3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 6学年生

王都アヴァレーツィオ邸

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 アヴァレーツィオ邸に着いたようだ。まずはアルベリク・リトルトンとサミュエル先生が降りて、事情を説明しに行った。

「マリアさん、わたくしは動かない方が良かったのでしょうか?」

「キャスリーン様は光の聖女様でいらっしゃいます。お心のままにお動きになって、誰咎める事がありましょう」

「マリアさん……」

「とか言うんでしょうけどね、本来は」

 口調がガラッと変わった。

「マリアさん?」

「本音を言うと、危険だと思われる行動は控えてほしいですよ。でもキャスリーン様はお救いになられたかったのでしょう?それがたとえアヴァレーツィオといえども。でしたら我々は従います。お気になさらずそのお力をお使いください」

 馬車のドアが叩かれた。

「マリア、お嬢ちゃんを」

「いい加減にその呼び方を変えなさいよ、まったく」

 マリアさんがドアを開けた。最初にマリアさんが降りて、ダニエル様の手を借りて私が馬車から降りた。

「お嬢ちゃん、足元に気を付けて」

「ありがとうございます」

 待っていてくれた執事らしい男性に付いていく。

「光の聖女様をお連れいたしました」

 広い部屋の真ん中の大きなベッドにアヴァレーツィオらしき男性が寝ていた。

「キャシーちゃん、ちょっと難しいかもね」

「難しい、ですか?」

「解毒したら即座に治療が必要なのと、後は呪詛が掛けられているらしい」

ディスペル解呪ですか」

 剥がされたデュベ掛布団から出た腕に、黒いイバラのようなアザが蠢いていた。

「まずはディスペル解呪。結界を張るから心置きなくやりなさい」

 たいていはディスペル解呪を行うと、呪い主の元に返っていく。いわゆる呪詛返しだ。これを行うと呪師の受けるダメージは2倍とも10倍とも言われている。呪いの返る速度は速い。それを防ぐのは結界による呪いの捕獲。呪師を見付ける為にも必要な処置だ。やれる人は少ないんだけどね。

 いうまでもなく、呪詛は違法行為。でもやる人はやっちゃうんだよね。

「いつでも良いよ」

「はい」

 先生の結界がアヴァレーツィオを覆ったのを確認して、アヴァレーツィオの手を握り、呪い元を探す。呪いの形は掛ける呪師によって違う。鎖のような呪いもあれば、イバラのような呪いもある。人にかけられた場合、共通しているのは呪いの元がアザのように見える事と、少しずつ末端に向かって伸びていく事。

 アヴァレーツィオのように濃い色のアザは、その分強い呪いだと言われている。慎重に呪いの元を辿っていく。汗が滴る。誰かが汗を拭ってくれた。呪いの元を見つけたら、一気に光魔法を強める。

『ギャァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!』

 獣じみた悲鳴と共に、呪いがアヴァレーツィオから離れた。

「解毒を」

 即座にサミュエル先生の指示が飛ぶ。解毒と同時に治療を行う。ちょっと待って。何ヵ所に傷があるの?10や20じゃ無いよ、この数。それに内臓がやられてる。毒を飲まされたんだと思う。

「せ、んせい、傷が多すぎます」

フローレスヒール完全再生は?」

「大丈夫です」

「解毒は任せて。治療を頼んだよ」

「はい」

 サミュエル先生が器用に片手で結界を維持しながら、アヴァレーツィオの解毒を行っていく。私は私でフローレスヒール完全再生を使う。

 長い時が過ぎた。サミュエル先生の解毒が終わった。後は私のフローレスヒール完全再生だけ。

 フローレスヒール完全再生が終わりに近づいた頃、不意にアヴァレーツィオの手に力が入った。

「光の……聖女様?何故、ここ、に?」

「頼まれました」

 とたんに手を離そうと暴れられる。私の手を振りほどけない位の力しかないけれど。

「いけません。手をお離しください。あなたを穢す訳にいかない」

「離しませんよ。もう少しなんですから」

 話した事で途切れてしまった治癒を、もう1度かけ直す。なおも逃れようとするので、植物魔法で眠ってもらった。アヴァレーツィオの枕の回りにラベンダーとカモミールが咲いた。非常にメルヘンな風景だ。

