3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 5学年生

騒動

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 冬季休暇が近付いた医師資格取得の特別講座で、とある騒動が持ち上がった。今年受験するはずだった2人の先輩が受験を取り止めると言い出したのだ。先輩達は今年は無理でも来年には合格出来るだろうと言われていて、先輩達も目標の医師資格取得に向けて頑張っていた。

 ちなみにこういう生徒は数年に1人は出るらしい。シェアラー先生は貴族学院の医師資格取得特別講座の担当になって長いから、「またか」と思ったらしい。リーベルト先生もシェアラー先生から聞いていたし、5年前に経験したそうだ。私の入学する直前ね。

 驚いたのは受講生達だ。どちらの先輩もそんな気配は無かったし、いつも通り集まって講義を受けて、帰ろうかという時の出来事だったから。

 その内の1人、最終学院生のアンナ・ペリシア先輩が、事情を話してくれた。

 先輩には4歳上の婚約者が居たんだけど、急にその婚約者が医師になる事を反対したらしい。

 理由は女が医師になるなど慎みがないから。急にそんな事を言い出した真意は分からない。お相手の家族も断固反対の立場を取り始めたそうだ。

 アンナ・ペリシア先輩のお家は男爵家。お相手も同格。だけどお相手の方がお金持ちらしく、折に触れてこちらの方が上だと言ってくるらしい。ペリシア先輩のご家族は医師資格取得に賛成の立場だ。女性でも手に職を持ってもいいというご家庭らしい。というかお祖母様が、代筆業で苦しい時代を乗りきった経験持ちらしく、お祖母様が影となり日向になり応援してくれていたらしい。

「彼のお家も賛成してくれていたのだけどね」

「どうして急に反対しだしたのでしょう?」

「分からないわ。突然お手紙で言われたの。医者は男の仕事だ。女だてらに医者を目指すなど我が家に恥をかかかせるつもりか。慎みの無い真似をするんじゃない。恥を知れって」

