3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 5学年生

転生者、集合

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「まさかこれが食えるなんて。セシル、君は俺の女神だ」

「キャスリーンちゃんは良かったの?」

「フェルナー嬢も女神だ。セシルは食の女神」

「口が上手いわね」

 サミュエル先生が戻ってきた。

「先生、隣国の……」

 その言葉を聞いたサミュエル先生に、部屋の隅に引っ張っていかれた。

「キャシーちゃんは受けたい?転送部屋を利用すれば、日帰り出来るよ?」

 置かれていたソファーに座ると、私が何も話していないのに、聞かれてしまった。

「お受けしたいです。苦しんでおられるようですし」

「分かった。私が付き添うからね。外交関係になりそうだし。スティーヴンも行きたいって言ってるんだけど、侍従が止めてた」

「いつになさいますか?」

「あちらの受け入れ許可を取ってからだね。また連絡するよ」

 こそこそと部屋の隅で話をする。そういえばスティーヴンって第3王子殿下だったわよね?行きたいって事は不仲じゃない?不仲だとは言ってなかったっけ。

 ゴーヴィリス国行きが決まってしまった。誰にも相談してないけど、そこはごめんなさいして許してもらおう。

「こそこそと何の話かな?」

 ラッセル様が近寄ってきた。空いていたソファーに座る。

「ラッセル殿はフロレシア姫と面識は?」

「フロレシア姫様?面識なんてないよ。しがない文官だったんだから」

「ご冗談を。それではジョーダン・モンターギュ・エドガー殿に紹介してほしい」

「直接会えば?あっちはただの文官だよ?」

「手厳しい事を仰る。私が他国の王宮関係者に簡単に接触出来るとでも?」

「まずさ、何の用な訳?フェルナー嬢関係?」

「関係はありますが」

「あるんだ。それで?スタヴィリス国の暗黒微笑の貴公子が、ゴーヴィリス国に何の用?」

 暗黒微笑の貴公子?サミュエル先生の事?

「その名はやめてください。勘違いされるじゃないですか」

 そう言って私を見るのはやめてください。私は何も聞いていません。

 セシルとリーサさんとレオナルド様とララ様は、楽しそうにおしゃべりをしている。それを横目で見ていると、ラッセル様とサミュエル先生に大きなため息を吐かれた。

「キャシーちゃんも本来ならあっち側なんだけどね」

「フェルナー嬢、ちゃんと休むんだよ?まだ無理は利くだろうけど」

わたくしが選んだ道ですから。ご心配おかけします」

「まだまだ子供なのに」

「精神年齢は成人してましてよ?」

「それは関係ないんだよ、フェルナー嬢。別に子供らしく遊べとは言わないけどさ」

「キャシーちゃん、ものすごく聞きにくいんだけどさ、聞いてもいいかな?」

「聞きにくい事ですか?」

「フェルナー兄弟の兄の方と婚約してるけど、後悔はしていない?彼を心の底から愛してると言えるのかい?」

「……」

 それはずっと考えている。私はローレンス様が向けてくれる程の愛を返せるのか。

「以前、キャシーちゃんは彼との婚約を枷だと言った。自ら望んだって。でもね。そんな枷など無くても良いんだよ。自分で自由を狭めなくても良いんだ。私はね、キャシーちゃんが決めた事なら応援するよ。でも、良くないと思ったら反対もする。それだけは覚えておいて」

「でも、婚約の取り消しって無理ですよね?わたくしも貴族の娘です。その程度の教育は受けております」

「そこはなんとかなるよ。キャシーちゃんは気にしなくていい」

「気になります」

「僕にはよく分からないけどさ。ローレンス君のフェルナー嬢に向ける愛情って、紛れもないものだと思うんだけど?」

「キャシーちゃんが10歳になったその瞬間に、婚約受理願いを持ってきても?年齢差はたまにある事だし、王家の以前の対応が不味かったのも認める。でも、やっぱり不自然というか、キャシーちゃんの気持ちを無視してるんじゃないかって思ってね」

 サミュエル先生とラッセル様の会話が遠くに聞こえる。即答出来なかったのは、何故?