 治癒が終わると、禿頭とくとうのお爺さんが進み出た。

「ディストレ様をお救いいただき、ありがとうございます」

「いいえ。申し訳ございません。もしやお医者様でいらっしゃるのでは?」

「はい。ディストレ様にご信頼いただきながら、お怪我を治す事が出来なかった、情けない医者でございます」

「あれは呪詛も重なっていたからね。医師資格だけでは解決出来なかったよ。気にしない方がいい」

 サミュエル先生がこちらを見て言った。お医者様はサミュエル先生にも丁寧に頭を下げた。

 どうでもいいけど、サミュエル先生の側の人達は何を持っているんだろう?空飛ぶてるてる坊主?それとも頭の丸い一反木綿?

 もてなしをというアヴァレーツィオ家の言葉を固辞して、学院に帰る。

「先生、さっきの丸い布って何だったんですか?」

「あれはね、呪い追跡用の布だよ。魔封じの布に呪いを閉じ込めて、ワザと逃がすんだ。そうすれば呪い主に返るからね。アヴァレーツィオ家にはたくさん用意してあったよ」

 そんなにたくさんの用意があったという事は、それだけ使う機会が多いのだろう。

「フェルナー嬢、本当にありがとうございました」

 ずっと黙っていたアルベリク・リトルトンが口を開いた。

「あのような状態だったとは驚きました」

「たぶん彼だけじゃないよね?もう何名か怪我人が居たんじゃない?」

「はい」

 そうだ。彼は、ディストレ・アヴァレーツィオは、アヴァレーツィオ家の当主だ。当然彼を守る護衛もいたはず。

「その者達は?」

「すでに事切れました」

「間に合わなかったのですか?」

「怪我が癒えても毒には勝てなかったようです。ディストレ様は毒に身体を慣らしておられましたから」

 だから今日までったの?

「そんな、そんなのって……」

「これが現実だよ、キャシーちゃん。侯爵家はどうか知らないけど、私も小さい頃に訓練したからね。解毒魔法のいい訓練になったよ」

「笑って言う事じゃないです」

「権力を持っていると、こういうのは日常茶飯事だよ。アヴァレーツィオ家は特殊な家だし、対策は怠れなかっただろうし」

「……」

 私はショックを受けてしまって、声が出なかった。もちろん毒に関する知識はある。でも、毒殺が身近な世界なのだと、改めて思い知った。

「リトルトン、君はなにやら魔術研究会で研究をしてるけど、何の研究だい?」

「あぁ、結界装置ですよ。手軽に持ち運べる物をと。そうすれば馬車にも取り付けられるでしょう?」

「今のは大きいしね。少し前に魔術研究会が来てたけど、あの時のは出来たのかな?」

「まだですね。引き継いでいるのは居ますが」

 サミュエル先生とアルベリク・リトルトンが話をしている間に学院に着いた。辺りはもう、真っ暗だ。門の中に馬車を入れてから馬車を降りた。

「先生、ありがとうございました」

「間に合って良かったね。でも、キャシーちゃん、今回は特例だからね?」

「はい。以後気を付けます」

「って言っても誰かが真剣に困っていたら、行っちゃうんだろうね」

「申し訳ございません」

「反省は明日にしなさい。今日はゆっくり休むんだよ。リトルトンもね」

「はい」

 女性寮にはマリアさんが送ってくれた。取っておいてくれた夕食を頂きながら、寮母先生のお説教を聞く。

 お説教といっても無茶はしないように、という内容だった。心配したんですからね、という言葉も頂いてしまった。

 仕方がないよね。実際に心配かけてしまったんだから。















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