「その内容だと、誰かに何かを吹き込まれた印象だね」

 聴いていたサミュエル先生が言う。

「女性医師も増えているんだけどね」

「フォルタン領は男尊女卑が強いんです。あ、婚約者の領なんですけど」

「フォルタン領ね。一時期光の聖女、聖人を続けて出して、聖女の生まれる領として有名になったね」

「そうなんですか?」

「3代だけどね。それでも3代続けてっていうのは珍しいからね」

「それはそうですけど」

 ただでさえ数が少ない光魔法使いだ。3代続けてというのは確かに珍しいと思う。

「今は違うんですよね?」

「違うね。ここ80年程、光の聖女、聖人は空席だ」

「80年も?」

「だから行かされたんだよ」

 あぁ、そういう事情だったのね。でもそれ程だと認められたって事よね。

 この会話、サミュエル先生と私にしか意味が分からないと思う。

 医師資格取得の特別講座の教室を出て、シェーン様に送ってもらう。

「シェーン様はご存じだったんですよね?サミュエル先生の、その……」

「大まかな背景は。詳しくは知りません」

「そうなんですか?」

「ご自身の事を詳しくお話になる方ではございませんので」

「そうですよね」

 寮への並木道の途中で不意にガサリと音がした。ビクッとして立ち止まる。

「あのっ、フェルナー様」

 木立の間から後輩の女性生徒が飛び出してきた。その後ろに男性生徒の姿が見える。

「何か?」

「あのっ、あの……」

「どうなさいましたの?」

「いえ、なんでも……」

「何でもなければ声はかけられませんわよね?どうなさいましたの?」

 女性生徒はモジモジしちゃってなかなか話し出さない。男性生徒は女性生徒を応援するように見守っている。

「困ったわね。いつまでもここに居ると身体が冷えちゃうわ」

「すみません」

 男性生徒が代わりに謝っている。

「寮に行くと、あなたが入れないのよね」

「はい」

「今からどこかにとなると、遅くなってしまうし……。いいわ。寮の面会室をお借りしましょう」

 男性生徒が頷いたのを確認して、女性生徒を促す。寮母先生に話をすると、快く面会室を貸してくれた。

「まず、お名前を聞かせていただいてもよろしくて?」

「オディット・ルシエ、です」

「ディビット・ルシエです」

「ご兄妹?」

「双子です」

「そう。それで、お話があるのかしら?」

「あの、フェルナー様が光の聖女様と呼ばれるお方なんですよね?」

「そうですわね」

「ディビットの足を……」

「オディット、違うだろ?まずはオディットの手が先だ」

「だって、ディビットは跡取りだもの。私は治らなくても良いの」

「オディットは嫁入りする立場だ。その時に障害があるなんて見下されたら」

「まずあなた方は3学年生よね?オディット様はどこかにお嫁入りの話が出ているのかしら?」

「この冬季休暇に話があると聞いています」

 さんざん譲り合って、ディビット・ルシエが答えた。

「それまでに治しておきたい?そもそもなぜどちらも怪我を?」

「オディットはもっと幼い時に、野犬に襲われて、その時に……」

「ディビットは私を助けようとして、野犬に噛まれてしまって」

「2人共、無事で良かったわ。でも、障害が残ってしまった?」

「「はい」」

「少し見せていただけるかしら?」

 これまたさんざん譲り合って、まずはオディット様が私に左手を差し出した。腕に大きな跡がある。真っ直ぐな傷跡が4ヶ所。

「引っ掛かれたんです」

 引っ掛かれたというか、刃物傷よね?これ。

「ディビット様は?」

「僕は足で」

 少し行儀が悪いですが、と言いながら、ディビット様がスラックスの裾をめくる。こちらも刃物傷だ。数は5ヶ所以上。

「2人共、正直に話してくれる?これは咬傷こうしょうじゃないわ。刃物傷よね?」

「ど……して」

「これでもね、長期休暇は救民院でお手伝いをしているの。いろんな原因の怪我も見てきました。その上で判断しました。お願い。正直に話して?」

 またお互いに譲り合って、ディビット様が話し出す。

「この怪我は4歳の時に野盗に襲われた時の怪我です。オディットは逃げようとして、野盗に刺されました。僕はオディットを逃がそうとして刺されました」

「今は痛みとかは?」

「たまに痛みます」

 古傷を治す手段はある。光魔法のフローレスヒール完全再生を使えば傷跡も完全に治る。そして私はそれを使える。滅多に使うなとは言われているけれど。

「ごめんなさい。ひとりでは判断出来ないわ。明日、薬草研究会に来てくれる?」

「2人で、ですか?」

「えぇ、2人で」

 シェーン様にディビット・ルシエを男性寮に送ってもらうように頼んで、オディット様と一緒にダイニングに行く。

「護衛の方、カッコいいですね」

「シェーン様?そうね。さっきは緊張していらしたの?」

 面会室とは打って変わって明るく話すオディット様。

「はい。やっぱり光の聖女様って特別だし。こんな醜い傷跡を見せたら驚かれるんじゃないかって」

「怪我は何度も治しているし、多少の酷さじゃ動じなくなったわね。医師資格取得に向けて勉強もしているし」

「それもお聞きしたかったんです。光魔法をお持ちなのに、どうして医師資格を取ろうと思ったんですか?」

「光魔法使い単独だと、治療が出来ないから。医師の指示があれば別だし、教会では奉仕という形で施術してるけど、それは使えない手段なの。緊急時は別だけど。だから医師資格を取得しようって思ったの」

「勉強って難しくないですか?」

「難しいわね。まずはシャーマニー語を覚えないといけないし、骨格とか内臓とか見たくないって思う時もあるし。今は慣れちゃったけど」

「私も挑戦したいです」

「4学年生になったらね。そうしたら特別講座を受講できるから」

「女性って、やっぱり少ないですか?」

「男性8割、女性2割ね。でも女性希望者をバカにするような受講生は居ないわ」

「そうなんですか」

「まずはご両親に話してからね」

「両親の許可が居るんですか?」

「それが望ましいとされているわ。特に女性はね。資格は取ったけど、って事になっちゃう場合があるから」

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