「なぁに話してんのぉ?」

 ノシッとララ様が乗っかってきた。少し前にもあったなぁ、こんな事。相変わらずお胸が……。

「ちょっと悩ませちゃってね。話は弾んでるようだね」

「セシルちゃんとレオナルドさんがね。前世が一緒だからって。でも時代が違うみたいなのよね」

「時代が違う?」

「違うわ、ララさん。イタリアは南北に長いから、北と南でけっこう差があるのよ。その話よ」

 リーサさんもこちらに来たみたい。

「少しの時代のズレはあるけど、50年も変わらないわよ」

「そういえばマルムグヴィスト嬢は、どこの国だったんだい?」

「フィリピンです。セブ島の出身です」

「セブ島かぁ。いいよね。輝く青い海、真っ白な砂のビーチ、親切で明るい人々。研究に疲れた時によく行ったよ。日がな一日、のんびりしてね。現地の美人と……っと。これは内緒だね」

「えぇぇ、聞きたぁい」

「こんなじじぃの昔話なんて聞いてどうするの?」

「いいじゃない。恋バナでしょ?」

「恋バナ……」

 ララ様とリーサさんが、ラッセル様と話し出した。

「キャシーちゃん、困らせてごめんね」

「いいえ。わたくしも即答出来なくて。以前から考えていたんです。わたくしはローレンス様に同じような愛情を返せてないんじゃないかって」

「貴族の婚約も以前とは変わってきているからね。キャシーちゃんのような年齢差も珍しくなかったし、愛の無い結婚もね、あったんだ。でも、だんだんお互いを無視して、家同士で勝手に婚約を結ぶ婚約者が増えてね。貴族法が改正されたんだよ」

「そうだったんですか」

「キャシーちゃんには幸せになってほしいからね。年齢差があるからって決めつけてしまった。もし、キャシーちゃんが彼をどうしても義兄以上に思えなかったら言っておいで。手段はあるからね」

「それは誰かを傷付けるものではありませんか?」

「大丈夫だよ」

 でも私との婚約が無くなったら、ローレンス様は傷付くよね?

「まずは自分の気持ちに正直になってごらん」

「はい」

 ラッセル様がララ様とリーサさんに気を取られている間にだろう、サミュエル先生がこっそり私に謝ってきた。アドバイスももらったけど、自分の気持ちに正直にっていうのがねぇ。難しいのよね。

 時間になったので、私は帰る事になった。ララ様は明日は休みだというし、ラッセル様とレオナルド様はもう少し滞在するんだって。

 タウンハウスフェルナー侯爵邸に戻ると、フランに湯浴みをさせられた。丁寧に髪を洗われ身体を磨かれ、新しいドレスを身に纏い、髪を結い上げられアクセサリーで身を飾り。

「フラン、どうしたの?今日は何か特別なの?」

「ご自身のお誕生日をお忘れですか?」

「覚えているけど。いつもはここまでしないじゃない」

「うふふ。お楽しみにしていてくださいませ」

 普段はここまでしない。お祝い事でも身内事だし、家族で少し豪華なお食事をする位。

 部屋を出ようとしたら、フランに止められた。ローレンス様が迎えに来てくれるんだって。

 パーティーでもないのに迎えに来てくれるの?

 不思議に思いながら待っていると、ローレンス様が来てくれた。ポケットチーフは私の目の色の緑色。

 ローレンス様にエスコートされて晩餐室に入ると、そこにはさっき別れたはずのセシルさん、リーサさん、ララ様、ラッセル様、レオナルド様が居た。

「キャスリーンちゃん、綺麗~」

「スゴい。やっぱり似合うわぁ」

「選んだ甲斐がありましたね」

 え?え?

「やっぱりお似合いだねぇ」

プリンチペ王子様プリンチペッサお姫様だな」

「皆様、どうして……」

「今日は誕生日でしょう?サミュエル先生とみんなでサプライズしちゃった」

「もしかして、今日の集まりは?」

「それも計画の内。ローレンス様に頼むの、緊張したぁ」

「ララちゃんったら、言葉が出なくてヒヤヒヤしたのよ」

「後はみんなでドレスを選んで。アクセサリーはローレンス様に任せたけど」

「皆様、ありがとうございます」

 今まで生きてきて、1番嬉しい誕生日パーティーだった。









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