「本当に貴族だったんだんだよ。君はキャスリーンの護衛かな?キャスリーンも今や光の聖女様だもんね。専属で護衛が付いておかしくないよね。それにしても良い反応速度だったね。楽しみだなぁ」

「ジルベール様、彼らをお試しになるのはお止めになった方がいいかと」

「どうして?」

「ブランジット公爵家の者ですので」

「ふぅん。ますます興味深いね」

「叔父様は、武術を嗜まれておられるのですか?」

「旅暮らしだからね。野盗に襲われたりもするし、狼とか熊とかね。辺境の方には魔獣と呼ばれる変異種も多いし」

「変異種?」

「野生の動物より大きかったり、行動パターンが違ったりね。そういうのを魔獣って呼ぶんだよ」

「そうなのですね」

 今日はお義母様は別荘に居ない。ご用事で別荘を開けられている。だからここにいるのは私と護衛達、それから使用人だけだ。

 今日はのんびりしていて良いと言われたから、薬草研究会で取り組んでいる香りと薬効についての考えを纏めていたんだけど。ほら、私の植物魔法ってどの魔法を使っても花が咲いちゃうから。

「それで?この状況は?」

わたくしの植物魔法です」

「は?キャスリーンは光と水だったよね?」

「後発現いたしました。転生者に多いそうです」

「他に咲かせられるのかな?」













しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」 学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。 そこに聖女であるアメリアがやってくる。 フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。 彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。 短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。

キーノ
恋愛
 わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。  ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。  だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。  こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。 ※さくっと読める悪役令嬢モノです。 2月14~15日に全話、投稿完了。 感想、誤字、脱字など受け付けます。  沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です! 恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ
恋愛
ネイロス伯爵家の次女であるわたしは、幼い頃から変わった子だと言われ続け、家族だけじゃなく、周りの貴族から馬鹿にされ続けてきた。 そんなわたしを公爵である伯父はとても可愛がってくれていた。 ある日、伯父がお医者様から余命を宣告される。 それを聞いたわたしの家族は、子供のいない伯父の財産が父に入ると考えて豪遊し始める。 わたしの婚約者も伯父の遺産を当てにして、姉に乗り換え、姉は姉で伯父が選んでくれた自分の婚約者をわたしに押し付けてきた。 伯父が亡くなったあと、遺言書が公開され、そこには「遺留分以外の財産全てをリウ・ネイロスに、家督はリウ・ネイロスの婚約者に譲る」と書かれていた。 そのことを知った家族たちはわたしのご機嫌伺いを始める。 え……、許してもらえるだなんて本気で思ってるんですか? ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

処理中です...